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別れと門出と…お説教なんだよ

 サズドマをいじり倒してから、結局なんで呼ばれたのか聞いてないことに気がついた。


「結局、私はなんで呼ばれたわけ?」


「今日は雪花の送別会なんだ。雪花が辞めると聞いて、イシュトとガウディが企画したのだが…ただの飲み会になっているな」


 ケビンが苦笑しつつも教えてくれた。メル君は知っていたんだろうな。だから『主役』ね。


「雪花には、感謝してもしきれない」


 ケビンに抱き上げられた。穏やかな笑顔で私を見つめる。出会った頃のどこか怯えたような面影はない。


「なにが?」


「俺個人も雪花から幸せにしてもらったが、騎士団を立て直してくれたからな。雪花のおかげでまともな予算も出るようになったし、近衛との関係もよくなった。感謝してもしきれないよ」


「いや、予算はマーロさん達だし、近衛はヘルマータ達のおかげだし…」


 不憫団長とまで呼ばれていたケビンがこんな風に笑うようになったのが私のおかげだとすれば、嬉しい。ただ、予算とかについては私のおかげではない。せいぜいきっかけにすぎないだろう。マーロさんはそのうち馬鹿をシメただろうし、ヘルマータも根っこは素直だからいつかケビン達の良さを理解したはずだ。


「……いいや、雪花のおかげだよ。ありがとう」


「え、えっと…」


 そんな優しい笑顔をされると困ってしまう。私のダーリンがイケメン過ぎて辛い。オタオタしていたら、酔っ払いに絡まれた。


「そうれすよ!私なんか、私なんか…崇めたいぐらいにかんしゃしてましゅよ!!」


 副団長様がここまで泥酔しているのは初めて見た。ケビンは副団長様がうっかり私に触れないようガードしている。独占欲かな?な、なんか嬉しい。泥酔してると思いきや、副団長様がハキハキ喋りだした。


「姫様…私はずっと嘆いていました。団長は本気でこの国の平和を守ろうとしていたのです。警備だけではありません。外交も不得手でしょうに頑張って、隣国と休戦協定を結んだのですよ。もっともっともっともっと、評価されるはずだった人なんです!!それなのに…ちょっと見た目が悪いぐらいでバカにされ…嫁も来ず…騎士団も気がつけば予算を削られて存続が難しいまでに追いつめられました。私がトップに立てとかいう馬鹿もいましたが、我々はケビン団長にしか従いません!!」


『従いません!!』


 打ち合わせでもしたかのように、全員が副団長様の言葉を復唱した。皆こっちを見て…るけど肉食べてる人もいるな。


「私は自分が情けなかった。予算も…もっと早く気がつけたはずなんです!!」


「イシュト、何度も言ったがそれは「隣国との争いが激化していたからなんて言い訳になりません!!私は副団長として貴方を補佐する人間なのです!私が気づき、改善すべきだったのです!!」


 副団長様が泣いた。色々辛かったらしい。でも、ちゃんと資料整理したから知っている。副団長様はなにもしなかったわけじゃない。何度も何度も訴えていた。


「私は、副団長様や皆がいたから、ケビンはケビンになったんだと思ってます。それから、副団長様。私はラッキーだったんですよ。私の何倍も副団長様が頑張っていたって、私は知ってます。資料整理、してましたからね。それに、ケビンが誰より知っているでしょ?うちの副団長様達は最高だって」


 副団長様とガウディさん。皆がいたから、ケビンはひねずに今のケビンになった。彼らの、涙ぐましいまでの努力を知っている。


「ああ!お前達がいたから頑張れたし、無茶な博打を打つこともできた。イシュト、雪花に伝えたいことがあるんだろう?」


「酒の力でも借りないと、正直に言えないと思っていましたが……貴女は自慢の部下です。どこへ出しても恥ずかしくない。異界の姫でも、団長の奥方でもなく『セッカ=カルディア』としての貴女を誇りに思っています。騎士団を辞めても、貴女は私達の仲間です」


「あり、がとう…ございます」


 認めてくれていた。仕事に厳しい副団長様の言葉だから、余計に嬉しい。でも、笑顔で別れるつもりだったのに泣かさないでほしい。


「きゅうん?」


 泣き出しそうな私に気がついて、雪斗が駆け寄ってきた。悲しい涙じゃないんだよ、大丈夫だよと雪斗を撫でる。


「いつでも遊びに来なさい。それから、助けが必要なら頼りなさい。貴女には借りがある。必ず力になりましょう」


 皆が頷いた。あ、あの話するなら今じゃないかな?


「今困ってます!めっちゃ助けてほしいです!」


 孤児院に併設された学校で、現役騎士に講師として来てほしいと話した。それだけじゃなく、職業体験やスラムの子供から警備体制や状況改善について話し合いの場を設けるなど、騎士団へのメリットも話した。

 

「団長、この話はいつ頃から知っていたんですか?」


「アオン?わ、わりと最近だが、ここまで詳しくは聞いていないぞ。知っていたのは半分ぐらいだな」


 講師派遣の打診ぐらいだから、ケビンの言葉は正しい。騎士達からは上手くできるかなぁとか、やりたいとの呟きが聞こえているので、反応は悪くないようだ。


「この馬鹿娘!許可するに決まっているでしょう!準備期間が必要なんですから、報告・連絡・相談は早めに!」


「すいません!でもまだ孤児院もできてない段階…」

「言い訳しない!」

「申し訳ありませんでした!!」


 しんみりした空気から、いつもの副団長様にホッとしたような気がする。私は副団長様のお説教で気がつかなかったが、少し離れたところでガウディさんがニコニコしていた。


「いやあ、イシュトが寂しがっていたから心配してましたけど、これなら問題なさそうだ」


「その、相談が遅くてすまん」


「いやいや、大丈夫ですよ。イシュトも本気で怒ってませんから。これから、楽しみですねぇ。また忙しくなりそうですが、こういう忙しさなら大歓迎ですよ」


 ガウディさんも騎士団の皆もとてもやる気だったと後でケビンに教えてもらった。次からはもっと早く相談しようねとケビンと笑いあうのだった。

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