強制休暇なんだよ
雪花=カルディアは、ただいま休暇中。過労により倒れた私はしこたま娘に叱られて、強制休暇となったから。看護休暇を取得したマイダーリンに介護されている状況……いや、介護はいらないと思うよ!
「ケビン……」
「ふーふー、あーん」
慈愛に満ちたうちのわん……旦那様からあーんをされる。
「……………あーん………」
マサムネさんのご飯は今日もおいしい。おだしがきいた雑炊、すごくおいしい。でも、自分で食べられるのに食事介助されているのがいたたまれない。しかも膝抱っこ。子供達の前なのに膝抱っこだ。
「ケビン、自分で」
「次はどれがいい?ダシマキタマゴ、好きだったな?」
「………………そうね。それで」
だし巻き玉子おいしい………ではなく!ケビンに意見を言おうとしたら、雪那が話しかけてきた。
「ママ、諦めなさい。それに、そんな幸せそうなパパに『一人で食べるわ、うざい』と伝えるつもり?」
「!??」
「違うから!ウザくないから!恥ずかしいだけだから!」
ケビンがこの世の終わりみたいな表情をしたので、必死にフォローする。雪那はニヤッと笑うとしっかり釘を刺していった。
「パパ、ママのお世話をよろしくね。絶対に働かせたらダメよ。全力で休ませてちょうだい」
「任せておけ!」
「いつまで食べているのよ!深雪、行くわよ!雪斗、行く前にトイレに行ってきなさい!」
「むぁ?」
「わん!」
マイペースな深雪は聞かなかった事にしたのか、何もなかったと言わんばかりに雑炊をはむはむしている。たしか三杯目だ。
雪斗は走り去った。きっとトイレに行ったのだろう。
「みぃぃゆぅぅきいいいい!!」
「朝ごはんぐらいゆっくり食べたいのぉぉ!」
雪那に引きずられる深雪。楽しげにそれを追う雪斗。
「ママ、仕事はこのワタシが完璧にこなしてあげるから、ゆっくり休んでいなさい」
雪那たん、もはや母の風格だね!うちの娘、イケメンすぎる!
「いってらっしゃい」
「気をつけてな」
「「「行ってきます!!」」」
さて、監視役の雪那がいなくなったので、たまっていたお仕事…………が取り上げられた?
「休みは休みなさい。ずっと働きづめだっただろう?雪花がここに居てくれるだけで俺は幸せだ。どうしても落ち着かないなら、で、でぇとをしないか?二人だけでいるのは、久しぶりだろう?」
「………………………うん」
昔、日本にいた頃の悪い癖。ワーカホリックなのは自覚している。ついつい自分でなんでもやらなきゃって頑張りすぎていた。
「よし、行こう」
「ちょ、ケビン!ケビンさん?」
今日、私一歩も地面に足を………いや、トイレには行った。それ以外、移動中ずっと抱っこだったんですが!?
「心配をさせた罰だ。諦めなさい」
「…………ふぁい………」
うちのケビンさんがかっこよくて、頷いてしまったよ。その結果、町でもお姫様抱っこ。流石に後悔した。少しは歩かせてくれよ!目立ってるよ!しかし、ケビンが嬉しそうにしていると『まぁいっか』と思ってしまう。ケビン……恐ろしい子!
とりあえず行きつけの喫茶店へ行くことに。今日も繁盛してますね。席に案内され、メニューを開く。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
「雪花は何にする?」
「本日のオススメは新入荷したアップルティーでございます」
「じゃ、それで」
「俺も同じものを。それから、焼き菓子の盛り合わせを一つ。テイクアウトで同じものを五つくれ」
「かしこまりました」
ケビンの耳がピクピクして警戒している。ペンダントで調べてみたら、店の外に怪しいやつが……サズドマ達に捕まった。本日の護衛はサズドマとシャザル君です。二人の見事な連携で……あ、危ないかも。
木の上に隠れていた魔法使いに召喚したペンギンさんが体当たり……のはずが位置が下すぎてカンチョーをかましてしまった。刺さった。尻にくちばしが刺さったよ。あれは痛い。
「いやあああああん!!」
魔法は集中が命。カンチョーで集中が切れた魔法使いは落ちた。そして、落下地点には満面の笑みを浮かべ、ロープを持ったサズドマきゅん。
「ぎゃあああああああああ!!」
「こ、こけ…………」
ペンギンさんが怯えておる。まあ、他に敵はいないみたいだからいいか。
「……雪花、何かしたのか?」
「ペンギンさんを喚びました。くちばしが魔法使いの尻に刺さったようです」
「…………………………そうか」
丁度アップルティーが運ばれてきた。
「わ、可愛い!」
ひと口サイズのミニ焼き菓子の盛り合わせだ。店主さんがウインクをする。
「女性にとても好評ですよ。やはり、大きいものはでぇとでは食べにくかったようです。男性客にはそのままで出しますがね。本日はでぇととお見受けしまして、勝手ながらミニサイズに変更させていただきました。お二人の時間を、ゆっくりとお過ごしくださいませ」
店主さんはそう言うと去っていった。さっきから店主さんを威嚇していたケビンがしょんぼりしている。
「………すまない」
「何が?」
「その……店主殿と雪花が仲良くしているようなので……………嫉妬した」
うちの旦那様が可愛すぎて辛い。
「雪花?お、怒っているのか?こんなに震えるほど??」
違います。歓喜に震えております。
「怒ってない。ケビン好き」
「そ、そうか!俺もす、す、しゅきだ」
うちの旦那様が可愛すぎて辛い。噛んだ。愛しすぎる。
「ケビン、今夜は寝かせないから」
「あ、アオン!?にゃ、にゃにをいきなり!?そそそそれはもちろん吝かではないというか、嬉しいが……」
「じゃあ、決まり」
「キュウン!??」
「……………夜が楽しみね?旦那様」
「………………………………………うん」
こんなにゴツくてムキムキなのに、マイダーリンは今日も可愛すぎる。
そんな会話をしながらも、少しだけ気になっていた。あの元側妃はもういない。なら、誰が刺客を放ったのだろうか。
まあ、わからないものはわからない。ケビンの可愛さを全力で堪能し、セクハラしまくっていたら逃亡した。
「アオオオオオオオオン!!」
今日もケビンが可愛くて、私は幸せなのであった。
なんか、このノリ久しぶりな気がします。