うちのお嫁さんは最高なんだよ
ケビン視点になります。
雪花と話をしてから、先ず冒険者ギルドへ向かった。急いで通達してもらわないと、何も知らない冒険者が攻撃しかねない。騎士団より冒険者ギルドが先だろう。雪花の支配下にあるとはいえ、攻撃されれば反撃するだろうしな。
「………………は?」
馴染みの冒険者ギルドの受付であるボーガンが『ナニ言ってんだ?お前。ボケるには早いだろ!』という顔をした。いや、このあと同じ台詞を言っていた。地味に酷いが、内容が内容だけに仕方がない気がする。
確かに荒唐無稽な話だが、雪花のこけこっこいによる偉業を、俺は熱心に語った。うちの妻は可愛くて強くて賢くて可愛いんだと熱弁した。
「ええぇ………マジなの?つーか、お前…気持ちはわかるけど嫁にベタ惚れ過ぎだろう」
「マジなんだ。そして、雪花が可愛いから仕方ないんだ」
「マジで、マジなの??」
「マジで、マジなんだ。うちの妻は可愛いんだ」
「そっちはどーでもいいわ!!」
何故かボーガンがキレた。いや、雪花が可愛いのは大事なことだ。
「えええええ…ギルマス、ギルマスううう!!俺の手に余って溢れますうぅ!!ギルマスううう!!」
ボーガンは話を理解すると速攻で匙を投げ、騒ぎだした。声が聞こえたらしく、うるせぇよと言いながらギルドマスターが上から降りてきた。
「あぁん?俺は二日酔いだから、緊急案件以外は呼ぶなっつったろーが!」
「その超緊急案件だっつーの!!俺じゃ判断できねぇよ!!」
「………んん?」
そして、俺はまた説明した。
「マジなの?」
「マジなんだ」
またボーガンと同じやり取りだな。ギルマス…ギルドマスターは頭を抱えた。
「とりあえず…話が本当か確認に行くか。念のために護衛を何人か…」
「俺がいれば問題ないだろう」
「……………そーね」
ギルドマスターは渋い顔をした。何か不満だっただろうか。お前、冒険者になってくれりゃあよかったのにと愚痴られた。最近はいい冒険者が育たないとか、ハイランクのいい目標がいないとか、色々あるらしく、道中延々と愚痴られた。うちはいい人材が揃ってるからなぁと呟いたらしばかれた。地味に酷い。
畑に到着したら、ギルドマスターが倒れた。
「大丈夫か?」
「えええええ…マジで畑仕事してる……ありえねぇ!あっっりえねぇぇぇ!!」
コング達はせっせと畑を広げていた。すごいな。かなり広範囲を耕している。雪花の説明で農具まで作ったらしい。
「ん?」
雪花の魔力が残っているせいか、植えた苗の生育が早いな。いや、魔法を使っているのか。
コング達はこちらを…というかギルドマスターを警戒しているようだが、攻撃も威嚇もしていない。
「一応、お姫さんに従魔登録してもらってくれ。できれば首輪も。この距離でコングが攻撃行動にでないなんて、ありえない。団長の話を信じるよ。きっちり通達させてもらう」
「ああ、礼を言う」
「いや、最大の脅威だったコング種が減れば、こちらもありがたい」
とりあえず、これで冒険者ギルドは問題ないな。このギルドマスターは基本的にやる気がない男だが、有事には頼もしいのだ。彼はやると言ったことを覆さない。
「そうか。妻に伝えておこう」
「ああ、よ~く言っといてくれ。あと、旦那に飽きたらいつでも相手…おい、睨むなよ!軽い冗談だろうが!殺気が痛ぇ!!」
こいつは女遊びが酷いからな。雪花には絶対会わせないようにしようと心に誓った。
次に、騎士団に通達しに行った。
「おや?今日は休みだったのでは?」
とか言いつつ書類を寄越す辺りがイシュトだな。ガウディが咎める視線を送るが止めないので恐らく急ぎか緊急性の高いものなのだろう。書類に目を通してサインをしつつ、本題に入った。
「雪花が、今日ナイトメアコングのボスになった」
イシュトが椅子から落ちた。ガウディが床にカップを落とした。カップが粉々に割れた。中身は丁度飲み干したのか空だった。
ぎぎぎ、とまるでカラクリ人形みたいにぎこちなく動くイシュト。
「今、なんと?」
「聞き間違いですよね!?」
「だから、雪花がナイトメアコングのボスになった」
「「なんで!??」」
息がピッタリのイシュトとガウディに気圧されつつも返事をした。
「………なりゆき?」
「「なんでそうなるんですかあああああ!??」」
すまん。俺にもよくわからない。
「報告です!何故かナイトメアコングと思われる魔物が壁の外に畑を作っているとのことです!!今までナイトメアコングに畑を作る習性なんて………あれ?副団長達は何故床に寝転がって……団長も今日は休みだったのでは??」
執務室に駆け込んできたシャザルが首をかしげる。説明したら、シャザルもイシュトやガウディと同じ状態になった。
「…納得はできませんが、理解はしました。ナイトメアコングを攻撃しないように騎士団へ周知しておきます。冒険者ギルドへは…」
「先に通達してきたから問題ないだろう」
「……かしこまりました。………………………はぁ…」
シャザルのため息が重かった。護衛としては、護衛対象の自衛力が凄まじすぎて微妙なのかもしれないな。
最後に、両親と兄に報告した。
「セッカ姫がおかしいのはよくわかった」
兄上が疲れきった様子だ。そして、俺は雪花が考えた事を話した。この農園が軌道に乗れば、貧しい子供達を救える。雪花はこの農園を資金源にして、男女を問わず子供達全てに読み書きを教える予定なのだと。
「…………は?」
兄上がひきつった表情を見せた。彼女は、未来を見ている。まだまだ彼女の望みはたくさんある。
「兄上、父上…聞いていただきたいことがございます」
俺は、彼女の望む未来のために働きたいと思う。だから、彼女が動きやすいようにするのは俺の義務であり、誇りなのだ。まだ一部であろう計画を話し、了承を得た。きっと喜ぶだろう妻の笑顔を想像し、走るのだった。