治療するんだよ
地下に囚われていた女の子達。誘拐され、身元がわかった子達は親元へ帰された。彼女達はまだいい。問題は獣人の孤児達。普通に暮らしてきた女の子達はすぐ暴力に屈したが、多少の荒事など慣れていた彼女達は屈することはなかった。
その結果、下衆どもがとった手段が薬である。
そのせいで、今なお後遺症に苦しむ女の子達。ロウガ君の仲間もいたけど、仲間を判別できずに暴れ、薬を求める。自傷しないように拘束し、薬が抜けるのを待つしかない。解毒魔法もあるが、一気に抜くと突然死ぬ場合があるからオススメしないと医者に言われた。薬物の投与期間が長い場合、ショック死の可能性があるのだろう。
私は無力だ。せいぜい自傷した体を癒し、清潔を保ってあげるぐらいしかできない。
今日も悲鳴がひどい。それでも、正気でいられる時間がのびてきた。少しずつ、よくなってはいるのだ。泣き叫ぶ子供を抱きしめ、怖い大人はもう居ないのだと呪文のように何度も告げ、正気であるうちに食べさせ………そんな日が何日も続いた。
「姫様!いい加減休まなきゃダメだよ!」
「…でも、メル君じゃあの子達、怖がるから……」
「なら、女装する!姫様の服を着れば多少ごまかせるでしょ!メルと姫様は背丈がたいして違わないから、イケる!乳は詰める!」
意外にも、この作戦は問題なかった。カダルさんは似合わなかったがカインくんは似合っていた。可愛いメル君はマジでかわいかった。
女の子達は正気でいられる時間がのびたので、ロウガ君達も手伝ってくれた。ロウガ君の仲間だった女の子達は、正気であれば彼らを認識できるまでになった。彼らは約束通り孤児院に引っ越してくれた。休みの日になると仲間に会いに来て、色々と手伝ってくれる。
「忙しいとこ悪い。ひと言だけ言わせてくれ」
「……うん?」
何か問題でもあっただろうか。足を止めてロウガ君を見た。何やらおもいつめているようだ。
「本当にすまなかった!すいませんでした!」
見事な土下座だった。
「はい??」
睡眠が足りてないから、頭が働かない。いや、頭が働いていても意味がわからないかもしれない。とりあえず、しゃがみこんでロウガ君と目を合わせた。
「……何に対する謝罪なのかな?」
「あんた…じゃなかったセッカ…さん?に失礼な態度を取り続けていたことに対してだ。チビ達は腹一杯メシが食えて…もっと…もっと早くあんたの話を聞いていたら…!」
「…………………」
それ、すごく今の私にも刺さるなぁ。なんと言うべきだろうか。
「ロウガ君はみんなを守る立場だったから、仕方ないと思う。結果として私を信じてくれたのだから、気にしていないよ。これからもよろしくね」
私、ちゃんと笑えているかな?不自然じゃないかな??
「……あり、がとう………」
ロウガ君は私を見なかった。だから、気がつかなかった。
「雪花、無理をしすぎだ。少しでいいから休んでくれ」
「……まだ、休めない」
ケビンは気をつかって部屋まで来ない。この子を落ち着かせたら、向こうの子にご飯を食べさせなくちゃ。
「雪花、君が倒れたらどうする」
「……あと、少しだけ」
最近ケビンは私を必ず迎えに来る。私はまだ、大丈夫だよ。あと少しだけ、だから。
「……はあ」
流石に疲れた。頭が痛いし、吐き気がする。食欲もない。
「奥さま、少しお休みになってくださいませ」
じいの声がする。女装が案外似合っているなぁ。
「ちょうよ。ワタチがみようか?」
「……駄目」
知識チートの雪那なら、ただ薬を抜くよりもずっといい方法を知っているかもしれない。今さらだが、雪那の知恵を借りるべきだろうか。
「………駄目」
でも、駄目だ。雪那にあんな酷いものを見せたくない。私は母親だ。今、頑張らなくてはならないのだ。涙がにじんできた。思考がまとまらない。
「……ちょう。ざんねんね。おやちゅみ、ママ」
「!??」
恐らく魔法を使われた。ペンダントが……外れている!そして、私の意識が落ちる寸前に声が聞こえた。
「先に無理しないでって約束を破ったのはママよ。だから、ワタシも好きにするわ。のんびり屋、出番よ。いつまでそうしているつもり?」
気力を振り絞って魔法に抗う私が見たのは、成長した我が子達だった。