帰りたかった場所なんだよ
目を覚ましたら、可愛い子供と大好きな旦那様に囲まれていた。幸せってこういうことを言うんだ、きっと。ああ、私はずっと欲しかった。かつて無くした、あったかい家族が欲しかった。
忘れていた……ううん、忘れようとしていた。どんなに欲しくても、手に入らないって知っていたから。
「くぅん?ママ、悲しいの?ゆきがいるから大丈夫だよ!悲しいのもやっつけるからね!」
モフモフな息子を抱きしめた。子供だからか温かくて気持ちがいい。
「く……くぅーん」
チラチラとこちらを見るモフモフ娘も捕獲した。ふははははは!逃がさん!モフモフしてやる!
「あ、ずるいー!ママ、深雪もモフモフしてくれるよね!?ね!?」
アピールする子モフモフ。もちろん全員可愛がってくれるわあああ!!なんていい夢だろうか。ポッポちゃん辺りが、頑張る私にご褒美をくれたのかもしれない。深雪も皆ぎゅうしてくれるわ!
子供達をモフモフナデナデしていたら、ケビンが来た。両手に赤ちゃんを抱いている。
「雪花、目が覚めたのか。体調はどうだ?」
「え?ちょっとだるいぐらいかな……」
あれ?夢の中でだるくなるって……あり?子供達もぬっくいし……?あれれ??てっきりポッポちゃん辺りからのご褒美かと思いきや、違ったらしい。
「娘達の名前は何にしようか。本当に幸せだな」
ケビンが産まれたばかりの双子を私に抱かせた。可愛い赤ちゃん。私達の子供。手に指で触れたら、ちっちゃな手が私の指を握った。
「そうだね………幸せだね……」
欲しかったものは全てここにある。ヤバいな、涙腺が弱くなってる。
「雪花!?」
「いたいの、ないなーい」
「おかえりなさい、ママ」
「ママ、おかえりなさーい」
慌てるケビンを宥める雪那と深雪。辛いとかじゃないんだ。今、どれほど幸せかを伝えたい。
「ケビンのおかげで幸せで……幸せすぎて泣いちゃったの。ありがとう、ケビン。雪斗、雪那、深雪も……迎えに来てくれてありがとう……………ただいま」
ここがどこであっても、私が帰るのは家族がいる場所だ。
『おかえり』
いつしか当たり前になっていた言葉の幸せを、強く感じた。
「セツね、ママ心配してたよ」
落ち着いてから話を聞いたところ、産気づいた私に気がついた雪那。これ以上は待ちたくないからと、必死で止めるスノウを無視して皆を連れてきたそうだ。スノウ、ごめんよ。
「そうなの?大変だったのね……」
「うん!毎日ママ大丈夫かなって言ってた!」
「雪斗!ボールよ!」
雪那が窓の外に投げたボールを追う雪斗。窓から出るのはやめてええええ!?いや、飛び降りて平気なの!??ここ二階!!窓の下を覗き込むと、雪斗元気にボールを追いかけていた。
「とにかく!ママの体調が戻り次第帰るわよ!」
「私は大丈夫よ?」
「ママの大丈夫ほどあてにならないモノはないわ」
これまでの無理しすぎてぶっ倒れるパターンがあったので、全く否定できなかった。
「我々は護衛の数名を残し、先行しようと思います。戦力的にも問題ないでしょうし……あまりガウディだけで仕事を回すのには限界があるでしょうから。滞在費用もバカになりませんしねえ。姫様だけでなく、産まれたばかりのご息女達に何かあっては困りますから、団長は長期休暇のつもりでいてください。今までほぼ休みなしでしたから、文句を言う輩もいません」
副団長様は先に帰るとのこと。赤ちゃんのほっぺをプニプニすると、すぐ出立します。お任せくださいと告げて出ていった。
「そういう事だ。ゆっくり身体を休め、万全の状態で戻ろう」
「うん」
私だけでなく、双子の赤ちゃん連れだ。途中でぶっ倒れる方が迷惑だろう。実質二度目の出産は、深雪の時よりだいぶ楽ではあったものの疲労は否めない。
頼りになる家族に、ちゃんと頼ろう。ようやくそう思えて、笑顔でうなずく事ができた。
思えば、ずっと走り続けていた。あまりよく覚えていないが、両親を事故で亡くしてから……ずっと何かに追われるかのように過ごしていた。こんな風に『休もう』なんて思えなかった。友人はいたが、頼るなんて考えもしなかった。
思い出さないように蓋をしていた。
振り返る余裕もなかった。
きっと今だから、思い出せたのだろう。
誰かに頼り、頼られること。自分にとっての家と家族。昔、確かにあった両親に愛されて幸せに暮らした記憶。
「……ケビン」
「ん?」
「日本での事……聞いてくれる?小さな頃の、他愛ない話なんだけど」
穏やかな日常の、面白くもない話だ。それでもケビンは笑顔で頷いてくれた。
「ああ、もちろんだ。楽しみだな」
「ゆきも聞く!」
「ワタシもニホンに興味があるわ」
「みゆもー!」
家族に囲まれて、ケビンじゃないけど夢みたいに幸せだなあと思った。聞いてほしい。向こうで確かに、幸せな時間があったって事。私の両親がどんな人だったか、どんな所に住んでいたかを。忘れようとしていたものを、知ってほしい。
「雪花のような天使がどのように育ったか……興味深いな」
「向こう基準では、私は普通だからね!??」
相変わらず異世界ギャップには慣れないけど、いつかは私もこっちにそまるのだろうか。その頃には、もっと賑やかになっているに違いない。そう思えて、自然と笑顔になるのだった。