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お買い物は楽しいんだよ

 劇場の外に放置しておいた人は回収されたらしい。泣きじゃくりながら劇場から出る人の中に、さっきのご令嬢がいた気がしたが……気のせい?


「雪花?」


「なんでもない」


 気のせい、だよね?とデートを楽しむことにした。


「ケビンがどこに連れていってくれるか楽しみだなぁ」


「任せてくれ!」


 うん、尻尾をフリフリするケビン、かわゆす。ケビンに案内されて入ったのは、可愛い小物屋さんだった。可愛い陶器がたくさんある。でも、うちティーセットたくさんあるしなぁ。置物は……うちの小物、すごく好みだから追加が欲しいとは思わない。


「あ……可愛い」


 小さな赤い花と大輪の青い花模様のティーセット。赤は忌避色なので赤色の花は珍しい。縁は銀色。派手すぎず、地味すぎない。ティースプーンや大皿、平皿、スープボウルもある。売れていないのか、片隅にあった。


「欲しいのか?」


「う……………………うん」


 欲しい。すごく欲しい。家族分って事で全部買いたい。ケビンの銀もアクセントに使われているだけでなく、とても繊細な意匠なのだ。大輪の花は青いバラ。私の好みにどストライクだった。


「そうか。店主、ここにある分を、全て包んでくれ。屋敷に送ってもらえるか?ここにいる妻への贈り物だ。丁重に頼む」


 まさかの大人買い!?オロオロする私を見て、店主さんは穏やかに頷いてくれた。


「ああ、奥方様はお目が高い。これは新進気鋭の職人が作った試作にございます。赤は忌避色ゆえ、なかなか売れませんでしたが……これも縁でございましょうか。奥方様は旦那様のお色が好きなようですなあ。大事にしてくれそうな方に売れて、わたくしも嬉しゅうございます」


「アオン!?」


 ケビンが動揺している。かわゆす。


「はい……夫の色の食器は珍しいので、欲しくなってしまいました」


 ちょっと恥ずかしいが、肯定した。ケビンカラーだから欲しくなった。寝室を真っ黒にしたケビンと同じだ。そう思うと……なんか嬉しい。


「アオン!??」


「ほら、あなた。貴方の瞳と同じ花が描かれているでしょ?縁は銀だから、貴方の髪の色だわ」


 手を繋いでケビンに解説すると、真っ赤になってしゃがんでしまった。


「雪花は俺を喜ばせる天才だな。まさか贈り物をした側が、逆に嬉しくなるとは思わなかった」


「あはは、私も喜んでるよ。素敵な贈り物をありがとう。家族内でのお茶会で使うのも、いいなあ」


 いや、いっそ仲良しなご令嬢達ならばイケるかも……?流行らせちゃうか?


「そうだな。きっと楽しい」


 うん。とりあえずは、家族でお茶会をしよう。使うのが楽しみだなぁ。雑貨屋さんを見て回ると、使いやすそうな万年筆があったのでコッソリ買った。黒でシンプル。後で渡そう。


「もういいのか?」


 ケビンは私にたくさん買い与えたいらしい。


「いいの。また二人で、お買い物するからね。あんまりたくさん買ったら、次に買うものがなくなっちゃうでしょ?」


「そうだな、次がある」


 ケビンも納得してくれた。次に案内されたのは洋品店………だったのだが……。


「これもいいな………ああ、だがこれも………雪花の象牙色の肌に似合う色が多すぎる!」


 ケビンがめっちゃ楽しんでいる。かわるがわる私に布をあて、色を確かめているのだ。どれだけ買う気なのだろうか。布だけではなく、靴やバッグといった小物も合わせている。総額がいくらになるのか、とても恐ろしい。

 なので、ケビンの思考力を奪ってやる事にした。


「ここ、下着も取り扱ってます?」


「もちろん、ございますよ」


「ケビン、選んで」


「……………………え?」


「今夜はケビンが選んだやつを使うから。あ、勝負ができそうな奴もいくつか持ってきてください」


「かしこまりました!」


 そしてケビンの前に並べられた卑猥な布達。ケビンはモフモフなお顔だが、毛皮があってもわかるほどに顔が赤い。


「わ、これはスゴい」


 布どころか紐だね~。わ、これエグい。ケビンは固まっていた。


「ほら、好きなの選んで?」


「が、ガウ…………」


 もはや人語が話せないレベルでテンパっているようだ。眺めていたいが、あまり見ていると選びにくいかもしれない。


「私も他を見てるから、いくつか買ってね」


「ガウ………」


 頷いたが、頭を抱えてしまった。ケビンが私の事だけを考えている姿は、優越感を満たしてくれる。その姿に満足しつつ、男性ものの服を物色した。






「ねえ、ケビン。大好きな旦那様にお願いがあるの」


「ワオン!?にゃにゃにゃにゃんだ?」


 私が選べと言ったから選んでいただけなのに、慌てて卑猥な布達を隠すケビン。かわゆす。


「これ着て」


「ワオン?」


 ケビン自身、筋肉的な意味でナイスバディだから、シンプルな服が似合う。シンプルながらさりげなく刺繍が施された仕立てがいいシャツとズボン。そして仕上げに髪を青いリボンで結ってあげた。


「うん、やっぱケビンの気持ちもわかるわ。自分が選んだ服を着てもらえると嬉しいね。あ、これそのまま着ていきます」


「かしこまりました」


 女性の服は夫作か既製品だが、男性の服は既製品がメジャーなんだそうな。着ていた服を包んでもらう間、さらにおねだりした。


「このリボン、つけてほしいの。ベタだけど、お揃い。いやあ、やってみたかったんだよね。恋人とお揃いとか」


 やってみたくはあったが、提案したことはなかった。こんなに心を許して甘えたのは、ケビンだけ。


「………貸してくれ」


 見事な手つきで髪型が変わっていく。珍しく三つ編みにされた。ケビンのように片側に流す。髪、伸びたなぁ。ケビンが丁寧にケアしてくれるから、枝毛もない。


「嬉しいな、お揃い」


 はにかんだケビンに突進して頬擦りしていたら、着てきたケビンの服を持ってきた店員さんに笑われてしまった。


「す、すいません。あまりにもお二人が微笑ましかったもので…とてもお似合いなご夫婦でございますね」


「ありがとうございます」

「げほっ!?ぐっごほっ!あ、ありがとう」


 とてもお似合いなご夫婦はセールストークだったとしても嬉しかったので、布と下着をたくさん買い込みました。マンネリ防止は大事だよね!

そして、下着を送るか持ち歩くかでまたしても頭を悩ませるケビンさんであった。

※気の利く店員さんのはからいで、開封しないようにと書いてもらって送りました。

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