叱られちゃったよ
雪花視点になります。
転移で帰宅した。便利だよねぇ。あっという間だよ。日本にいた頃は、通勤時間とか本当に無駄だからワープできたらその分眠れたのになってよく考えてたっけ。そう考えると今の私ってスゴいのかも。そんなどうでもいいことを思いながら、玄関のドアをあけた。
「ただいま~」
「わんわん!」
「おかえりなさいませ」
「おかえいなたい」
じいと雪那が出迎えてくれた。帰りが少し遅くなってしまったから、心配をかけてしまったのかもしれない。
「ご無事でようございました。ささ、じいがお茶を淹れましょう。皆、手を洗いなさい。若奥様がおやつを作ってくださいましたよ」
「マジで?やったあ!」
少年達は喜んで手を洗いに行こうとして、リターンした。どうしたのだろうか。
「なあなあなあ!今日スゴかったんだぜ!」
「そうそう!セツ姉のこけこっこいがスゲーの!」
「こけこっこいで勝ったんだぜ!」
じいは手を洗って戻ってきたシロウ君に雪那を渡しつつ首をかしげる。確かに意味がわからないだろうな。
「お前ら、それじゃあじいさんがわからないだろ。あ~、セツ姉がなんとかコングの群れをこけこっこいでぶちのめして……なんとかコングのボスになった」
「…………………」
「そう、それ!それが言いたかったんだよ!」
「さっすがシロウだな!」
「コングはじぇのさいどだっけ?」
「いや、それより強ぇないとめあだっけ??」
「ナイトメアコングだったな。思い出した」
「な、な、な?」
なんかじいがプルプル震えている。顔面蒼白、マナーモードだ。明らかに尋常ではない。
「じい、大丈夫?」
「大丈夫ではございません!んもおおお!若奥様は無茶しすぎでございます!じいの小鳥のような繊細なハートが破裂したらどうするのでございますか!ナイトメアコングなんて、一夜にして国を滅ぼしたとの話まである魔物のなかでも最悪な種なのですよ!?」
「えー?」
そんなこと言われてもなぁ。売られた喧嘩を買っただけというか…襲われたからやり返したわけだしなぁ。そんなヤバい猿だと知らなかったし。
「そーなんか?」
「こけこっこいスゲーのな」
「こけこっこいに手も足もでなかったもんな、なんとかコング」
「なー」
あ、廊下に顔をひきつらせた双子騎士がいる。そういや、今日の警護は彼らだったけど黙って出ちゃったわ。
「「ナニをやらかしていらっしゃるんですか」」
双子騎士がキレていた。右と左の肩をそれぞれ捕まれており、逃げられない。いや、本気を出せば逃げられないこともない。しかし自分が悪いのに彼らに怪我をさせる気にはならなかった。
「ケビンを迎えにいったら襲われたから返り討ちにした!」
「「俺らを置いていったのは何故ですか!?なんで料理してたはずが森に行くんですか!?」」
「ごめん、マジで忘れてた。ちゃちゃっと行って帰る予定だったし」
「「忘れないでくださいよ!」」
双子騎士が泣いた。いや、うん。どう考えても私が悪いわ。それにしても、流石は双子。息ピッタリですな。そんな風に意識をそらしたのがバレたのだろう。双子がまた怖い顔になった。
「そりゃ、もう魔法が使えるから俺らは用済みでしょうけど!」
「そりゃ、姫様の方が俺らより強いのは間違いないでしょうけど!」
「「俺達はそれでも護衛なんです!姫様が危険な目にあったのに、気づけなかったなんて最悪です!!」」
「大変申し訳ありませんでした!以後絶対にやりません!!」
本当に申し訳ない。私の本気が伝わったのか、彼らはそれで終わろうとした。しかし、じいが許してくれなかった。
「その程度で許したらダメですぞ!姫様は、あのナイトメアコングと戦ってしまわれたのです!あの、一匹倒せば三十匹が報復に来るというナイトメアコングですぞ!!」
「え」
双子騎士が青ざめた。どうやらナニを倒したかまでは聞こえていなかったらしい。そして、一匹倒せばって…夜の帝王と呼ばれし悪しき昆虫みたいだ。やつらは襲ってくるわけじゃないけど。
ぎぎぎ、と双子騎士がカラクリ人形みたいにこっちを見た。嫌な予感しかしない。
「でもさー、群れを全部手下にしたから報復はないよなぁ?」
悪気のない少年達が余計な一言を発してしまった。
「「は?」」
「そういえば……ボスになったとはどういう意味なのですかな?」
「えっと………」
これまでの経緯を話したら、じいが翼にくるまって丸まり、双子騎士が床に寝そべった。
「あ、あの……」
「若奥様が少々お転婆なのは存じておりましたが、よもやこれほどとは……いや、何があろうと生き延びれそうでいいじゃないか。うん、そうだな!」
じいは何やら納得したらしく、復活した。双子はブツブツ言っている。しばらく復活できなそうだ。
「しかし、何故ナイトメアコングを守護者にしたのですか?」
「無益な殺生は好まないし、ナイトメアコングの縄張りには他の魔物がほぼ入らないからかな。人がやるより上手く畑を守れるかなって。元々壁の外に畑を作って色々実験する予定だったし」
「実験、ですか?」
「こっちの人達は、魔法とかに頼りすぎて土に何もしなさすぎ。土に工夫すれば魔法の効率が上がるのは実証済みだから、もう少し規模を拡大して実験したかったの」
我が家の庭で実験していたけど、最終的には広い農地が欲しかった。
「若奥様には精霊殿がおられるでしょう?何故農地がいるのです?」
「私が死んでも、皆が困らないように。プクプク君だけに頼らなくて済むようにしたいの。いずれは誰かに引き継いで、自給自足できるようにしたいの。肉は足りてるけど、野菜や果樹は高級で食べれない人がほとんどだから。それに、農地に子供や貧しい人を雇用してお金がない子にも教育を受けさせたいのよ。作物は収入になるから、それで孤児院を作りたい」
やりたいことが山ほどある。まだまだやるべき事も山ほどある。孤児院についてはいずれ国営にしたい。
「若奥様…じいの浅慮をお許しくだされ」
「はい?」
「若奥様は、やはり素晴らしいお方にございます。ぼっちゃまは、本当にいい奥方をもらいましたね。じいは若奥様にお仕えできて、幸せにございます」
「じい……」
「「俺達も…まさかそこまで考えているとは思いませんでした。姫様はすごいです」」
「いや、ナイトメアコングについてはたまたまだからね?思いつきだからね??」
「私が主にと望んだほどのお方ですから、当然です!ただ、もう少し話していただけませんかね?それがどのような夢物語であろうとも、私は……いえ、我々は姫様の望みを叶えますよ」
深雪を抱っこしたカダルさんがやってきた。皆が黙って頷く。雪那とシロウ君も、じいも、双子騎士も、少年達も。
私は、とてつもなく恵まれている。そう感じた。
「……うん。壮大な夢物語を聞いてくれるかな?でも、皆に聞いてほしいから皆が集まってからにしたい」
この世界に来た幸運を感じつつ、そう告げた。