ポンコツの理由が発覚したよ
副団長様と話して、文通したらとアドバイスした日の翌日、非番の副団長様が来た。
「お願いいたします!知恵をお借りしたい!!」
副団長様、まさかの土下座。余裕が無さすぎる!なんでも、よく考えたら物書きであるラトビアちゃんに下手くそな手紙は送れないと気がついてしまい、色々色々色々書いたがしっくりこない。読ませてもらったが、これはラブレターではなく報告書だと思った。確かにコレジャナイ感が半端ない。
そして、副団長の目の下にはクマ。
「とりあえず、しっかり睡眠を取らないと頭が働きませんから仮眠してください。メル君、頼める?」
「客間にご案内しまぁす」
「お、お待ちください!私は大丈夫です!仕事で数日寝ない日もあります!!」
副団長様が抵抗した。メル君がこいつ面倒くせぇって顔している。お客様から見えてないからセーフ…なの、か?あ、背後でカダルさんが縄持ってる。完全にアウトだ…などと思考を明後日に飛ばしつつ、私は副団長様を説得することにした。
「副団長様は、ラトビアちゃんに素敵なラブレターをしたためたいのですよね?ならば体調を万全にしてからです。疲れた頭でいくら書いたって報告書的な手紙にしかなりません。雪斗、副団長様とお昼寝してあげて」
「わんわん!」
副団長様はうちの雪斗に甘い。とても可愛がってくれている。なので、雪斗もめっちゃなついている。
「……ほらほら、雪斗とお昼寝なんて激レアですよ?雪斗も副団長様とお昼寝したいよね?」
「わん!」
副団長様は、我が家のモフモフプリキュン天使に完全敗北した。疲れていたらしく、即寝たとメル君が報告してくれました。
「うーん、多少文面を考えてあげるべきかなぁ…」
「そもそも、手紙でやりとりなんかほぼしないし、こんなもんじゃないの?手紙でやりとりなんて、そんなに書くことある?」
「ん?」
改めてメル君にこっちのお付き合いについて聞いてみた。普通は男性が夜会なんかで女性を気に入ったら高価な贈り物をする。女性が気に入った贈り物があれば、何度か会食してお試し。文通という文化はない。そもそも、誘拐の危険があるから外で会うのはあり得ない。
私がケビンとデートできるのは、彼が規格外の男だから。こないだのラトビアちゃんとの会合、めっっちゃ護衛さん来てたもんな…。ルマン公爵はラトビアちゃんに早くいい婿を見つけたいらしく、あの会合は特例中の特例だよと説明された。
つまり、ざっくり要約するとこの世界の一般男性は全員恋愛についてポンコツであることが発覚した。
「うおお……どうするよ……」
本気で頭を抱える羽目になるとは思わなかった。そういや私へのプレゼントの手紙には品物がいかに高価で希少価値が高いかが書かれていた。そういうことかああ!
「…メル君、魔法で副団長様には眠ってもらうわ。先にラトビアちゃんがどう思ってるか聞いて来る!」
「はいはぁい。カダルさんの読みが当たったね。怖い怖い。お出掛けの準備はできてるよぉ。ミユキ様達はメル達に任せて、行ってらっしゃぁい」
笑顔のカダルさんが怖い。彼はついに私の感情だけでなく行動まで予測できるようになってしまった。当然すでにルマン家でラトビアちゃんとの面会予約も取りつけ済み。できる従者、怖い。
「お姉様!急なお越しで驚きましたが、嬉しいですわ!実は私、あれからもう…創作意欲が止まりませんの!」
ラトビアちゃんはご機嫌だ。理由は違えどこちらも寝不足らしく、くまができていた。
「創作もほどほどにね?別作家の方はどう?」
「売れ行きはまずまずですが、本に関連商品をという手段を真似る者が出ておりまして、なかなか難しいですわね」
「なるほど」
とりあえずジャブとして仕事の話を振ってみた。お仕事、頑張ってくれているようだね。
「本題なんだけど、単刀直入に聞くね。副団長様「びぎゃあああああ!?す、すいません、ごめんなさい!わ、私への苦情ですの!?お姉様にまでご迷惑をおかけするなんて…本当に申し訳ありませんでした!!」
「…………………」
副団長様とラトビアちゃんはどうなっているのだろうか。カダルさんに視線をやった。
「姫様の事ならさておき、私はなんでも知っているわけではございませんよ?ですが、存じている事は……」
充分だった。カダルさんの情報網、すげぇ。
「……ええと…ラトビアちゃんは今、副団長様から熱烈に求婚「ち、違いますわ!クリオ公爵に嫌がらせをしているだけで、私のこと、なんて…」
副団長様の好意が微塵も伝わっていない。流石に副団長様が不憫すぎる。
「ラトビアちゃん。ラトビアちゃんはこの世界で初めてできた同性の親友です」
「お姉様…」
「ラトビアちゃんに嘘はつかない。少しでいいから、私の話を聞いてくれないかな?」
「………はい」
「実は、副団長様が私にラトビアちゃんの口説きかたを教わりに来ています」
「…………………はい?」
「副団長様は本気です。以前迷惑をかけたとか、昔色々あったのも聞いています。でも、一度でいいからありのままの副団長様を見てあげて。副団長様の真摯な気持ちを疑わないであげて。副団長様の友人として…ラトビアちゃんの親友として……お願いします」
ゆっくり、深々と頭を下げた。
「お姉様、頭をあげてくださいませ!私…私は間違っていましたの?」
ラトビアちゃんが明らかに戸惑っている。副団長様はラトビアちゃんを口説きたいようだが、本人は以前こっぴどくフラれたことがトラウマであるようだ。それ以外にも、マーロさん……こっちはちょっとシメておこう。場合によってはしばらくうちを出禁にしてやる!
「……考えて、みます。難しいですが…頑張りますわ」
ラトビアちゃんはまっすぐないい子だ。これでようやくなんとかなるかな?晴れやかな気持ちで屋敷に戻ったら、副団長様が瀕死だった。
「な、何があったの!??」
「………ごめんなちゃい」
雪那とスノウがたまたま『任意の忘れた記憶を復活させる魔法』の開発に成功。それをかけてもらった副団長様……己の所業に立ち直れないご様子。
二人とも大事な友人だけど、正直そろそろ面倒くさいと思った。