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尻を蹴飛ばしてやったんだよ

シャザル視点になります。

 僕たちにとって、団長といえばケビン=カルディアを指す。不憫団長なんて昔は陰口をたたかれていたが、素晴らしい奥様を貰ってからは羨望の的だ。あんな奥さん、僕も欲しい。

 不憫団長と言われていた頃だって、団長は勇猛果敢で常に先陣に立ち、この国を守ってきた。騎士団が経済的に苦しくたって誰もやめなかったのは、団長がいたからだ。騎士団の騎士は、皆ケビン=カルディアに憧れている。その強さ、優しさ、賢さに。見た目がなんだと言うのか。僕らの団長はすごい人なんだ。ようやく、それが認められた。団長は幸せになった。



 しかし、その奥方である姫様こと、雪花=カルディア様が失踪した。



 探さないでください。私は大丈夫です。そんな書き置きだけを残し、子供も連れていかなかった。連れていったのは、当時護衛だったサズドマとヘルマータだけ。姫様に何かがあったのは間違いない。もし出ていきたいのなら、愛情深い彼女は子供も連れていくだろう。それをせず、護衛のみ連れていったのは……彼女が危険な場所に行かざるをえなかったからではないだろうか。


「雪花……」


 そして、大事な奥方様が消えた結果、団長は脱け殻みたいになってしまった。立派な体躯を丸めて、しくしくメソメソと姫様を呼んで泣くのだ。すでに、三日経っている。わかったのは、姫様は他国に行ったこと。拉致ではなく、自分の意思による移動だという事。

 状況が状況なので、副団長二人も下手なことを言えず、オロオロしている。







 とりあえず、いい加減にしてくれないかな?






「ギャン!??」


 団長の尻を容赦なく蹴った。クビにするなら好きにしろ。


「団長、見損ないました!」


「しゃ、シャザル??」


「僕らは、僕とサズドマは団長に憧れて騎士団に入りました。団長は覚えてないでしょうが、僕らは団長に命を救われたことがあるんですよ。生活が苦しくても辞めなかったのは、団長を尊敬していたから。騎士として、団長みたいに町を守りたかったからです!団長は僕らの憧れでした。それが、なんですか!姫様がいなくなったからって、毎日メソメソメソメソメソメソ!!そんな男じゃ、姫様だって逃げますよ!というか、姫様に失礼です!!そもそも、姫様が好きで出ていくわけないじゃないですか!あんたあの人のナニを見てたんです!?姫様は黙って子供を置いていくような無責任女じゃないでしょうよ!!なんか理由があったに決まってますよ!!ウダウダしてる暇があれば、理由探して、姫様探して、連れ戻せええええ!!」





 ああ、うん。ヤッチマッタ。




 普段、僕はサズドマのフォローばっかしているから大人しいと思われがちだけど、全くそんな事はない。僕をよく知る人は言う。サズドマもサズドマだけど、シャザルもシャザルだよな、と。


 僕もそう思うよ。年に一回ぐらい、こんな感じで大爆発するんだよ。大体サズドマが被弾するんだよね。あいつ、いつもやらかすから。僕のストレスは大半がサズドマ絡みだし。


「シャザル」


 いくら寛大な団長とはいえ、上官の尻を蹴飛ばしていいわけがない。ああ、やっとまともなご飯も食べられて、ちゃんと備品がもらえて、近衛騎士団とも仲良くなったのになあ。


「…………はい」


「ありがとう」


「…………………はい??」


 何故お礼??


「シャザルのおかげで目が覚めた。俺が雪花を疑うなど、あってはならない。彼女は………もし心変わりしたならキチンと言ってくれるはずだ」


「そもそも姫様は団長が本気で好きなんですよ?その前提は間違ってます!あんなに好き好き言われて愛されて、子供まで作ったのに疑ってるんですか!?」


「雪花はあんなに可愛くて綺麗で性格もいい。そんな女性がこんな醜男だけがいいと言ってくれた。信じたいが……自信がないんだろうな」


 うん、よし。クビになるなら、我慢しないで全部ぶちまけよう。


「馬鹿ですか?」


「しゃ、シャザル?」


「姫様がかわいそうです!!あんなに団長を好きだって言ってたのに!自信がないだあ!?甘えてんじゃねえよ!!僕をこれ以上失望させるな!!優先順位を間違えるな!!あんたがためらったせいで姫様が辛い思いをしていたら、どうするつもりだよ!?姫様は絶対、あんたを待ってる!!」


「!!」


 オドオドしていたのが嘘みたいに、凛々しい表情に変わった。ようやくスイッチが入ったみたいだね。


「イシュト、ガウディ」


「「はっ!」」


「これより、俺は妻を探しに行く」


 うん、よし。この表情。これこそが、僕が憧れた騎士団長だ。


「いえ、団長。人探しは個人より人海戦術が早いです。ある程度は掴んでおりますが、潜入に長けた人材を捜索任務にあてましょう」


「ヘルマータも失踪している事から、恐らくは同行していると思われます。近衛からも人員を要請しましょう」


 オロオロしていたのが嘘みたいに、キビキビと指示を出す副団長達。


「シャザル」


「はっ!」


「本来、団長を立ち直らせるのは私の役目でしたが……私も素晴らしすぎる婚約者を得たせいか、団長に共感してしまい取り返しのつかない事をするところでした。ですから今回だけは、団長への暴力は不問にします」


「あ、ありがとうございます!」


「成長したな、シャザル」


 穏やかに微笑むガウディ副団長。あの………正直キレただけですよ?


「あ、サズドマが一緒ならコレが使えると思います」


 丸い魔石のペンダントを取り出した。対になった石を感知できる。どれだけ距離が離れていても、色が片寄り石のある方位をしめしてくれる。主にサボるサズドマ発見のためにお守りだと嘘をついて(いや、簡単な防御魔法も入っているから完全に嘘でもないが)持たせていた品だ。

 ちなみに兄用もある。逆に位置を感知して逃げるためだ。すごく便利。スノウさん、ありがとう。


『でかした、シャザル!!』


 説明したら、すごく喜ばれた。クビになる危機も脱したし、反撃開始だね!!


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