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またしても異世界ギャップだよ

 次にケビンは高級感溢れるお店に行った。予約していたようなやり取りをすると、立派な部屋に通されて支配人を名乗る男性が挨拶に来た。


「お待ちしておりました」


「妻に似合いそうな宝飾を見繕ってくれ」


 ケビンさんは、まだ買う気だ。どんだけ私に貢ぐおつもりなのだろうか。気が遠くなりかけたが、あることを思いついた。うおお、ベタだ。ベタすぎる。ベタベタだ。だが……ケビンはきっと喜んで頷いてくれる。


「け、ケビン、待って」


「ん?ああ、妻の意見も聞いてくれ」


「う、あ、その………オーダーメイドは可能ですか?」


「もちろんでございます。ただ、その分お値段はかかります。どういった品を……少々お待ちくださいませ。デザイナーを呼んでまいります」


 パッと見ただけで、ここは女性のための店なんだとわかる。そもそもマジックアイテムじゃないかぎり、男性はあまり宝飾を身につけない。貴族は多少身に付けるらしいが、女性と違って控えめだ。


「お待たせいたしました。彼がこの店専属のデザイナーでございます」


「…………ドーモ」


 接客担当の支配人がデザイナーの青年をスゴい顔で睨んでいる。普段デザイナーの青年は裏方なのだろう。仕事中だったのかも。申し訳ないな。


「あの、ワガママを言ってしまい、すいません」


「……………は?」


「ただ、恐らく私が欲しいものはオーダーメイドでないと手に入らないと思ったのです」


「………………へえ………どんなもの?」


 どうやらデザイナーの青年は話を聞く気になってくれたようだ。


「指輪を、二つ。私と主人が普段……毎日つけても邪魔にならない揃いのものが欲しいんです。あの………ケビン、その……指輪、欲しいの。リボンとかは毎日は無理だし、日本だと結婚指輪っていうのがあってね?シンプルな指輪なら、つけてくれる?無理ならネックレスで首から下げてもいいし!ね?お願い!」


「…………くうっ!」


 何故ケビンはモフモフ顔で真っ赤になって悶えて……支配人さんとデザイナーさんも同じ症状で倒れてはる。何故に。


「お揃いの指輪、欲しいのとか、ナニソレ可愛い……」

「ぬああ……可愛い……お願いとか言われてぇぇ!」


「…………………………」


 来たよ、久しぶりの異世界ギャップキタコレ。意味がわからないよ。そして、どうしたらいいんだ?コレ。


「…………失礼いたしました。奥様があまりにも可愛らしいので取り乱しました。なんと羨ましい……」


 プロ根性なのか、支配人さんがまっさきに復活した。


「ガルル……」


 ケビンがまたしても人語を失っておる。何がそんなにクリティカルだったんだろうか……解せぬ。わりとツボはわかるようになったと思ったんだけど、まだわかんない部分があるんだなぁ。


「指輪作るんで、結婚してください」


 私の手をデザイナーさんが握った瞬間、デザイナーさんが瞬間移動……いや、ケビンがぶん投げ、支配人さんが蹴り飛ばした。え?何?友情のツープラト………ン??うええ??


「とりあえず、私の夫は彼だけと決めておりますのでお断りいたします」


 とにかく結婚はお断りした。私の旦那様はケビンだけ。そこは大事だから伝えておいた。


「くっっそ羨ましいぃぃ!!えええ、いいなぁ、いいなあ!兄さん、どうやってこんな天使を射止めたんすか!?」


 ナゼ異世界の人々は私を人外認定したがるんだ。解せぬ。


「ガウ!?えっと……その………よくわからん」

「可愛いからです」


「「……………………」」


 あ、それはないって顔をされた。ならば、理解させてやろうではないか!


「私は異世界の住人ですから、そもそも美的感覚がちょっとこちらと違います。まず、見目が非常に好みでした。このたくましい見た目ながらちょっぴり誉めただけで真っ赤になっちゃう可愛さ。怪我をしてまで私を癒すために蜂蜜を取りに行った優しさと健気さ。さりげなく見せる気遣い。たくましくて、頼もしく、可愛い彼を知れば知るほど惹かれました。おまけに、かなり脈がありそうなご様子でした。ですから、むしろ押して押して、私が彼に『妻にしてもらった』し『選んでもらった』のです。彼に優しくされるたびに好きになって、私が彼を幸せにしたいって思ったのです。うちの旦那様、本当に素敵なんですよ。お仕事が忙しくても私の仕事まで手伝ってくれるし、子供もすごく可愛がってくれます。私を自然と甘やかしてくれるから……その、正直私は可愛げがない女なのですが……彼にだけは素直に甘えてしまうのです。私がもし、可愛いのだとしたら……彼が私を変えたからでしょうね」


 ちょっと恥ずかしいなと隣のケビンをチラ見したら、尻尾をソファに激しく叩きつけながら痙攣していた。全身赤い。


「ケビィィィィィィィィィン!??」


 久しぶりにめっちゃ叫んでしまったよ。病気かなんかかと焦ったが、照れすぎて悶絶していただけだった。そんなにか。でも、事実なんだ。誰かに頼るとか、お願いするのが今まですごく苦手だった。そんな私に頼っていい、甘えていい……むしろそれが嬉しいのだと言ってくれたケビン。そんな彼が大好きなのだ。


「………夫はなかなか私の好意に気がついてくれなかったんですの。こうして照れてくれるのは、私の好意が本物だと信じてくれたからですよね?ケビン、大好き」


 モフモフの首に顔を埋める。完全に獣化すると服はペンダントにしまわれ、半獣または人化すると戻るようになっている。便利だね。それはそれとして、毎晩のブラッシングによりケビンの毛並みは極上のモフモフ。しかも、お日さまみたいな匂いなんだよ。抱きしめてスリスリ。はあ………幸せ。


「ガウウウ……ぐう……あ、あまり可愛い事を言わないでくれ……こ、これ以上言うと、君を屋敷に連れ去りたくなる」


「あら………指輪の注文をしてからならいいよ。私はケビンの妻だもの」


 そもそも今夜は新しい下着でお楽しみ予定だったしねぇ。


「お腹にいる子供のためにも……ね?」


「あ……アオオオオ!!ルオオオオオ!!」


 抱きついているので逃げられないが、ケビンは必死に鳴いた。自分で言ったくせに~。はっはっは。逃がさな~い。


「はあ………可愛い」


「きゅ、きゅうん……」


 ケビンが珍しく自分からスリスリしてきた。ケビンが……甘えた………だと?さらにぎゅうぎゅう抱きしめる。可愛い!!好き!!


「…………………あれに割って入るのは無理かぁ……いいなぁ……」


「気持ちは解るが……仕事しろ」


 しかしケビンが状況を思いだし、慌てて部屋の隅で丸くなるのであった。隠れてないよ。可愛いよ!でもこれ以上やると窓どころか壁も破壊しそうなので我慢した。家で愛でると決意した私だった。あれ?そういえばなんの話をしてたっけ?

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