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自由な世界なんだよ

とある女の子視点になります。

 自分の母親を、知らない。父親も、知らない。気がつけば一人で空腹を抱えながら生きてきた。世界は、優しくなんかなかった。


 死にたくないから、なんでもやった。ようやく、仲間を集めて落ち着いて過ごせていたのに拐われた。


 わけもわからないまま枷をはめられ、酷い目にあわされた。地獄だった。耐えられるからこそ辛い。痛みも、苦しみも、知っているからこそ……この程度では狂えない。全力で抗い、殺されることを期待して暴れた。

 致死量ギリギリの薬でようやく正気を失えたようだ。気がついたら、温かい手が触れていた。


「気がついたの!?」


 知らない大人だった。暴れたいのに拘束されて動けなかった。また地獄が続くのかと内心恐怖したが……違った。

 その人は、大人なのに優しかった。殴らないし、撫でてくれる。叫べば、呼べば来てくれる。優しく撫でて大丈夫と伝えてくれる。ちょっとしたこと……歩けるようになったことや自分で食べれるようになったことをほめてくれる。


 温かかった。空っぽの器が満たされていくような感覚。とてつもなく幸せだった。


「もうすぐ、元気になるね」


 この温かい人から離れたくなかった。私だけじゃない。他の子だってやってる。知ってたよ。貴女が疲れていたこと。だけど、離れたくなかった。どうしていいかわからなかった。




 いけないことだなんて、わかってた。


 優しいあの人は、悲しんでいた。


 私達のせいだって、わかっていたの。


 それでも、愚かにも欲しいと願ってしまった。






 こんな幸せ、続くわけがないのに。





 終わりは轟音と共に告げられた。ソイツはいきなり扉を蹴って壊したのだ。


 怯える私達に、ソイツは叫んだ。




「いつまでもウジウジウジウジ、仮病使ってんじゃないわよ!!うちのママはワタシ達のママなんだから!返してもらうからね!!」




 そう。知っていたのか。あの人は知っていたの?知らなかったの?


「ママはもう、ここに来させない。最低限の衣食住は保証してあげるから、ここから遠い療養所にでも引っ越しなさい。貴方達、迷惑なのよ」


「そんな……」

「ひどい……」


 すすり泣きをする仲間達。私も少なからずショックだった。この生活が終わるのは仕方ないけど、あの人に会えないのは嫌だ。だって、まだお礼もいってない!


「どこが酷いの?衣食住を何の役にも立たない貴方達に保証してあげるっていうのに。うちのママに酷い事をした貴方達には破格の条件だと思うわ」


「わ、私達はなにも………」


「貴方達を見て、ママが傷ついた。後悔した。もっと早く助けられたんじゃないかって……泣いていた。身も心もボロボロになりながら、仮病使ってるあんた達に寄り添おうとしていたのよ!あんた達がまだ苦しんでいると信じてね!!」


 そうか。だからあの人はたまに悲しそうだったのね。そして、知らなかったのか。


「え、そうなの?お姉さんたち、ひどい!」


「たしかに~、甘えたいのはわかるけど~、さいて~。これで私達の妹に~、何かあったら………ゆるさない」


 知らない子供達が私を責める。見るからに裕福で、苦労などしていない子供達。お前達に何がわかる?女の子供達が手を取り合い、何か魔法を使った。僅かに残った薬もキレイさっぱり除去したのだろう。不調がない。


 どうしよう。もう言い訳もできない。あの人の側にいられない。生意気な子供は狼狽える私達に追い打ちをかけた。


「仲間がいる奴は仲間と暮らすなり、養子縁組なりできるようにしてあげるから、来週までには出ていってね」


「………待ちなさいよ!」


 何か言わなくてはと思い、生意気な子供を呼び止めた。迷惑そうだが子供は立ち止まった。必死に叫ぶ。


「私達は、あんた達みたいに恵まれてないのよ!ちょっとぐらい甘えたっていいじゃない!あんなに……優しい人は初めてだったのよ!ちょっとぐらい夢見たっていいじゃない!」


 子供は呆れたと言わんばかりに冷たく告げた。


「だからちょっとだけは貸してあげたのよ。予想外にボロボロにされたけどね」


 そして、子供の殺気に格の違いを思い知らされた。この子供は、生まれながらの支配者だ。常に補食する側。敵うはずもない。


「もうお休みは終わり。考えなさい。自らが進むべき道を」


 そう言って、子供は去っていった。俯くしか出来なかった。何一つ、言い返せなかった。





「ね~、ね~、お姉さん」


 やたらのんびりした口調の子供。あの生意気な子供にはついて行かなかったらしい。


「ね~、これからどうするの~?」


「……知らない」


 また、あのスラムで…ごみ溜めの中で生きる?無理だ。体調が万全じゃない。仲間に迷惑をかけられない。

 養子になる?どうせスケベじじいの妻にされる。絶対に嫌だ。


「じゃあ~、第三の選択肢だよ~。ユキト!れっつご~!!」


「アオォォン!!」


 二体の狼が私たちを背負い、駆け出した。落とされないよう必死にしがみつく。


「わ…………」


 土の匂い。眩しい光。日向の温もり。


「お前ら!治ったのか!?」


 駆け寄ってくる仲間達は、少しふっくらしていた。特に幼い子がわかりやすい。


「ねーね」

「おかえり~」


「……………ただ、いま?」


 どういうことかと連れてきた子供を見つめる。すでに狼から人型に戻っていた。


「あのね~、うちのママ、孤児院を作ったの~。ここが、この国唯一の孤児院で、学校」


「コジイン?ガッコー??」


 聞いたことのない単語に首をかしげる。


「身寄りのない子をお世話するのが孤児院で~、お勉強を教えるのが学校だよ!」


 そこに、仲間達がいる?


「だから~、行きたい場所がないなら~、ここに居たらいいよ~」


「うん。ママにごめんなさい、ここにいたらできるよ」


 気が抜けるほど能天気な子供達の言葉を否定する。


「嘘よ!さっきの子供は会わせないって言ったわ!」


「え?セツナは『ここには来させない』って言っただけだよ~?いつ『会わせない』なんて言ったの~?」


 いや、それは完全に屁理屈でしょうよ。呆れる私に子供はにまりと笑った。その笑顔はあの人に似ていた。


「うちの『理屈屋』がこんな単純な抜け穴に気がつかないはずないし~、うちのママはお姉さん達を放置できないよ~。ここに居るなら接点あるし~、ママを助けてあげてくれないかな~?」


「…………詳しく話を聞かせて」


 もらった優しさに、少しでも報いる事ができるなら……と話を聞くことにした。

 この選択が私の人生の転機となることを、いまの私はまだ知らない。

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