おっさんは圧倒的なんだよ
少しの休憩の後、決勝戦が開始されようとしていた。
「もーちょい削りたかったなぁ」
サズドマは不満そうだ。
「…削る?」
「速攻で勝てなきゃ、オレはバカに勝てねぇからさぁ、勝てなきゃ時間稼いでバカに魔力を無駄遣いさせるんだよぉ。ま、バカが油断して魔法解除したら容赦なくしとめるつもりだったけどさぁ」
サズドマはにんまり笑った。
「あああ…もしや…もしや邪魔した?」
つまり、サズドマは持久戦狙いだったのを私のせいでやめちゃった??
「んにゃ?やってもやらんくても団長は勝つだろぉ。勝てねぇからイヤガラセしたかっただけだよぉ。それよりヒメサマが泣きそうな方がイヤだから、やめただけぇ。別にジャマはされてないよぉ。自分で選んで、自分で決めたんだからぁ」
「よし!これ終わったら甘味をしこたま作ってあげるからね!新作もだすぞ!」
「わぁい」
「とりあえず、これお食べ!」
「わぁい」
サズドマは量産したクッキーをポリポリ食べている。彼は甘味が大好きなので、いつも大切そうにちょっとずつ食べるのだ。そこがちょっと可愛いので、ついおやつを与えてしまう。ま、まあいいよね?うん。
「サズドマ…なつきましたね」
ガウディさんが信じられないものを見る目でした。
「そんな野性動物みたいに…」
「いや、すごいです。サズドマは俺と団長とシャザル以外とはマトモに会話すらできない生き物ですから」
「……………………」
騎士団におけるサズドマの扱いがどうなっているかすごく気になりました。でもサズドマは見てると悪意がある相手に敏感だから、過剰防衛した結果の悪循環なんだろうか……
「あ、始まりますよ」
おっさんと変態が試合場に立った。
「これより、決勝戦を開始する!両者、構え!始め!」
「うおおおお!!」
先に仕掛けたのは変態だが、おっさんはあの鞭もどきの攻撃をあえて受けた。しかし、傷ひとつつかない。
「おや、珍しい。遊んであげるつもりのようだ」
「ヒメサマにメーワクかけて困らせたからなぁ、イヒヒッ」
「えと、おっさんはなんで怪我をしないの?」
見る限りでは魔法でもなさそうだ。
「ああ、団長の得手は身体強化なんです。恐らく今は硬化して攻撃を弾いているのですよ。いつもなら一撃ですが、相当お怒りなんでしょう」
変態は汗だくになって鞭を操るが、おっさんは微動だにしない。注意深く魔力を探ると、おっさんは当たるほんの一部にだけ魔力を使っているようだ。すげーわ。下手したら賢者のじいさんより魔力コントロールが上手いんじゃないかな?
全力で武器を振るい続ければ、疲労は蓄積されていく。おっさんは常に最小限の動きと魔法で勝利していたし、相手の棄権も多数あったから余力があり余っている。まだまだ余裕がありそうだ。
変態はここで蓄積された疲労が出てきたらしく、動きが鈍ってきた。
「…体力がないな」
「はぁっはぁっ…お前みたいな…体力の化け物とは違って私は繊細なんだぁぁぁ!!」
「ふん!」
おっさんがついに動いた。鞭を掴み、変態ごと振り回して投げた。
「うわああああああ!?」
「うわー、おっさん強ーい!」
「そりゃ、ウチの団長だからねぇ」
「当然です」
サズドマ、ガウディさん、他の騎士達もドヤ顔していた。おっさん、愛されてます。
もはや大人と子供…いや、人間対アリ一匹並みに格が違う。
「ぬううううん!!」
おっさんはさらに鞭を掴み、変態を振り回す。
「ぎゃああああああ!?」
そして、ついに鞭が切れてまた変態が吹っ飛んだ。
「…武器が壊れたが、まだやるのか?」
「私は、ヒーローは負けないんだ!!」
「誰がヒーローだよ」
「生きた迷惑生物のまちがいだよねぇ」
「…頭をかちわって中身がどうなってるか見てみたいですね」
「ちょっと!姫様とサズドマはさておき、副団長怖い!」
オレンジ頭も来たようです。
「お疲れ様、仕事だったの?」
「はい、頑張って書類仕事片付けてきましたよ~。今は…」
「決勝戦だ。あの迷惑生物を団長がボコボコにしているところだ」
「マジか~、間に合いましたね」
オレンジ頭は持参した椅子に座って観戦しようとして…
「寒っ!?」
オレンジ頭の言葉通り、気温が急激に下がっていた。
「ガチガチガチガチガチ」
サズドマがめっちゃ震えている!真っ青である。
「さ、サズドマおいで!」
咄嗟に空気の膜を作り、以前マントにかかっていたのと同じ常温の魔法をかけた。
「ざぶがっだぁぁ…」
まだ震えてるので、温かいお茶を出してあげた。
私のオリジナル魔法『アイテムボックス』は超便利で、時間停止状態のままなんでもしまえてしまう優れもの。ちなみに容量限界は不明です。とりあえず、自室のベッドとクローゼットは余裕で入りました。引っ越しやさんいらずだね。お茶もそこから出しました。
「あっだがいぃ…」
「姫様!俺らも入れて!凍え死ぬ!」
「はいよー」
他の騎士も入れてあげたが、これ客席もまずいよね?
「包みこめ」
試合場に結界を張ったから、冷気はもう来ない。
「ヒメサマ、スゲーな」
「え?賢者のじいさんにはまだまだ魔力コントロールが甘いってしばかれるよ??」
サズドマが渋い顔をした。え?なんか変なこと言った??
「………ヒメサマ?ふつーはこんなバカでかい結界張ったら魔力がすーぐ涸渇すんの」
「ああ、魔力量だけはあるって言われたわ」
「詠唱ほぼなしで、複数の結界と常温魔法の維持とか神業レベルですよ?」
「………えー?でも初歩魔法だよ?」
いや、難しくないよ?じじいなんか、5個ぐらい同時進行で魔法使うよ?
「お手玉1個と3個。難易度が高いのは?」
「納得した」
普通は複数維持なんてできないらしい。つまり、じじいに騙されたわけだ。役立ってるから別にいいけどさ。
「そういえば、マントは?常温魔法がかかってたでしょ?」
「魔法具は試合では使用禁止なんだよぉ、あれば勝ったよ。マントなんて邪魔になるから、夜営の時と式典ぐらいでしか使わないから誰も持ってないんじゃね?」
騎士達は全員うなずいた。
「そういや団長は…」
「そうだ、おっさん!」
おっさんは毛玉になっていた。間違えた。いや、一瞬毛玉に見えた。
「どうやら獣化と常温魔法の併用でしのいだようですね」
いつもよりフサフサだ。後でぜひモフらせていただこう。
「わが敵を切り刻め!永久氷雪演舞!!」
変態の魔法により無数の氷の刃が空中や地面から出現し、おっさんに襲いかかる。どうでもいいが、中二病漂う魔法である。
氷の刃はおっさんの毛に弾かれた。おっさんはハリネズミみたいになっている。身体強化、便利だね。
「はああっ!」
そして変態は死角からナイフで斬りかかる。しかし、声だしたらダメだろ。素人の私でもわかるよ??
「ふん!」
決まり手は、チョップ一撃でした。
「勝者、グシュッぶえっくしょおおん!殿!!」
あ、審判…助けるの忘れてた。めっちゃ凍えてるわ。鼻水たれてるわ。でも逃げない辺り、プロだわ…
いや、結界のせいで逃げられなかったのか?だとしたらごめんなさい、審判さん…
「姫様!」
「おっさん!優勝おめでとう!」
駆け寄っておっさんに抱きつこうとしたら、私の足は地面につかず…宙に浮いていた。
「ええええええええ!?」
なんと私は巨大な氷の竜の手に掴まれてしまった。 そして、狂気に満ちた瞳と目が合った。