雪花のリベンジバトルなんだよ
森で走りながら逃げたあの日。夜だったこともあり、追われて逃げ惑っていた。
あの時とは違う。
何が言いたいかというと…現在私はまたあの巨大な猿と対峙しているどころか囲まれている。アラームは僅かに鳴っている。この猿は私にとって前ほど脅威ではなくなっている、ということなのだろう。
「カモン、ダチョウさん!」
「こけこっこぉぉい!!」
「こけこっこぉぉい!!」
「こけこっこぉぉい!!」
「こけこっこぉぉい!!」
ダチョウさんAが現れた!
ダチョウさんBが現れた!
ダチョウさんCDEF…とにかくたくさん現れた。
「OH…」
思わずアメリカンな呟きが出ちゃうぐらい、ダチョウさんが現れてしまった。何故に。
おや?ダチョウさん達の様子が……。
ダチョウさん達が集合し、キングダチョウさんに変身した。
いや、キングダチョウさんて何!??某ドラゴンな冒険のプルプルした最弱モンスターじゃないのに、合体した…だと!??
『くぅおけこっくおおおおおい!!』
もはやエコーがかかっているのではないかと錯覚するほどの、空気の振動を体感するほどの雄叫びが森中に響き渡った。
巨大な猿達は耳から血を流して失神している。先程の雄叫びは音波攻撃だったのだろうか。よく見たら関係ない魔物も落ちてる。遠くをドラゴンらしきものが逃げている。
「OH…」
もはやアメリカンな呟きしか出てこない。どうしよう。危機は去ったらしく、アラームは消えた。
「こけこっこい」
ダチョウさん達が分離し、私を乗せて歩きだした。周囲を他のダチョウさん達が警戒しているが、魔物からドン引きされてる気がする。き、気のせいだよね!
「雪花、無事か!?怪我は!?何があったんだ!??」
「ケビン!」
ダチョウさんもケビンを通すために道をあけた。よほど急いできたのだろう。頭に枝が刺さっているので取ってあげた。傷はないね。
「わんわんわん!ママ、げんき~?」
雪斗が勢いよく走ってきて、まっすぐ私の胸に飛び込んできた。
「大丈夫だよ。ダチョウさんが助けてくれたから、ママは元気よ~」
「こけこっこぉぉい」
「しょうなの?たいへんだったのね~」
まさか、うちの子ダチョウさんの言葉がわかる?
「雪斗、ダチョウはなんと言っている?」
「ママがおっきなおさるのまものにかこまれたから~、やっつけたって~」
ケビンが向こうを見た。耳と尻尾の毛がぶわわわっと逆立つ。
「あれは…まさかジェノサイドコング!?しかも…ちょっと待っていてくれ!」
ケビンが走って猿を確認しに行った。
「しかも、亜種じゃないか!この毛皮…確かナイトメアコングだ!」
「ナニそれ」
私は猿の見分けがつかない。というか、そのコングをそもそも知らない。
「団長~!」
「セツ姉無事か~!?」
「セツ姉、大丈夫か!??」
少年達とシロウ君が戻ってきた。多分ダチョウの雄叫びを聞いて緊急事態だと判断したのだろう。
「大丈夫だよ~。うわ、大漁だね。マサムネさんが喜びそう。皆、よく頑張ったね~」
少年達はそれぞれ獲物を担いでいた。
「えへへ」
「俺も頑張ったぞ」
「俺も俺も~」
少年達もすっかり私になつき、撫でて撫でて~と寄ってくる。まだまだ庇護が必要な子供達を撫でてやる。
「…そういや、大容量鞄は持ってこなかったの?」
彼らがジッとケビンを見た。ケビンが持っていたが、私のダチョウさんの雄叫びを聞いて爆走したので担がざるをえなかったのだと視線で理解した。
「クゥン…す、すまん」
「まあ、いいけど」
「おー、問題なし」
素直に謝罪するケビン。彼らはアッサリとケビンを許した。
「ああ、そうだ。丁度いい。これは亜種…恐らく上位種だが、これに似た魔物を見たらとにかく逃げろ。この種の魔物は、必ず群れで行動しているから他の魔物より厄介だ。おまけに知能も高いから奇襲や罠を仕掛けた事例もある。さらに仲間を傷つけた者を許さない、という習性がある」
んん?それ、ヤバいんじゃないか??私、不可抗力とはいえヤっちゃいましたよ??
「それから、この魔物の毛皮は魔法が効きにくく、剣も弾くから狙うなら毛皮のない顔か尻………ん?」
「ウー!わん!わんわん!」
雪斗が警戒する。アラームが鳴り出した。さっきとは比べ物にならない数に囲まれている。私とケビンはいいけど、子供達が引き離されると厄介だ。
「ダチョウさん!!」
おや?ダチョウさん達の様子が………。
「あ?」
「い?」
「う?」
「え?」
「おお??」
「わん?」
「これは…」
先程と同じく、合体して巨大化するダチョウさん。結界を展開して全員を防音状態にする。
「ヤーっておしまい!!」
『くぅぅおけぇこっっくぉおおおおおおいぃぃ!!!』
私が防音したため、ダチョウさんが本気をだしたらしい。さっきの雄叫びはまだ本気ではなかったのだ。地を揺るがし、木が割れるほどの空気の振動。暴力的なまでの轟音の衝撃は凄まじく、私の結界が割れそうなほどだった。
その強力すぎる空気の波は、巨大な猿のほとんどを無力化した。
「セツ姉…やりすぎ」
シロウ君が呆れた様子で話しかけた。皆頷いてる。
「ママ、つよ~い」
雪斗は瞳をキラキラさせてくれた。ありがとう、雪斗!
群れのボスらしき猿が私を睨みつけた。ボスはまだ諦めていないらしい。
「ママ、こわい」
「雪斗?」
「あのおさる、ママをころちゅっていってゆ」
「……ふむ」
あの猿はかなり知能が高いようだ。言葉が解れば対話もできるかもしれない。対話ができるもの…と思ったら、オウムが出てきた。
「コケコッコイ(こんにちは、ご主人様)」
「………………」
でも、鳴き声はコケコッコイだった。解せぬ。
コケコッコイだが、意味がわかった。解せぬ。でも、これで多分猿と対話ができるはず!
「ケビン、私あの猿と話してみる」
「……大丈夫か?」
「いざとなったら、お願い」
「わかった」
あの、現時点から殺気で牽制するのは…すごいな。殺気で背中がチクチクする。まともに浴びているボス猿も明らかに怯んでるよ。逆にやり易いかな?
『ヒトのメスめ、許さん。恨んでやる。憎んでやる。我らが死のうとも、我が種は必ず貴様らを殺す』
予想通り恨みごとをブツブツ言っていた猿。鼻で笑ってやった。
『馬鹿じゃないの?私はお前達に殺されかけたわ。武器も魔法もない無力な状態でね。報復は当然じゃないの?』
待って、ケビンさん!殺気がすげえぇぇ!!痛い!なんか痛い!!雪斗にアイコンタクトして、ケビンをなだめてもらった。ありがとう、雪斗!
『それにお前達は私の同胞…人族を数えきれないぐらい殺しているでしょうに。この森では強いものが生き残る。私はその理に従っただけ』
『………殺せ』
ボス猿は諦めた様子で寝転んだ。
『いいの?貴方が死んだら、仲間も死ぬのに?』
『…なら、どうしろと言うんだ!わしらでは、どう足掻こうが貴様らに勝てない!』
よく理解しているじゃないか。だが、もう少し躾をしておかないとね。
『貴方にチャンスをあげるわ。私と一対一で戦いなさい。そして、勝ったら私達は貴方達全てを見逃す』
『…負けたら?』
『私が貴方達のボスになる』
『は?』
私とよくわかってない雪斗以外が、ポカーンとしている。
『どうするの?』
『…貴様と戦う。元より、それ以外の選択肢はあるまい』
頷くと、一旦ダチョウさん達を帰した。ハンデですよ、ハンデ。
『ケビン、手出しは無用!』
「……頼むから無茶はしないでくれよ」
ケビンはシュンとしながらも頷いてくれた。
「……では、始め!」
ケビンの声もオウムさんが翻訳したのか、たまたま開始とわかったのかは不明だが、ボス猿が一気に距離を詰めてきた。
強いやつ、なんかこう、すっごく強いやつ!!
「こけこっこぉぉい!!」
現れたのは、ペンギンだった。ただのペンギンではない。巨大なペンギンだった。でも、鳴き声はこけこっこぉぉいだった。
「ペンギンさん!ヤーっておしまい!!」
「こけこっこぉぉい!!」
ペンギンは陸地では非力な生き物だ。嘴こそ鋭いが、水中以外では機動性も低い。
だが、このペンギンは空を泳いだ。異世界でペンギンは空を泳ぐ生き物だった。空を泳ぐペンギンは、ものすごいスピードでボス猿に体当たりした。
「ウキ!?ウキキキキ!!」
そして、ボス猿がペンギンさんに気を取られた隙に、召喚したキツツキさん達が高速ツッツキでつつきまくる。どこをって?顔と尻ですよ。毛皮には効かないかもだしさ。辛うじて眼球と尻穴は避けてあげたよ。
「ウキキキキ!!」
手を振り回すが、キツツキ達は手の届かない位置へ移動しながらつついている。
そして、キツツキに気を取られた隙にペンギンさんボディープレスをくらったボス猿は、気絶した。
「勝った!」
気のせいか、猿にドン引きされてる気がする。
「……流石は雪花だな!」
「ママ、つよい!」
『こけこっこぉぉい!』
「こけこっこぉぉい!」
「………色々ひでぇな…」
「ああ」
「流石は団長の嫁っつーか…鳥つえぇ……」
「セツ姉…の鳥、あんなに強かったんだな」
何故だろう。猿には勝ったけど、大切なナニかを失った気がした。いやまあ、目的のためには仕方ないと思おう!