先ずは関係性を作るとこからだよ
ラトビアちゃんと副団長様にやきもきしつつもちゃんとやることをやっていた私。孤児院の施設が完成しました!しかも、上下水道・冷暖房完備!スノウと色々なことを詰め込んだ、夢のおうちなのですよ!
孤児院の子供達の面倒をみてくださるのは、なんと騎士のOBや子育てを終えた平民のおじさん達。女性は流石に雇えなかった。スラムからも子育て経験がある男性を雇った。
もう子供を連れてくるだけという段階なんだけど、これがまた難しい。うまい話には裏があると、大人なんて信用してない子供達。話を聞いてすらもらえない。シロウ君達の話はかろうじて聞いてくれるんだけど、私達の話はまったく聞いてくれない。
「こうなったら…餌付け作戦だね!」
私はやけになった。そもそも門前払いなんだもん!石投げられないだけマシだけどさ!それに差し入れで子供達の栄養状態も改善されていいことづくめじゃないか!
「…あのなぁ、姉ちゃん。もう来んな」
「今日は手土産持参だよ!そんな私を追い返すというのかね?」
「……にいちゃん、おいら…あれ食べたい」
ここら一帯のスラムを仕切るリーダー格、ロウガ君。少年ながらも強く、幼い子供が飢えないように盗みの組織まで作ってしまった。とはいえ、ギリギリ食べられる程度。幼い子は常に腹を減らしている。
まあ、進歩がまったくないわけでもない。ガチな門前払いから、話を聞いてはくれないが直接ロウガ君に会えるようにはなったのだ。毎日毎日根気よく彼のアジトで叫び続けたかいがあった。完全に彼が根負けした形である。ふふん、かつて営業だったのだ。何度門前払いされても、無視されたって負けないからね!
「………話だけは聞く。シロウと同じ話だろうがな」
「はいは~い。じゃ、とりあえずサンドイッチをお食べ~」
しつけられたちみっ子達はちゃんと並ぶが手が汚い。仕方ないから水魔法で手だけでも、と綺麗にした。サンドイッチがえらい勢いでなくなる。いいたべっぷりだ。
「魔法!?すごい!」
「他に何ができるの!?」
子供達がキラキラした瞳で見つめてきた。あまり思いつかない。何ができたっけ?
「ええと…修復したり…鳥が喚べる……」
「ぐああっ!?」
おや、人さらいかな?暗殺者かな??私を背後から斬りつけようとしたらしいが、結界に弾かれたらしい。
「あと、弾いたり……かな?」
「こけこっこぉぉい!!」
人さらいはダチョウにつつかれまくり、ペンギンにプレスされて気絶した。あ、やべ。子供達にドン引きされている。
「……………あれは、鳥、なのか?」
「……鳥だよ」
何故か空を飛べないはずなのに飛ぶがな!ロウガ君もドン引きしていた。こっちにはやはりいない種らしい。
「姫様、すいません!一人こちらに……ああ、うん。……捕縛しまーす」
シャザル君のテンションが超下がったが、さっさと人さらい?を捕縛してくれた。
「あいつ、騎士だよな。あんた、何者なんだ?俺達も捕まえる気か?」
「いや、捕まえるつもりはないよ。そもそもちみっ子を捕獲して脅せばロウガ君を捕まえるのは簡単だよね」
「なら、何が目的だ」
「孤児院を作ったので引っ越して欲しいんです。申し遅れました。私は異界から来たセッカと言います。こっちの騎士団長の嫁になりました。子供は三人です」
ロウガ君の瞳が丸くなった。
「これ、孤児院の間取りね。小さい子は大部屋で、大きい子は個室にするつもりなの。ちゃんと世話人がつくし、三食おやつ付き」
「………対価は?」
「隣の農園でのお仕事。学校の目処が立ったら時間は減るけど、八時間労働が基本かな。多少給金も出るよ」
「……………そんな事して、あんたになんの得がある」
信じられない、と彼の瞳が告げている。だが、彼が初めて私の話を聞く姿勢を見せているのだ。正直に腹を割って話すべきだろう。
「旦那様の仕事が減って、私にかまう時間が増える」
「………………は??」
軽いジャブにまた目を丸くするロウガ君。言いたいことを整理する。シンプルに、わかりやすく。ここが正念場だ。
「それから、正直君達の境遇は大人の責任だと思う。今からでも改善したい。君達の孤児院は、私の望みを叶える一歩なんだ」
「あんたの、望みは?」
「女性の本当の意味での解放。この世界は、私から見たらあまりにも歪だ。それから、獣人差別の撤廃に、赤への忌避を無くしたい」
「……理由は?」
「私の大事な子供達が幸せに暮らせる世界にしたい。私には娘も息子もいる。獣人の特性と赤い瞳の娘がいる。色々あるけど、一番はそこ。君達はついで」
「……はっ」
んんん…荒唐無稽な話だよねぇ。ロウガ君が笑いだした。まあ、長期計画でどうにかする予定なのだよ。しかもついでとか失礼だが、事実だから仕方ない。
「すっっげえ自己中!」
ん?そこ??そこはどーでもよくないかい??何がツボだったのか、爆笑している。
「はー、いや、うん。あんたスゲーわ。シロウ達が毎日毎日、しつこくあんたの話を聞けって来るわけだわ」
「毎日…」
「おー。毎日毎日来るんだわ。話し半分にしかこっちが聞いてねえってわかってるのに、食いもん持ってな」
「……そっか」
私が毎日門前払いをくらっている間、彼らも頑張ってくれていたのだ。それもあって、ようやくここまでこぎつけたのだ。
「あんたの提案に乗ってもいい。だが、条件がある」
「条件?」
提示された条件に、顔をひきつらせた。この世界には、まだまだ知らないことがたくさんあるらしい。