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始まりと終わり

 何かが聞こえる。必死で誰かを呼んでいるけど、遠い。

 私を呼ぶのは誰?ここ、どこだっけ??


「…………!……………!!」


 だんだんと、必死な声が遠くなる。少しずつ離れていく。誰かは必死に私の手を引く。その手は冷たくて…


 誰かが私の手を引いていた誰かに吠えて、襲いかかった。そして、その隙にもう一人の誰かが私の手を引いて走り出す…と同時に意識が覚醒した。


「雪花、雪花!しっかりしてくれ!!」


「…ケビン?」


「パパ、もうだいじょうぶよ。ママはちゃんとワタチたちがつれもどちたわ」


 そう、ケビン。手を引いて走ってくれたのは雪那で、吠えたのは雪斗。


「わん!」


「…助けてくれて、ありがとう」


 多分、助けられたのだと思う。私はどこかへ連れていかれそうになっていた。


「まったく、ママはむぼーびなんだかや!かみたまにあうときは、ちゃんとちちゃにおくってもやわないとダメよ!たまちいだけさやわえゆこともあゆんだかやね!?」


「は、はい……」


 うおおお、怖い!あれ幽霊かなんかだったの!?あ、危なかった!

 自覚したらどっと冷汗……ん?


「いた………」


 お腹が痛い……。ケビンに心配をかけたくはないが、のんびり屋に何かあっては困る。


「ママ、おかおがまっちゃおよ!?」


「雪花!?」


「お腹、痛いの。病院…」


 救急車より速いケビンによって病院に連れていかれた。速いのに振動がないとかスゴいなぁ……。腹痛い……。


 焦るケビンの気迫のおかげか、すぐ診察してもらえた。


「あらあら、陣痛ですわねぇ。子宮口はまだ開いてませんし、初産だから時間がかかりますわよ。別室でお待ちくださいませ。まだまだですから、旦那様は奥様に軽食と水分を買ってきてください」


「わかった!」


「病院は走らない…で欲しかったんですが、聞こえてませんわねぇ」


 先生は苦笑すると別室に案内してくれた。腹痛い。波があるので痛かったり痛くなかったりする。


「買ってきたぞ!」


 ケビンが戻ってきた。両手に色々抱えているが、こんなに食べれない。いや、そっちはどうでもいいんだよ。


「朝も何も食べてないから朝市で売ってたフルーツだ!駄目ならフルーツジュースだけでも……アオン?」


 ケビンの裾をクイクイする。ケビンはフルーツや飲み物をベッド横の机に置き、ベッド脇にしゃがみこんでくれた。話を聞く姿勢なのだろう。


「ケビン、抱っこ」


「………………うん?」


 伝わらなかったらしい。ケビンが首をかしげた。


「お腹が痛くてしんどい…何にもいらないから、ケビンに側にいて欲しい。ひっついてたい……」


「…………あ、アオン!?わわわわわわわかったが…どう、すればいい?」



 結局ケビンがベッドに座り、私はケビンのお膝に乗ってもたれかかっている。


「雪花が辛いときに喜ぶなど…なんと酷い夫なのだ……」


 普段甘えないのでケビン的に天国と地獄らしい。自己嫌悪と戦っているようだが、残念ながらケビンのフォローをする余力がない。なので、私は自分の要求のみを伝えた。


「……お腹痛い。さすって……」


「わかった!」


 魔力の関係なのか気持ちの問題なのか…ケビンの手が触れると痛みが引いて心地いい。さっきケビンが軽食を買いに行ったときは心細かったが、今は心細くない。


「…ジュース、貰おうかな」


 現金なもので、安心したらお腹がすいた。


「ああ!飲んでくれ!」


 ミックスジュース?なのかな。いくつかの果物を混ぜた感じ。スッキリしていて飲みやすかった。

 ケビンは私にジュースを渡すと、お腹を撫で続ける。


「…この痛み…代われるものなら代わってやりたいが…できないのも解っている。俺にできることがあるなら、なんでも言ってくれ!」


「じゃあ、このままでいて。ケビンが居ないと不安だから、トイレ以外はずっといて」


「キュウン!?わわわわわわかった。雪花が望むならずっと側にいる」


 チラリと見たら、ケビンは真っ赤になりつつ尻尾が勢いよくぶんぶん振っている。いつも思うが、尻尾がちぎれないのだろうか。

 魔力的なモノなのか、ケビンが側にいるだけで精神的にも肉体的にも安らぐ。痛みも軽減されている。いやあ、出産なめてたわ。地味に辛い。痛みに波があるのが救いだね…。


 ぐったりしていたら、じい達が駆け込んできた。


「若奥様ああああああ!!だだだ大丈夫でごじゃいましゅか!?ぼっちゃま!若奥様は大丈夫なのでしゅか!?」


「………じい、落ち着け。雪花の陣痛が始まった。今日か明日には末娘が産まれるだろう」


 じいは黙ってコクコク頷く。雪那と雪斗が心配そうにお腹を撫でてくれた。


「あ、ちょっと楽かも…」


「ママ、つやいわね…」

「きゅうん……」


「…もうちょっとでのんびり屋ともご対面だねぇ。楽しみだね」


 子供達に不安を与えないように微笑む。うう…腹痛い……。


「……じい、すまないが今日は二人きりにしてもらえないだろうか。雪那、雪斗…ママはパパが守る。待っていてくれないか」


「……わかったわ」

「わん!」


 それからケビンの計らいにより、私は面会謝絶となった。正直かなりありがたい。それにしても、いつからなのだろうか。ついつい他者に虚勢をはる私が、素直に甘えてしまうようになったのは。


「クゥン?どうした??辛いわけではないようだな」


 優しい手に撫でられて、幸せを感じる。痛みも和らぐ。






 それから、ケビンは甲斐甲斐しく私の世話をした。初産なめてたわ。

 その後、16時間ほど苦しんだ私に朗報が届いた。


「子宮口が最大まで開きました。いきんでください!」


「んんん~!!」


「はい、息をしてリラックス!」


「はぁ………」


「はい、いきんで!!」


「んんんん~!」


 延々それを繰り返した。


「雪花…頑張ってくれ!辛ければ俺に爪を立てていい!雪花、頑張ってくれ!」


 珍しいらしいが、ケビンは出産に立ちあった。汗を拭き、声をかけ、必死だった……気がする。実は記憶がうろ覚えだった。覚えているのは、子供の泣き声だ。


「ぎゃあ、ぎゃあああああ!!」


「おめでとうございます!可愛い女の子ですよ!!」


「……可愛い……」


 血を洗い流した我が子を抱きしめる。まだ首がすわってないからちょっと怖い。


「すいません、傷を癒しますね」


「傷?」


「赤ちゃんが出る入り口はすごく伸ばされて、たまにとんでもない方向に裂ける事があるんで、あらかじめ切るんですよ」


「………………」


 出産に必死で気がつかなかったが、言われてみれば痛い気がする。そして、裂けるとか怖い。切られるのも怖い。魔法で癒されて、こっちで出産してよかったかも…と思い………気絶した。


「雪花あああああ!?」







 目が覚めたら、なんかケビンとお医者さんが言い争っていた。しかし、眠かったので寝た。

 後に、ケビンが半狂乱になってお医者さんから叩き出されたと病院スタッフさんから聞かされた。うちの夫が申し訳ありませんと謝罪したのだった。

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