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はじめましてなんだよ

副団長ことイシュト視点になります

 異界の姫…いや、今は団長夫人だな。彼女から紹介してもらったのは、ラトビア=ルマン。ルマン公爵令嬢だった。まさかの唯一実家より高位な公爵。かなり高慢な女性なのではないかと言う不安はあるが、あの素晴らしい話を書いた作者に会ってみたい気持ちは変わらなかった。そして、今日が初顔合わせ。柄ではないと思いつつ、可愛らしい花束まで用意してしまった。初顔合わせなので二人きりよりは他者の目があった方が良かろうと多忙な団長夫人に付き添いを依頼した。


 時間より一時間も早く来てしまった。店は団長夫人とラトビア嬢がよく利用するというカフェ。焼き菓子と紅茶が絶品なのだそうだ。


「いらっしゃいませ。お一人ですか?」


「いや、個室を借りている。団長夫人…セッカ姫の名前で予約していると聞いたが…この店で間違いないだろうか。すまないが、一時間も早く来てしまった。まだ無理なら他所で時間を潰してくるが…」


「いえ、本日の個室予約はお客様がただけですから問題ございません。お連れ様はすでにもっと早くいらしてますし、お気になさらず」


「………………………は??」


 まさか、この私が時間を間違えるなどというミスを!??姫様からの手紙と手元の懐中時計を確認する。時間はあっているな。


「お連れ様はよく執筆で当店を利用されまして。時間を間違えたのか、時間まで執筆か書類仕事をしようと思ったのかはわかりませんが、混んでなければ長居していただいてもかまわないのです。お気になさらず」


 店主は穏やかに微笑むと個室に案内してくれた。先ずは挨拶…いや、花束を渡すべきか…思案していたら、すぐについてしまった。


「さあ、どうぞ。お客様、お連れ様がおいでになりました」


 ノックをした瞬間、バサバサバサーっと書類の山を崩したような音がした。やはり、なにか仕事をしていたのだろう。邪魔してしまい、申し訳なく思った。


「えええええ!?もうこんな時間!?心の準備が…いや、片付け…し、しばしお待ちを!!」


 ガタガタと慌てているようだが、二次災害も発生したような音がしている。本当に申し訳ないな。


「ラトビア嬢、私も手伝いますか?それとも下でのんびり紅茶でも飲みながらお待ちしていましょうか?」


「下でお待ちいただきたいですわ!申し訳ございません!」


「承知しました」


「では、下にご案内いたします」


 姫様が絶品と言うだけあって、サービスで出された焼き菓子は美味だった。土産にいくつか包んでもらうことにして、のんびり紅茶を飲む。たまにはこんな午後も悪くないな。しかし、やけに女性が多いな。後に、ここはお試しで来るものが多い店なのだと知ったが、そんなことは知らない私は首をかしげるだけだった。


「ねぇ、貴方」


 甘えるような、媚びた声。私が最も嫌悪する類の女がそこにいた。お試しで一緒にいるらしい男は悲しげだ。無視して紅茶を飲む。


「お客様、申し訳ございません。他のお客様のご迷惑になりますゆえ「なんですって!?このわたくしが声をかけてあげたのですわよ!迷惑どころか名誉なことですわ!!」


 店主は真っ直ぐに女性を見る。相手が貴族であろうとも媚びぬ姿勢は評価するが、これはまずかろう。店主を庇おうとしたが、私より早く凛とした声が響いた。


「あら、わたくしのお客様に何かご用かしら?」


 見た目は可愛らしいが、その気品と立ち居振舞いが彼女を美しく高貴な女性に見せていた。


「ら、ラトビア様!?ままままさか公爵令嬢様のお客様とは知らず…ももも申し訳ございませんでした!は、早く行くわよ!」


 相手の男性もまずいと思ったのか、釣りはいらんと金をテーブルに置いて逃げるように店から出ていった。


「あらあら…店主、悪いことをしたかしら?」


 首をかしげる彼女は、とても愛らしい。もしや、この女性が?


「いえいえ、助かりましたよ。いやあ、しかし人生とはどうなるかわからないものですねぇ。まさかラトビア様に助けていただく日が来ようとは」


「うっ!?あ、あの時は私が悪かったですわ。反省してます。でも、貴方の信念は素晴らしいけれどもっとうまいやり方があるのではなくて?」


「耳が痛いですねぇ。でも、ぶっちゃけ僕は媚びへつらってワガママで迷惑な金払いがいい客をゲットするよりも、僕の紅茶とお菓子目当てで楽しんでくださる常連客を大事にしたいんですよ。それより、お連れ様がかれこれ20分お待ちですよ?」


「ぴっ!?」


 鳴いた。獣人ではない…な。先程までの凜とした姿は幻だったのだろうかと思うほどにオロオロしている。小動物のようで愛らしいが、いつまでも眺めているわけにはいくまい。やはり彼女がラトビア嬢か。


「ラトビア嬢、イシュト=グランドです。本日は無理を言って申し訳ございません。本日を楽しみにしておりました。上に行ってもよろしいですか?」


「ひゃい!」


 なんだこの可愛い生き物。高飛車で嫌な女しか見たことがない私には、新種か別種の生き物みたいに見えた。ちなみに姫様は『姫様』枠だ。異世界から来たんだから、他と違って当たり前だ。


 そして、個室に入ったと同時に土下座をされた。


「その節は、大変申し訳ありませんでしたああああ!!」


 そんなに私の顔は怖いのでしょうか。姫様…どうしたらいいですか?ここにはいない姫様に助けを求める私がいた。

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