皆、とっても頼もしいんだよ
雪花視点に戻ります。
とりあえず、ケビンの帰宅を待ってから…ということになり、ティータイムとなりました。もう少ししたら、お客さんが来る予定です。
「しかし、精霊様とのお茶会を開催できるなんて、流石は姫様ですね」
精霊仕様なので、小さな特注テーブルセットを準備するカダルさん。レースのテーブルクロスは女子力が高すぎる旦那様が作ってくれました。
「今日のお茶会はとても大事なものなの。私の願いのためにも、ここで好印象を与えとかないとダメなのよね」
「まあ、姫様なら大丈夫じゃないですか?」
「大丈夫だよ」
「そうそう~」
ピエトロ君とプクプク君が頷いてくれた。
「精霊様のおもてなしにつきましてはピエトロ様からもうかがっておりますし、私も全力でフォローさせていただきますよ」
カダルさんの宣言通り、お茶会は問題なく終わった。つかみはオッケーかなぁ。精霊さん達は、皆また来るわとニコニコしながら帰っていった。このお茶会は今後も定期的に開催しなければいけない。
「雪花!ただいま!!」
愛しのわん…旦那様が帰宅した。なんか楽しそう。尻尾がパタパタしまくっている。こんなにでかくてゴツくてイケメンなのに、可愛い。
「おかえりなさい」
「雪花、父上から孤児院の許可をもらってきたぞ!運営費もいくらか出してもらえるらしい!」
「ま、マジで!?」
「治安改善にもなるし、今回の異界の姫は予算をまったく使ってないからそちらをまわしてくれるそうだ」
頑張ったから誉めてほしいわん!という副音声が聞こえた。初期はこちらで負担するつもりだったのでありがたい。こんなにすぐ動いてくれるなんて……気がついたら、ケビンに抱きついていた。
「ケビン、ありがとう!すっごく嬉しい!」
「俺は雪花の夫だからな。雪花のやりたいことをサポートするのも夫としての務めだ」
くっっそ可愛くて男前すぎるわ!嬉しくて大好きで、ほんのちょっぴり悔しかったので、ディープなキッスをかましてやった。
「…今夜は覚悟してくださいね?旦那様を閨で可愛がるのは妻の役目ですもの」
「アファ……きゅうん……」
ツツッとケビンの顎を撫でてやれば、真っ赤になりながらも素直にすり寄ってきた。うちの旦那様が可愛すぎる!イチャイチャしていたら、呆れた様子のカダルさんが話しかけてきた。
「仲睦まじいのはいいことですが、そろそろお話ししていただけませんかね?我らが姫の夢物語のような望みを」
「そうだね。皆を集めてくれるかな?」
「かしこまりました」
カダルさんの存在に今気がついたのか、ケビンがめっちゃ慌てていた。かわゆす。
食堂に屋敷の全員と双子騎士、スノウも集まってくれた。
「さて、何から話そうかな」
先ずは、農園計画から話した。魔物がうようよしている森と居住区の間に畑を作る。当初はスノウと大地の魔力を使った永続結界陣を使う予定だったが、そこはナイトメアコングにより解決した。
農園の収益…というか、紙芝居や本の収益も孤児院に注ぎ込む。そして、学校を作る。男女も貴賤も問わない学校。識字率を上げ、計算を教える。さらにできれば専門化したい。運動が得意なら騎士や冒険者を招いて体術を学んだり、魔力があれば魔法を教わったり、手先が器用なら工房での実習を学ばせ、学問が得意なら学びたい分野が学べるようにしたい…が、とりあえずは読み書きと計算だろう。
農園では農夫を雇う。子供も雇った形にして、衣食住を保証する対価として農園を手伝ってもらう形にしたい。
農園は少しずつ拡大して、野菜なんかを流通させて食糧を確保していきたい。野菜は庶民に手が届かないけど、肉だけは体によくないしね。
精霊達の件についてはまた今度話すことにした。できれば学校で『男女は平等である』という理念を教えたい。
この国の女性は一見自由にしているように見えるが、実際はただ子を産むことしか求められていない。子を孕めない女性への扱いは酷いものだと知っている。道を潰され、結婚するしかない。だが、それは間違いなのだと教えたい。
自由になることで辛いこともあるだろう。だが、自分の道を自分で選び、得ようとすることは必ず自分の糧となる。
そして、今を生きる女性達に問いかけたい。『本当に貴女がしたいことはなんですか?』と。女神ミスティアの呪いが解けないのは、女性が『真の自由』を得ていないから。意識改革が必要だからすぐにどうこうはできないだろうけど、お茶会や本を通じて訴え続けようと思う。そして、他国にも伝えていきたい。
「とまあ、こんなとこかな?精霊さん達については、話していいかわかんない情報があるから、国王陛下に話していいか確認してからね。私は、この世界最後の異界の姫になるつもり。すべては、この先を生きる人達のために…なーんて、かっこつけすぎ?」
照れ臭くなってヘラヘラ笑ったのだが、皆さん真顔ですよ。ど、どうしたのだろうか。ケビンには多少話していたので驚いたりはしていないが何かを考えているようだ。
「…流石は私が主にと望んだ姫です。このカダル、感服いたしました。姫様の望みのためとあらば、身を粉にして働きましょう。貴族関連でしたら、お力になれるかと思います」
「じいは…じいも感動しております。若奥様のためとあらば、この老いぼれも働きましょうぞ。各地に散らばった銀翼も、若奥様の為ならば喜んで力を貸すでしょう」
「…昔の、スラムにいる仲間に声をかけるよ。ずっと気になっていたし、会うたびに減っていくから」
シロウ君が呟き、少年達もう頷いた。
「おう!俺もやるぜ!」
皆が口々に何が自分にできるかを教えてくれる。笑われても仕方ないような夢物語は、頼もしい家族のおかげで…いつか現実になるのかもしれない。