表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/241

素敵な関係なんだよ

 私はグランド様からたくさんのお話をうかがいました。団長様は、萌えの化身でございました。


 第二王子でありながら継母にいじめられ、命を狙われ…王の命を受けたもの達と身を隠した幼少期。

 その後、身分を隠して自身の力だけでのし上がり、弱きを助け理不尽に立ち向かう。部下に優しく己に厳しい、騎士の鑑となった。

 その強さは本物で部下を守るために常に前に立ち、血路を斬り拓く。グランド様も戦場で臆さず戦う団長様の背を見て、何度挫けそうになろうとも最後まで団長様についていこうと勇気をもらったそうですわ。


「素敵…!」


「そうなんですよ、ご理解いただけて嬉しいです!団長の良さがわかる女性はなかなか居ないのです!」


 グランド様にとって、団長様は理想のなりたい男性であるようです。確かに英雄譚の主人公みたいですわ。

 常々団長様側からの描写が足りないと思っていましたのよ。ああ、イメージが…イメージが涌いてまいりましたわ!


 たぐいまれなる力をお持ちの騎士団長様。部下に恵まれ、不遇な日々からようやく解放されたと思いきや、悪辣な継母の策略により戦いに次ぐ戦いの日々。武勲を立て、その立ち位置を確固たるものにした。

 ようやく訪れたつかの間の平穏。けれど、団長様の心は満たされずにおりました。どうやら

団長様はあの継母に認められたかったようですわ。いかに武勲を立てようと、醜いと団長様に辛く当たる継母。


 そんな団長様を包み込むように癒し、愛したのが異界より舞い降りたお姉様……。継母から与えられた傷も癒え、二人は共に手を取り合って苦難に立ち向かう!




「これですわあああああ!!」







「ラトビア嬢!?」


「キタキタキタキター!!来ましたわ!溢れていますわ!!これぞ『真実の愛物語』なのですわああああ!!」


「ラトビア嬢!?」


「申し訳ございませんが、紅茶を端に移動させてくださいますか?」


「は、はい…」


 グランド様が作ってくれたスペースに原稿用紙、羽ペン、インクを置き、私は燃えたぎる…いえ、萌えたぎる情熱と、夢と、希望と、愛をひたすら原稿用紙にぶつけました。




 そして、最後の一枚を書き上げると…私は力尽きました。私は、やりましたわ。萌えを書き上げましたわ…。

 その時の私は達成感に溢れておりました。










 次に目を覚ました時、私は…ここ、どこですの?優しく撫でる男性の手。お父様…ではないですわね。だって手も指も固くて、ちょっとざらざらしています。ですが、手つきが優しいので気になりませんわ。


「…お目覚めですか?」


 どこか柔らかい響きの美声に一瞬で意識が覚醒し、見開いた瞳から情報が入りました。





 私、グランド様に、膝枕、されてますわああああああああ!?




 これが噂の膝枕…温かくていい感じ……ではなく!何故グランド様に膝枕を!??とりあえず飛び起きて直前までの記憶を思いだそうとしました。

 私ったら、今日何を言われるかが不安すぎて一睡もできなかったことと物語を書き上げた達成感で緊張の糸が切れて寝てしまったのでしょう。


「グランド様…」

「貴方の綴る物語はどれも面白いですね。私がラトビア嬢に話した内容が物語になるなんて、不思議な感覚です」


「グランド様…」


 なんとお優しい方なのかしら。寝てしまった私を咎めもせずに、物語を誉めてくださるなんて…。どう考えても私、最悪ですわ。


「あの、不躾で申し訳ないのですが…サインをいただけませんか?」


「サイン、ですか?」


「ええ。私は貴方が書く本のファンなのです」


 渡された本は、確かに私が書いたものでした。私の名前を本の背表紙に書くと、グランド様は嬉しそうに本をしまいました。


「あの、途中で寝てしまって、その…」


 私がオドオドと話すと、グランド様はいい笑顔でした。


「そうですね。とても残念です。団長や姫様の素晴らしさについて語り合いたかったのですが…とても興味深い、貴女が書いたばかりの物語を誰よりも早く読めたのは幸運だったと思います。体調も悪かったようですし、次に期待しましょう。半日ぐらい私に付き合っていただけますか?むしろお試しでもいいですね」


「はい?」


 頭がついていきませんわ。私、叱られるのではありませんの?グランド様と半日かお試し?世の女性が気が狂うレベルで喜びそうですわね。


「ああ、そうですね。いっそお試「お試しはまだ早いですわ!」


 あ、危ない!いきなりお試しだなんて、大胆すぎませんこと!??普通はもう少し贈り物をしたり、話をしてからですわ。


「焦りすぎましたかね。なら、半日いただきましょう。いつがよろしいですか?」


 自分のスケジュールを思いだし、いつなら可能かを考えて返事をしました。


「ら、来週なら……」


 あ、あら?私、いつの間にか次回のお約束をしたことになっていませんか??


「では、来週に。そういえば、遅くなりましたがこれを」


 グランド様が可愛らしい花束をくださいました。


「素敵…」


 可愛らしい花…私、こんな素敵な花束をもらったことなんてありませんわ。香りも甘くて優しいですわ。


「ありがとうございます、グランド様」


「もっと高価な贈り物の方がよかったでしょうか?つい、姫様と団長の話を思い出してしまいまして…」


 以前の私なら、確かに高価で稀少な品を喜んだでしょう。今は別に欲しくありませんわ。面白い本なら欲しいですが……お姉様と団長様のお話??


「詳しく!詳しくお願い致しますわ!」


「では、続きは次ですね」


 グランド様は私の唇に指で触れ、髪を一房取ると口づけをいたしました。


「は…………はひ………」


 間抜けながらも、かろうじてグランド様に返事をできた私を誰か誉めてください。そして、すでに夕餉の時間だと聞かされて『早く教えてくださいませえええ!!』と私が叫び、帰りが遅くなるぐらいグランド様に気に入られたと家族が勘違いしてしまいました。


 面白がられてはいますが、結婚したいとかではない気に入られ方だと説明できず…誤解させたまま日にちだけが過ぎてしまうのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ