子供の権利なんだよ
雪那視点になります
うちのママは優しい。頭もいい。しかし、愚かでもある。優しいがゆえ、愚かになる。
うちのパパは優しい。ママやワタシ達を愛している。愛しているがゆえ、止められない。ママの望みを阻んだりできない。
なんで気がつかないのかしら。酷いし狡い。だけど、ワタシは無力な子供に過ぎないから我慢した。
「セツナ……なんかイライラしてるか?」
「してゆ」
大好きなシロウお兄さんのハグでもイライラがおさまらない。
「不満があるなら、言ってみろ。子供はワガママを言っていいんだって、セツ姉が言ってたぞ」
子供はワガママを言っていい?脳内の辞書に接続……検索……検索結果を照会…………ふうん。そうか。いいのね。
「シロウおにいたん、ありがとう」
ワタシはにっこり笑ってママのところへと走った。小さな体ではたいして速度を出せないから、体を魔力強化して駆ける。
ようやく見つけたママはすっかりやつれて、疲れはてていた。
「……はあ」
いつもなら、すぐにワタシが来たことに気がついて抱っこしてくれるのに。ママはワタシに気がつかない。
「奥さま、少しお休みになってくださいませ」
じいがママを休ませようとした。女装が案外似合っている。さすがは美人なじい。美人なじいは深雪をだっこしていた。この非常時に爆睡している妹にもイライラする。
「ちょうよ。ワタチがみようか?」
お願いよ。ママが消耗していくのを見ているだけなんて嫌。
「……駄目」
ママは悩んでいる。迷っていたけど……ワタシに頼ろうとはしなかった。
「………駄目」
迷いを振り払うように、ワタシの願いを拒絶した。酷いわ、ママ。ワタシ、おりこうさんにしていたのに。ワタシが一番ママの助けになれるのに。異世界の事だって、ママ以外できちんと理解できるのはワタシだけなのに。
「……ちょう。ざんねんね。おやちゅみ、ママ」
「!??」
厄介なペンダントを瞬時に外し、魔法でママを眠らせた。使用者じゃないと外せない?魔力認証なんて、完璧に魔力を同調させれば問題ないわ。
「先に無理しないでって約束を破ったのはママよ。だから、ワタシも好きにするわ。のんびり屋、出番よ。いつまでそうしているつもり?」
「はぁい~」
ゆらり、と姿が変わる。急いで大人にならないでと言われたけど、しらないわ。ワタシとの約束を先に破ったのはママなんだから!深雪もワタシと同じぐらいの姿になっていた。服はママが使っていたものをじいが持ってきた。
外見年齢は十二歳ぐらいかな。ママに何かあっては困るので、ペンダントをつけてあげた。ママは魔法による状態異常でなく極度の疲労により熟睡しているから、ペンダントを返しても問題ない。
「じい、パパを呼んで。パパが添い寝すれば、ママは丸一日ぐらい目覚めないわ。お腹にいる妹達のためにも、しっかり休ませて」
「妹…まさか、ご懐妊!?ただいま、呼んでまいります!!」
これでママは大丈夫。パパは絶対に休みをもぎ取り、全力でママを寝かしつけるはずだ。
「ユキト様ぁぁ!?」
「きゅうん?」
三つ子で繋がっているためか、ユキトまで成長していた。メルお兄さんが慌ててユキトに服を持ってきたらしく、着ている。
「なんか、雪那が怒ってる」
「そうね……ママの故郷風に言うなら、激おこよ!!超腹立つ!!」
ツカツカと廊下を歩き『奴ら』の部屋に行く。勢いのまま、扉を蹴って壊した。身体強化しているから痛くない。扉は轟音を響かせながら壁にぶつかって壊れた。
怯える獣人娘達に、最大音量の拡声をつけて叫んでやった。
「いつまでもウジウジウジウジ、仮病使ってんじゃないわよ!!うちのママはワタシ達のママなんだから!返してもらうからね!!」
そう。こいつら、全員仮病を使っていたのだ。確かにトラウマは多少あるかもしれない。だが、彼女達は強かな孤児達だ。もうとっくに立ち直っている。それなのに、病気のふりをしてうちのママにずっと甘えていたのだ。
「ママはもう、ここに来させない。最低限の衣食住は保証してあげるから、ここから遠い療養所にでも引っ越しなさい。貴方達、迷惑なのよ」
「そんな……」
「ひどい……」
すすり泣きをする獣人娘達に、同情なんかしない。ワタシはママと違って、優先順位が超ハッキリしているのよ。
「どこが酷いの?衣食住を何の役にも立たない貴方達に保証してあげるっていのに。うちのママに酷い事をした貴方達には破格の条件だと思うわ」
「わ、私達はなにも………」
「貴方達を見て、ママが傷ついた。後悔した。もっと早く助けられたんじゃないかって……泣いていた。身も心もボロボロになりながら、仮病使ってるあんた達に寄り添おうとしていたのよ!あんた達がまだ苦しんでいると信じてね!!」
「え、そうなの?お姉さんたち、ひどい!」
「たしかに~、甘えたいのはわかるけど~、さいて~。これで私達の妹に~、何かあったら………ゆるさない」
雪斗と深雪もワタシに加勢した。深雪がワタシの手を取る。ワタシ達の複合魔術。僅かに残った薬もキレイさっぱり除去してやった。
「仲間がいる奴は仲間と暮らすなり、養子縁組なりできるようにしてあげるから、来週までには出ていってね」
「………待ちなさいよ!」
やっぱり元気じゃない。ワタシ達みたいな赤ちゃんに怒鳴るなんて大人げないわ。
「私達は、あんた達みたいに恵まれてないのよ!ちょっとぐらい甘えたっていいじゃない!あんなに……優しい人は初めてだったのよ!ちょっとぐらい夢見たっていいじゃない!」
「だからちょっとだけは貸してあげたのよ。予想外にボロボロにされたけどね」
にらみつけるワタシに、獣人の少女は怯んだ。
「もうお休みは終わり。考えなさい。自らが進むべき道を」
ワタシはそれだけ言うと病室から去った。雪斗と深雪が後はフォローするでしょう。嫌われ役はワタシだけでいいの。