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色々読んだよ

 秘密のお茶会は大盛況だった。次回があればぜひ!と色んな貴族や王様からも言われた。次回ねぇ…第二弾は制作中なのでだいぶ先になりそうだ。獣人や赤い瞳への偏見は、一朝一夕でどうにかなると思っていない。地道に堅実に、イメージアップをしていくしかない。


 秘密のお茶会のある意味強制サイン会の後、私はある病を発症していた。そう、深刻な肩こりである。可愛い子供達が私の異変に気がついた。


「ママ、いたーの?」

「ワタチがなおちてあげゆ?」


「ああん、癒される!」


 いや、最近オーバーワークだったせいもある。治癒で治るか怪しいから試してなかった。


「おねちゃ、いたいにゃ?」

「ねーね、よちよち」


 はああああん!天国はここにあった!!ちみっ子モフモフから肉球よしよし!とりあえず、全員抱っこしてやった。し、幸せ!ちみっ子達もすっかりと私の奇行に慣れて大人しく甘えている。


「肩こりって魔法で治る?」


「なおゆけど…いちじてきだとおもうわ」


 知識チートな娘が言うならそうなのだろう。


「そもそも、ママはたらきしゅぎなのよ!」


「え」


 雪那がビシッと指さした。働きすぎ??


「ママのかたこいのげんいんは、オーバーワークなの!」


「ええ?」


 とりあえず、一日をふりかえってみよう。朝はマサムネさんと朝食を作りつつ昼の弁当とデザートを作る。洗濯して、食べたら仕事。干すのは子供達がやってくれる。 帰宅後は子供達の話を聞きながら夕食。合間で絵本の構想。子供達をお風呂に入れて、就寝…の前にケビンとのイチャイチャタイムで気絶。夜中に絵本の作成………。

 夜中に起きるのをやめようかな。イチャイチャタイムは癒しタイムなので減らせない。


「夜は寝ます」


「そうちて。ママのなかには、まだのんびいやがいゆんだかや」


 のんびり屋は少しずつ大きくなり、あと1ヶ月程度で生まれる予定だ。私のお腹は大きくなり、けっこうしんどい。


「…騎士団の仕事も出産までは休むかなぁ…」


 ケビンは大して変わらないが、副団長様達がすごく気を遣っている。お医者さんいわく、いつ産まれてもおかしくないらしい。


「とりあえず、今日はお休みだから皆と遊ぼうかな」


 珍しく予定がないので子供達をモフモフして過ごすつもりだった。


「だめよ。ママは、きょうおでかけなの」


「お迎えに参りましたわ!」


「ちょっとちごとをわけたやいいのよ。ラトビアたん、おねがいね」


「任されましたわ!さあさあ、いらして!!」





 ラトビアちゃんち、ルマン公爵邸は、豪華だが成金ぽくない。センスがいいのだろう。花を好むのか、花をモチーフとした彫刻や絵が多い。


 そして、そこにはたくさんの女性…いや、男性もいた。そして、皆緊張したご様子だ。なんなの??


「この中から、気に入ったものをお選びくださいませ」


「ええ?」


 テーブルには原稿用紙の束がある。いや、原稿用紙ではなくただの白紙に書かれたものもある。ラトビアちゃんの意図はよくわからないが、とにかく原稿用紙に目を通す。どの話にも、赤い瞳と獣人のどちらか…あるいは両方が書かれている。どれも短編だから読むのにさほど時間がかからない。

 恋愛が多いが、似たような話ばかり。でかくて醜い獣人とお姫様って流行ってんの?


「これ…面白いわ」


 原稿用紙ではなく、ただの紙に書かれた素朴な話。獣人が書いたのだろう。何気ない日常だが、そんな毎日にも変化がある。

 穏やかで、少しだけクスッと笑ってしまう話。人も獣人も、さほど変わりはないのだと思わせてくれる。獣人あるあるや、獣人から見た『人間ってここが変』というところなど、続きもほしい。


「では、こちらは合格ですわね」


「っしゃあ!!」


 少年がガッツポーズした。どうやらこれを書いたのは少年らしい。貧しい身なりでキョロキョロしていたが、今は興奮して瞳を輝かせている。


「君がこれを?」


「!?あっはいそう…デス。お目にかかれて…お声をかけていただきまして、光栄です」


 服こそボロボロだが、彼はとても優雅な立ち居ふるまいを見せた。


「とっても面白かった」


「あ、ありがとうございます!」


 少年の名前と連絡先を教えてもらった。鴉の獣人でスキュア=クロークと言うらしい。


「姫様、最低あと3作は選んでくださいませね」


「うん?」


 よくわからないが、この緊張した人達が書いたものを選ばされているようだ。私の独断と偏見でいいのか疑問だ。まあ、元から読書は苦じゃないのでわりと楽しい。こっちに娯楽本はほぼないしねぇ。


「あや?」


 すごく丁寧な字で書かれた原稿は、とても面白かった。設定こそベタだが、それを補ってあまりある表現力とテンポの良さは素晴らしい。他の話と同じく醜い獣人とお姫様の話だが、これは秀逸…他とはレベルが違った。


「これはどなたが?」


 そう言いつつ、作者名を確認したら、ショコラ=パフェと書かれていた。


「神よ!なんと、使徒として私を選んでくださるとは、ありがたき幸せぇぇぇ!!」


 遠くて姿が見えないが、ショコラちゃんだった。間違いない。今気がついたが、これ…私とケビンの設定じゃね!?ドラゴンを倒したりしてないから気がつかなかった!猛々しい地の鳥……ダチョウか!そういや、ダチョウでローシィア襲来したことがあったわ……

 とりあえずショコラちゃんのはやや事実が含まれているからまだいいが、他のやつはツッコミどころがありすぎる……

 そして、なぜ私は気がついてしまったのか…これ、かなり読むのが苦痛……恥ずかしい。


 そして、最後になりました。最後に読んだ話は、悲しい話だった。私はこの話を書ける人を知っている。


「リジィさん、ですね」


「…はい」


 絵本を一緒に作ったリジィさん。リス獣人である彼が私の前に現れた。


「私、このお話をもう少し救いがあるものにしたいです。どうですか?」


 リジィさんのお話は、かわいそうな少年の話だった。少年は、瞳が赤いために病気の薬を与えられなかった。だが、彼は聡明だった。自分で調べ、調合までしていた。

 そして、優しかった。役立たずの兄の才能を見いだし、薬草探しついでに絵の具の材料を集めて作ってくれた。兄は絵師になったが、弟は死んだ。兄は弟を救えず、嘆き悲しみ、今でも赤い絵を描いている。


 これは、きっとリジィさんが実際に体験したものなのだろう。だからこそ、心に響く。リジィさんの苦悩、葛藤、弟さんを大切に思う気持ちが伝わるのだ。


 変えるのはラストだけ。弟は赤い花に姿を変えて兄を見守る。その花を兄が描いた。それは素晴らしい絵で、人々はその赤い花を愛した。

 そうして…誰もがその赤い花を愛するようになった。


「…なんて、いかが?」


 悲しいだけで終わってほしくない。ベタだけど、ちょっとだけ救いのあるラストだ。

 リジィさんを見たら、号泣してた。いや、リジィさんだけじゃないわ!ラトビアちゃんも、他の人達も大号泣してるわ!!


「うああああああ、よかったよ、よかったよぉぉぉ!!」

「ああ、涙が止まりませんわ!」

「ああああああああああ!!」


 久しぶりの異世界ギャップキター!!私は皆さんが泣き止むまで固まるのだった。異世界の人たちは涙もろいらしい。

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