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うちのダーリンは天使なんだよ

 記憶を取り戻した副団長様は、虚空を見つめてブツブツ言っている。あのワガママ時期のラトビアちゃんが諦める程の精神攻撃…つまり、相当な事を言ったのだろうと予測できる。


「ふ、副団長様…」


「私は…私はラトビア嬢に愛を囁く資格などない…!!」


 副団長様が泣いた。その涙に怯んでいたら、ケビンが帰宅した。天の助け!!


「……何故イシュトがここに…?泣いているのか?どうした。俺では頼りにならんかもしれんが、話してくれないか?」


 包・容・力!!私のダーリンは安定の天使で頼もしいナイスガイだね!


「団長……実は………」





 応接間に沈黙が落ちた。じいがケビンにもお茶を淹れる。冷めてしまったので私達の分も淹れ直してくれた。


「……そうか。そんなことがあったのか」


 確かに、これはない。相手に面と向かって『私は、貴女のワガママに付き合う義理などない。貴女のした事は大変迷惑です。貴女のような身勝手な女性が何をしようと、私が貴女を見ることはない。二度と顔を見せないでいただきたい!』と言っちゃったわけで。きっと副団長ブリザード付きだったに違いない。

 ラトビアちゃんにも問題があった。当時副団長様は忙殺されており、余裕がなかった。そこに娘が可愛いルマン公爵からの横やり。無理だと言ったのに、無理矢理スケジュールをねじ込んできた。イライラしつつもなんとか面会して退席しようとしたら、ラトビアちゃんからもう少し話したい。獣が長の騎士団などどうでもいいだろう。なんなら近衛に入れるよう口ききしてやると言われた。ラトビアちゃんは副団長様の地雷を完璧に踏み抜いてしまったわけだ。


 副団長様は騎士団を大切にしている。ケビンを尊敬している。当時、近衛が大嫌いだった。大噴火したのも仕方ないだろう。

 ラトビアちゃんが泣くまで……いや、泣いても責め続けたらしい。それはトラウマだろう。当時のラトビアちゃんはすっかり副団長様がトラウマになってしまい、幸いそれで本人から咎められる事はなかった。しかしラトビアちゃんパパ達からチクチク嫌がらせを受けたとのこと。


 そんな彼女を好きになるだなんて…世の中何が起きるかわからないものである。



「話はわかった。イシュト、お前はどうしたい?」


「……………は?」


「選択はシンプルだ。ラトビア嬢を諦めるか否か。お前が後悔しない方を選択しろ。どちらを選ぼうと、俺はお前に協力しよう」


 ケビンは真剣な表情だ。とてもカッコいい。


「しかし、私にそんな資格など……」


「…お前を見ていると、過去の自分を見ているようだ。雪花が好きで好きで仕方ないのに、こんなに醜い男に好かれても迷惑だろうと自分を抑えていた。俺も雪花を愛する『資格』が欲しかった。せめて人並みならばと嘆いたよ」


 ケビンが席を立ち、副団長様の前にしゃがみこんだ。


「だがな、そんなモノは本当はいらなかった。資格がなくとも雪花を諦められなかったし…雪花も俺を欲してくれた。なあ、イシュト。資格がないなんて言い訳だ。そんなもん、とっぱらっちまえ。お前が自信がないと言うなら…俺が保証してやる。お前は俺の最高の副官で、いい男だ。誰より俺が認めている」


「……団長!」


 真っ直ぐな強い言葉。ケビンは本当にカッコいい。


「イシュト、人は誰しも間違うことがある。大切なのは、間違いに気づいてからだ。今のお前が成すべきは何か。資格が欲しいなら、乞えばいい。ラトビア嬢に、愛を囁く資格が欲しいと、許してほしいと乞えばいいのだ」


「ラトビアちゃん自身は自分の非を認めてますから、そもそも怒ってませんよ。彼女と話し合ってください」


「………はい!!このイシュト=グランド、迷いは晴れました!ただちにラトビア嬢に会いに行きます!!」


 副団長様は走り出し、白馬に乗って行ってしまった。副団長様の愛馬は白馬です。


「……マジか。門前払いされなきゃいいけど」


「その可能性はあるよねぇ」


 メル君が髪をいじりつつとんでもない事を言い出した。


「実はメルさぁ、ちょーっと違和感があったから調べたんだけどぉ…ルマン家のおじ様達、未だにラトビアこてんぱん事件を根に持ってるらしいんだよねぇ。だから、意地悪されるかも。これ以上こじれる前に、手を打っとけばぁ?」


 なんてこった!もうこれ以上こじれるのは勘弁だよ!


「メル君、ナイス情報!ご褒美考えといて!」


 既に打ち合わせていたのか、カダルさんが外出用の上着を持ってきてくれた。


「メル、礼を言う。雪花、イシュトより先にルマン公爵邸へ行かねば!」




 すぐにルマン邸前へ転移した。カダルさんがルマン公爵へアポイントメントを取ってくれていたため、面会は比較的スムーズだった。

 ラトビアちゃんのパパさん達は、私には比較的フレンドリーである。ラトビアちゃんの危機を救ったためと思われる。さて、どう切り出そうかなと思案していたらケビンがその場に膝をついた。


「部下がご息女に非礼を働いたこと、非常に遅くなりましたが…心からお詫び申し上げる」


 まさかの土下座である。予想外の行動に、私もルマン公爵達も慌ててしまった。


「いや、うちの娘も団長様に無礼を働いておりますし…顔を上げてください!」


「…いや、元はといえば俺が醜い事で女々しく傷ついていたから起きたことです。あいつはそれを知っていたから、俺を馬鹿にするものに噛みついてしまったのです。部下の不始末は上司の責任です。あいつは…あいつは本当に仲間思いのいい男です。私が保証いたします!」


 そうやって大事な仲間のためなら簡単に土下座できちゃうケビンもすっごくいい男だよね。私は本当にいい旦那様をもらったなぁ。


「……返してもらうつもりはありませんでしたが、ラトビアちゃんを助けた貸しを返していただけませんか?」


「……と、言いますと?」


「これから副団長様が来ます。邪魔せずラトビアちゃんと話をさせてあげてください。私からもお願いいたします」


 ゆっくりと頭を下げた。お二人から頭を下げられては仕方ないと、しぶしぶ了承してくれた。なんでもこれ以上ない好条件だから結婚自体は賛成なのだがあんなにラトビアちゃんを傷つけたくせに忘れるとか許さんとは思っていたらしく、邪魔する気マンマンだったそうな。セェェフ!危うくさらにこじれる所でした!


 後は副団長様次第ですね。健闘を祈ります!副団長様にバレないうちに撤収しました。さて、今夜はケビンをほめまくって可愛がらなくちゃ!副団長様のために頑張るケビンに惚れ直しちゃったからね。明日ケビンは非番だし、今夜は寝かせないよ!家から少し離れた場所へわざと転移して、ケビンの腕にひっつきながら楽しく帰りました。

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