とっても怒られたんだよ
雪花視点になります
懐かしいコンクリートジャングル。気がついたら、地味なスーツで町を歩いていた。流れるように歩く人達。顔がよく見えない。
ああ、これは夢だ。そう思って慣れた道を歩き、かつての我が家に向かう。ドアを開けると、美少女と変態が出迎えてくれた。
「うお!?雪花さん、めちゃくちゃ顔色悪い!」
「……あまり無理をしてはいけませんよ?」
二人は、優しい。ううん、皆して私に優しい。私が私を許せない。あんなのひどい。もっと早く助けられていたら。思考がまとまらず、ボロボロ涙がこぼれる。
「雪花さん!?」
「あばばばばばばば!?」
まとまらない思考のまま、話した。きっと支離滅裂でわかりにくかっただろう私の話を、ロザリンドちゃんと狂っぽーは根気強く聞いてくれた。
「話はわかった。雪花さんは神様でもなんでもないんだから、全部を助けるとか無理だよ」
「そう、ですね。神にも不可能です。界を越えた存在であるとはいえ、ただの人間である貴女が全てを救うなど、できるはずがない」
それは、理解している。そんなに自分の能力を過信していないし、傲慢でもない。
「しかし、農園と孤児院と学校をセットで運営かぁ。その発想はなかったなぁ。今後の参考にさせてもらうよ」
「え?」
「うち、孤児院だと家庭菜園ぐらいしかしてないし。野菜は兄様が趣味と実益を兼ねて頑張ってるから、出資と作って欲しい作物の依頼をするぐらいしかしてない。完全に丸投げてる」
なんでもロザリンドちゃんのお兄さんは植物オタクで研究をしているらしい。
「あのさぁ、自分でなんでもかんでも全部を抱えない方がいいよ。いつか潰れちゃうよ。もう一人の私が、そうだったから、これは経験者としての意見。一人でできることには限界があるからね。積極的に周囲を巻き込むといいよ」
「……でも、迷惑じゃないかな」
「それは相手が決めるでしょ。無理矢理やらせるんじゃなく、自由参加にすればいいじゃん!もちろん私も手伝うよ!」
ロザリンドちゃんは、優しく笑ってくれた。
「私ももちろんお手伝い「狂っぽーはいいや」
そもそも狂っぽーに何が手伝えると言うんだ。変態はお腹一杯だよ。
「ちょ!酷い!酷いです!!」
「あっはっは」
「ロザリンド様も酷いですぅぅぅ!!」
なんだが心のモヤモヤが溶けていく。久しぶりにお腹が痛くなるまで笑った。
「………多分、だけどね?」
「うん」
「雪花さんの周囲は、心配してるよ。雪花さんが辛いなら、手伝いたいと思ってるんじゃないかな。戻ったら、話をしてみなよ」
「………うん!」
現実に帰ろう。ロザリンドちゃんのおかげで元気が出た。そう思って立ち上がったら、インターホンが鬼連打された。今時ピンポンダッシュする子供もここまで連打しないと思う。こちらが恐怖を感じるほど、怒りに満ちた連打だった。
「ど、どちらさま?」
慌てて開けたら、すっごく見覚えがある美少女が仁王立ちしていた。大変お怒りだった。ズカズカと遠慮なく部屋に入ってきた。
「わ、美少女!雪花さんの関係者?」
「ワタシは雪那=カルディア。雪花=カルディアの娘です」
「や、やっぱりぃぃぃぃ!??」
「ええええええええええ!??」
「くるっぽー」
そういや、寝落ちした瞬間に見た気がするわ!成長しちゃったの!?なんで!??
「やっばー。犬耳美少女……尊い!あれ?雪花さんちのお子さんって生まれてまだそんな経ってなかったよね?」
「そちらがどうかは知らないけど、ワタシの世界では獣人の子供は必要に応じて成長速度を早めることができるんです」
「へー、そうなんだ」
あっさり納得しちゃうロザリンドちゃん。いやいや、そういう問題じゃないから!
「せ、雪那!ママとの約束は!?」
「ママが先に約束を破ったのよ。限界まで無理して!お腹の妹に何かあったらどうするつもりなの!?しかも、寝かしつけたはずが微妙に寝てない!!」
雪那さん、激おこです。怒鳴っても怒りが鎮まらなかったらしく、矛先を狂っぽーに向けた。
「そこのイカれた使えない神の使い!」
「くるっぽー!?」
「こんなに疲弊しきったママを境界に招くって、どういうことよ!所詮人間だから、代わりはいくらでもいるってこと!?ちょっとは考えなさいよ!羽根をむしって丸焼きにするわよ!?」
「ひ、ひいぃ……」
狂っぽーの羽根はちょっとむしられて、てっぺんが禿げてしまった。必死で狂っぽーを庇い、どうにか許していただいた。
「失礼。母はこの通り疲弊しきっているので連れ帰ります」
「うん。雪花さん、元気になったらまた会いましょ。それから、雪那ちゃん?」
「……はい」
「一応、コレ持っていって」
ロザリンドちゃんが瓶を投げた。キャッチして首をかしげる雪那。
「まぁ、ポッポちゃんはあくまでも『神の使い』だから大丈夫だけど、念のため。ここは境界だから、うっかり神に遭遇しちゃうかもしれないし」
「……なるほど。お気遣い、ありがとうございます。えっと……」
「ロザリンドでいいよ。また会いましょ」
「………では、また。ありがとうございました、ロザリンドさん。ママ、行くわよ」
「うん」
雪那に手を引かれ、浮上していくような感覚に身を委ねる。
「雪花!?雪花、雪花!雪花雪花雪花雪花雪花雪花雪花雪花ああああああ!!」
「パパ~、落ち着いて~」
「ひっひっふ~だっけ?」
「それは出産時の呼吸法ね。ほら、パパ頑張って」
「雪花!お、俺は怒って……怒れない!だが、心配した!雪花、雪花が疲弊していくのを見ているのは辛かった。我が身の不甲斐なさが……辛かったんだ。お願いだ!無理はしないでくれ!もう雪花が弱っていくのを見るのは嫌だ!嫌だああああああ!!」
「………ケビン」
私は、何をしていたのだろう。大事な人達を悲しませていたのか。
「……ごめんね。もう、しない」
もう、間違えたりしないよ。ケビンの腕に包まれるのも久しぶりだ。私はすごく安心して……満たされていた。