夢ではなかったようだよ
幸せな光景を眺めていたら、ボロボロになったポッポちゃんがいつの間にか隣に来ていた。
「特別ボーナスはお気に召しましたか?」
「………うん。ありがとう。とても素敵な贈り物だよ」
心から、そう思える。いきなり独りぼっちで暗く深い夜の森に転移させられたのも、結果的に良かった。もし、城にちゃんと転移していたら……私は騙され、ケビンにも会えなかったかもしれない。
「そうですか。いやあ、流石は雪花様のご両親ですよ。普通なら悪霊になってもおかしくないのに驚異的な精神力で守護霊的なものにクラスチェンジしちゃうわ」
「……………え?」
「力を振り絞って雪花様を子供の姿にしちゃうわ、規格外ですよ」
「………………は?」
しんみりした気分が、一気にブッ飛んだ。あの、縮んだのは……両親が力を貸してくれたからってこと?
「うふふ、やっぱり子供の頃のイメージが強かったみたい」
「本当はそのまま小さくする予定だったんだがなぁ……片手間でやったのがまずかったか?猿を撹乱しながらだったからなぁ……」
「え、うえええええええええええ!??」
いや、そんなしれっと!??片手間で!??
「いやあ、親子だからですかねぇ。素晴らしい魔法の才ですよ。そんなわけで、特別ボーナスに、彼らはどうですか?」
「ダメえええええ!!」
「くるっぽぉう!?」
ポッポちゃんが変態白鳩マスクから、変態黒アフロ鳩マスクに変わった。香ばしい匂いがする。
「姫様の精霊は僕なの!いくら姫様の親でも、僕が姫様の精霊なの!姫様を護るのは、僕なの!!姫様、僕を捨てないで!僕は姫様の精霊でいたいよおおお!!」
ピエトロ君がご乱心である。大号泣である。そもそも、私は捨てるつもりなどない。ピエトロ君がいたから、ここまで来れた。彼には感謝しかない。今だって、精霊達を集めたりしてくれているのだ。
「捨てたりしないよ。心の声を聞いていいよ。ピエトロ君には感謝してる。わかるでしょ?」
ありったけの感謝を。この世界で一番最初にできた友人へと。
「姫様ぁ………」
ピエトロ君が落ち着いたところで、変態黒アフロ鳩マスクがフォローを入れた。
「ピエトロ、君がよくやっているのは知っています。そんな君をお役御免にするはずがないでしょう。雪花様も望まないはずです」
素直に頷いた。ピエトロ君がいなくなるのは嫌だ。
「さて、雪花様に提案です。ここにはお子さんが三人。魂が三つ。三つの魂を守護精霊にするというのは?」
「はい??」
魂が三つ………あ、コロ?コロも勘定に入ってる??唐突すぎて頭が働かない。
「じゃあ、雪斗はじいじかな。今はいいが、女の子達が年頃になったらじじいは嫌だろう」
「わーい!じいじ!じいじ、じいじじいじ!」
クルクルと父の周囲を走り回る雪斗。絶対によくわかってない。
「ワタシ達はお祖父様を嫌がったりしないわ」
「しないよ~?」
「くっ……!可愛い孫達よ!!」
父が泣いた。やはり孫は可愛いらしい。うちの子供達は、自慢のよい子なんだよ。
「私は雪那ちゃんかしらねぇ」
「ふぇ!?」
「ふふ、よろしくね」
「わ、ワタシよりも深雪の方がお世話が必要だわ!あの子ったら、常にのんびりし過ぎなのよ!」
そんな深雪本人は、マイペースにコロと遊んでいる。
「深雪ちゃんもコロが気に入ったみたいだし、雪那ちゃんはばぁばが嫌いかしら」
悲しげに俯く母に慌てる雪那。うちの長女、可愛い。
「うっ!?嫌いなわけないでしょ!」
「なら、決まりね」
あれは絶対にフリだったが、今更覆すのも無理だろう。そもそも深雪はコロが気に入ったらしく、コロのもふもふポンポンを枕に寝ようとしている。夢の中で寝たら、どうなるのだろうか。目が覚めるの?
「お子様達も異論は無いようですね。では、こちらを。こちらの魔力を吸ってほぼ精霊化しているとはいえ、まだ馴染みきってはおりません。これは異界の魂を安定させる楔です」
雪斗には首輪、雪那には腕輪、深雪には指輪が渡された。
「ロザリンドさんによる特注品です」
「え!?ロザリンドちゃんってお嬢様じゃなかったの!?」
何故か変態黒アフロ鳩マスクは白目をむいた。
「身分的には公爵令嬢から侯爵夫人になっていますから……元お嬢様……ですかね」
「そーいや結婚してたんだっけ」
「冒険者としては前人未到の新ランクに昇格、魔具製作の神と呼ばれる賢者様に弟子入りして伝説の天才鍛冶師として有名になってます」
「……………ロザリンドちゃんって何者??」
夢の中でしか会えない友人に、今更な疑問を抱いたところで、場面が切り替わるように、外にいた。祭り囃子が聞こえる。いつの間にか夜になっている。
「雪花、行こう」
「あらあら、楽しみね」
いつの間にか、浴衣で。ケビン達もいて。夢だけど、幸せだ。
私が住んでいた村は、たった一日で消えた。大雨による土砂崩れで呆気なく潰れてしまったのだ。私はたまたま、サマーキャンプに行っていて助かった。戻ってきたら家族でお祭りに行く約束をしていたが………果たされることはなかった。
「雪花!」
「………トモちゃん?」
「うん!あら?見たことない子もいるのね。あなたたちも一緒に遊びましょ!」
あの悪夢の一夜で消えた人たち。いつの間にか小さくなった私に、思い出のままの姿で話しかけてくれた。ポッポちゃんの声だけがかすかに聞こえた。これは特別ボーナスですよ、と言っていた気がする。
「雪花、行こう」
ケビンも同じくらいの年齢…………って!可愛い!!小さなケビンははにかみながらも手を引いてくれた。美少年!キャメラ!キャメラが欲しい!!
目が覚めた。うん、すごくいい夢だった。ボロボロ涙が止まらない。本当に幸せ過ぎる夢だった。
「わんわん!」
「ほーら!コロ!雪斗!とってこーい!!」
ん?
窓に走り、外を見る。雪斗とコロが、父にボールを投げてもらい遊んでいた。
「雪花、子供達は見ているからもう少し寝ていていいわよー」
母が穏やかに語りかけてきた。眠気なんぞ、吹き飛んだわ!!
「いや、あれ夢じゃ…………うえええええ!??」
こうして、我が家の家族が増えたのだった。