小さな奇跡
また呼ばれたのか、と思ったのだが……普段とは景色が違う。都会ではなく、田舎道だ。記憶が吹き出すよう。気がつけば、駆け出していた。相変わらず無人………それもそうか。これは………私の夢なのだから。
「わふっ!」
「わあっ!?」
私に何かが覆い被さってきた。抱えきれず転倒する。そうだ、うちでは犬を飼っていた。ちょっとぽっちゃりしたゴールデンレトリバーの……コロ。
「………おかえりなさい」
そんな、まさか……。そう思いながらも期待して目線をあげた先に……。
変態鳩マスクがいた。
「必殺!鳥さん召喚!!」
『こけこっこぉぉい!!』
鳥も群れるとかなりの迫力だね。ダチョウ、ペンギンが変態鳩マスクに襲いかかった。期待してしまっただけに落胆が大きかったが、コロに会えただけでも充分だ。変態鳩マスクがいるということは、ロザリンドちゃんもいるだろうか。
名残惜しいがコロから離れて母屋に……行こうとしたら、なんかいた。茂みに隠れているつもりのようだが見えているよ。
「お父さん?お母さん??」
立ち上がり、こちらへ両手を伸ばす両親。最後の記憶そのままの姿だ。
「大きくなったわねえ」
「そうだな」
「お父さん!お母さん!!」
迷わず走り、泣き出した。おかしいな。こんなに私は泣き虫だっただろうか。両親はあたたかかった。それが、嬉しかった。
「そろそろ新しい家族を紹介してくれるかしら?」
「うん!」
話したいことがたくさんある。どこから話そうかと思案していたら、大好きな声がした。
「私はケビン=カルディアと申します。カルディア騎士団で団長をつとめております。事後報告となってしまい申し訳ありませんが、ご息女との結婚を認めていただきたい!」
なんでケビンが?とか、西洋風の格好が和風建築で浮きまくっているとか、騎士服はご褒美なのかとか、色々思った。しかしいきなりの『娘さんをください!』と土下座に固まってしまった。
「あらあら~」
「………ふむ」
母は楽しげで、父は考えた様子だった。
「………ケビン君、でいいかな?」
「はい!」
「とりあえず、立ってくれ。それから……そうだな。ありがとう」
「…………は?」
土下座はやめたが、地面に座ったままポカンとするケビン。母が楽しげにケビンへ話しかけた。
「ケビン君はよくわかっていると思うけど、この子はなんでも一人で抱え込むし……泣かないでしょう?」
「それは………はい。とても強くて……可愛いと思っております。最近はようやく、少しだけ私にも荷を預けてくれるようになりました。彼女だけに負担をかけぬよう、心配りをしたいと考えています」
「泣かないんじゃなくて、泣けなくなったのよ。この子は強くなかった。でも、強くならざるをえなくなったの。私達が……親がいなくなったから……ごめんね、雪花。ずっとずっと、見守っていたわ。貴女が幸せになってくれて、本当によかった」
「お母さん……」
ヤバい、また泣きそう。そんな空気を察してか、またしても聞きおぼえがある声がした。
「ママ、そろそろワタシ達も紹介してほしいわ」
「雪那?」
我が家の可愛い子供達も現れた。これは夢だ。しかし、とびきり素敵な夢。ポッポちゃんからの特別ボーナスかもしれない。とりあえず、鳥さん達には帰還していただいた。
「まあまあ!素敵!孫にも会えるなんて!ぜひ紹介してほしいわ!」
「くうん?ママと似た匂いがするー」
「えっとー、だっておじいちゃまとおばあちゃまだものー」
「いつも会ってるおじい様とおばあ様はパパの両親で、今いるおじい様とおばあ様はママの両親よ」
「わかんないけど、わかった!つまり、ゆきのじいじとばあば!」
説明が難しかったらしく、早々に考えるのを放棄した雪斗。まあ、間違ってないからいいのかな?
「じいじ、ばあば、はじめましてー!ゆきはねえ、ゆきって言うんだよ!」
元気に走り、父に抱きつく雪斗。父も嬉しそうだ。
「ワタシは雪花の長女で雪那=カルディアと申します。おじい様、おばあ様……お会いできて嬉しいですわ」
優雅にスカートをつまみ、礼をする雪那。礼儀作法はカダルさんに仕込まれただけあり、完璧だね!
「挨拶はこうやるのよ」
「まああ、雪那ちゃんはお利口さんね!」
母に抱きしめられ、アワアワする雪那。助けを求めているようだが、尻尾がパタパタしているのでにっこり笑って手を振った。
「ゆき、スカートはいてないからできない!」
「カダルに挨拶は教わったはずよ?」
「カダル?追いかけっこよくしてくれるよ!」
あのカダルさんからも逃げ切るとは、雪斗………やるわね!後で労っておこう。
「ちゃんと教わらなきゃダメ!次からはワタシも同席するからね!」
「あらあら、雪那ちゃんが一番お姉さんかしら?しっかりしているわねえ」
「ゆきが一番お兄さんだよ!ばぁば、一番はゆきなの!」
必死で一番お兄さんは自分だとアピールをする雪斗。
「別にワタシが一番お姉さんでいいんじゃない?精神年齢はワタシが上だし」
「ゆきなの!!」
「私が末っ子の~、深雪です~」
言い争う二人に対し、やはりマイペースな深雪なのであった。ありえないほどに幸せな光景に、自然と笑顔になった。