色々とやめてほしいんだよ
私がいるからなのか、武装した騎士に怯えているのか、黙ってついてくる変態鳩マッスルが恐ろしいのか。よくわからないが、私達は誰にも邪魔されずに玉座までたどり着いた。
「迎えが参りましたので、帰りますわ」
用件を端的に伝える。まあ、それだけで済ませるつもりはないけどね。
「………姫君。私との『約束』はどうなさるおつもりで?」
馬鹿だなぁ。帰る=解決したってことだよ。いるとわかっているものを見つけ出すのは難しくない。スノウと連絡を取って間者は全て捕縛済みだ。
「もう捕まえましたから、取引の意味はなくなりました。それから、貴方との会話はバッチリ録音しております。それが国王陛下の意思であることも。これでもわたくしは『第二王子妃』ですから、相応の報いを受けていただくことになりますわね」
「第二王子妃?しかし貴女は騎士団長の……」
「その騎士団長こそがカルディア第二王子、ケビン=カルディア。つまり、俺の事だ。我が最愛の妻を拐い、監禁した罪………万死に値する!!八裂きにしても飽き足らぬ!!」
ケビンが激おこだ。カッコいい。案外ケビンが第二王子だと、他国には知られていないそうだ。元側妃のせいで半分隠居暮らしだったから社交の場に王子として出ることはなく、騎士団長としての武勲が有名だったから。
辛うじて耐えているが、相手はケビンの殺気が混ざった怒気に気圧されている。ああ、なんと凛々しいのだろう。惚れ直してしまう。足りなかったモノは、満たされた。世界一安心・安全な場所に戻れた。後は子供達がいれば完璧。はぁ、幸せ。
イチャイチャしたいけど、今はそんな場合ではない。大人しくしているべきだろう。背後で様々なポージングをしている鳩マッスルは見ないことにした。
「そうですね。爪を一枚一枚剥がして……………をして☆☆☆☆☆をしても足りません。ようやく幸せを掴んだ団長をこんなに傷つけるなど、到底許せるものではありません」
副団長様がヤバい。副団長様って普段厳しいけど、ケビンが大好きだよね。このままでは国王を捕縛して拷問ショーが開催されかねない。ここは私が頑張るべきだろう。ええとこう……女王様っぽく行こう。
「好きな方を選ばせてさしあげますわ。服従か、死よりも辛い拷問か。ああ、わたくしのお願いを聞いてくださるなら……少しは減刑してあげてもよくってよ。わたくしは別によろしくてよ。陛下が死のうが生きようが、興味がありませんもの。断ったら、この国は白き鳥に埋め尽くされるでしょう」
『こけこっこぉぉい!!』
変態鳩マッスルズが一斉に敬礼した。マジか。マジなのか。
「その異形は姫君の仕業だったのか!?」
「正確には、わたくしと神の使徒ですわね。で、どうなさいますの?」
「………服従を」
国王は肩を落とした。よしよし。こないだお義兄様が難民に嘆いていたから、そこもどうにかしよう。カルディアで使った草案の写しを広げる。
「欲しいのは、孤児院、学校、職業訓練校ですわね。ざっくりではありますが、財政上の問題点も記載しております。汚職の証拠もこちらに」
「は!?これ機密書類じゃないか!!」
目をそらすイケメン貴族達。そうよね。国家予算って機密書類だよね。普通誰でも見られるものじゃないよね。お願いしたら持ってきてくれたよ。
「それで財産没収したら賄えますよね?」
できないとは言わせない。
「だ、男女共学!?無償の学校!?奨学金!?留学!??」
私を拐ってきた貴族が書類を覗きこんだ。
「これは、カルディアで実際に行われているのですな」
その通りなのでうなずく。とはいってもまだ試作段階で、まだ学校は一部しか整備できていない。高等学校に数人が編入したぐらいかな。これから、さらに進めていくのだ。そして、自由な女性が増えればいい。そして、自由になった女性達がさらに広めてくれたらいい。
私一人にできることなんて、たかがしれている。だから『教える人間』を増やして、広めるのだ。それがこの世界での『常識』に変わるまで。人生を費やしてもできるかはわからない、壮大な計画だ。
だが、ラトビアちゃん達がいる。ミンティアちゃんみたいな人もいる。肉の器を得る予定の精霊達も。だから、私はこの計画が不可能ではない、と信じている。
「まあ、わたくしが今回蒔いた種が芽吹くのはまだ先でしょう」
差別や偏見、習慣はそうそうすぐに変わらない。変えられない。焦ってはダメだ。着実に進んでいるんだから。
「ええ、そうですわ!我らが姫勇者、万歳!!」
『万歳!!』
『こけこっこぉぉい!!』
「姫勇者様、万歳!!」
『こけこっこぉぉい!!』
「姫勇者様、こけこっこぉぉい!!」
『こけこっこぉぉい!!』
ついに、万歳が消えた。こけこっこぉぉいってなんやねん。
「ブフォッ!ぐひゅっ………」
サズドマが床に転がって痙攣しているのにムカついて、ケビンから降りて踏んだら喜ばれた。最近忘れていたが、サズドマは変態だった。
「はぁはぁ………もっとォ………」
「絶対ノー!!」
素早くケビンが抱き上げてくれた。ああん、旦那様頼りになる!好き!
「こけこっこぉぉい!!」
『こけこっこぉぉい!!』
この謎の輪唱は、数時間も続いた。控えめに言っても、意味がわからない。ただ、気がついたらタイタンの国王も輪唱しており、こけこっこぉぉいには中毒性が…………。
あるわけない。
精神的にすごく疲れたので、さっさとカルディアへ帰還することになった。
なにこれwww