デートは楽しかったんだよ
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう…とはよくいったもので、もう帰る時間になってしまった。
「あ、お土産買いたい!」
「オミヤゲ?」
そもそもこちらにお土産という概念が無いらしい。
「うん!いい子でお留守番してた子供達にと、子供達を見てくれてたカダルさんやじい達にと、いつもありがとうという感謝を込めてスノウや護衛の騎士さん達にも!お出かけできたのは皆のおかげだから、お礼にプレゼント!」
「それはいいな。俺も一緒に選ぼう」
女子には私が選び、男子にはケビンが選んだ。
「雪那にはこれ!絶対これ!」
繊細な意匠の、金属で作られた栞。白百合が描かれていて、上品ながらも可愛らしい。
「ああ、そうだな。雪那が喜びそうだ。シロウにこれはどうだろう。そろそろあいつにも武器を誂えてやらんとな」
ケビンが見せたのは籠手。訓練用のがボロボロだったんだって。
「深雪にはこれかな!」
フカフカなクッション。昼寝大好きな深雪はきっと喜ぶに違いない。中身の素材は知らないけど、マシュマロみたいでふわっふわ。ケビンに耳とかつけてもらってもいいかも。
「雪斗は……これだろうか」
お気に入りの鈴入りボールがついに寿命を迎えて大破したらしい。以前の赤ちゃん用ではなく、頑丈そうな鈴入りボールだ。
「きっと喜ぶよ!」
さて、次を探そうかなっと手元に視線をやったら、ケビンが穏やかに微笑んでいた。
「どうしたの?」
「ああ、すまない。今日はすごく楽しかったし、今もすごく楽しい。雪花がいなかったら、こんな風にオミヤゲを選ぶことなどなかっただろうな。君を信じてよかった。怖いくらいに幸せだよ」
「じゃあ、怖さなんか忘れるぐらい、ずっとずっと幸せにしてあげる。幸せを日常にしてあげるよ」
「…………ああ。雪花がいれば、そうなんだろうな」
至近距離でのイケメンボイスは卑怯だと思います!ときめくからやめてください!大好きだ!
「雪花?」
「うう……ケビンのセクシーボイスは心臓に悪い……ときめくから囁かないで!普通のトーンで喋ろうよ!」
しかも不意討ちだから、めっちゃ赤面したじゃないか!
「………ときめく、のか?それは光栄だな」
「ぴっ!?」
私は忘れていました。うちの旦那様はわんこみたいに可愛くて無害に見えますが、立派な狼さんなのです!
「今日は俺ばかり翻弄されていたな。だが……たまには雪花も翻弄されるべきではないか?」
「毎晩翻弄されてます!」
主に夜はほぼケビンが主導だよ!恥ずかしいからあんまり思い出したくない!
「…………そうか?雪花は特に、俺の声が好きなんだったな?」
「その立派な大胸筋もフカモフボデイも……ぶっちゃけ見た目がどストライクです!最初から外見が好みで気になってました。今でこそ外見や声より内面が好きでたまらないけど!」
「…………俺もだ」
こ、ここまで言ってもケビンが照れない………だと!?いや、ちょ!真顔はやめよう!こっちではブサメンかもしんないけど、私には極上のイケメンなんだよ!!
「……最初は、庇護すべき可愛い子供だったが……あの時、初めて見た大人の雪花に一目惚れした。知れば知るほど夢中になった。最初は雪花の美しさに惹かれ、今は雪花の内面を愛している。たとえ雪花が醜くなったとしても、変わらず愛せるだろう。君は俺の幸せだ。君はここに来たくなかっだろうが……俺は本当に幸運だった。雪花に会えて………幸せだ」
「ケビン……」
そして、ケビンはモフモフ化して倒れた。
「ケビィィィィィン!??」
いや、変だなとは思ったんだよ。いつもなら、照れて叫ぶじゃないか。
「あっつ!?熱!?」
護衛していた騎士さん達に手伝ってもらい、自宅に運んだ。すぐお医者さんを呼び、診てもらった。ただの風邪だった。
「ぼっちゃまが風邪をひくなど、約二十年ぶりにございますね」
じいがおだやかに微笑んでいた。
「そうなの?」
「はい。恐らく、お頭が居なくなって……ずっと気をはっておいでだったのでしょう。若奥様にお会いする前のぼっちゃまは、いつも笑っておいででしたが心からの笑みではなかったように思います。若奥様のおかげで、ようやく力が抜けたのでしょうね」
「なら、いいけど」
冷水にひたしたタオルを絞り、ケビンの額に乗せる。気休めだが、しないよりはいいだろう。
「ええ。じい達は若奥様に感謝しておりますよ。若奥様がこの家にきてから、ぼっちゃまも私たちも楽しいことばかりです」
そう言って、じいは退室していった。そうならいいな。ケビンの頭を撫でたら、気持ちいいのか穏やかな表情になった。