囲まれたんだよ
とりあえず、ヘルマータのおかげでなんとかなったし、自分も冷静になれたので雪花の所に戻ろうとした。
「あの、ちょっとお話をうかがいたいのですが…」
声をかけてきたのは小柄な令嬢だった。話しにくかろうと屈んで目線を合わせる。敵意はなく、穏やかそうな娘だ。彼女は屈んだ俺に優しく笑いかけてくれた。今までなら、あり得なかったことだ。
「ありがとうございます。えっと…こちらに来ていただけますか?」
戸惑いながらも素直に令嬢の後ろをついていく。パーティのために解放されている休憩用の部屋に通された。
「お待ちしておりましたわ、騎士団長様!!」
そこにはギラギラしたラトビア嬢がいた。なにやら興奮している。
「…何か用が?」
正直、ラトビア嬢と同じくギラギラした令嬢…よく見たら侯爵夫人とかもいる。女性に囲まれて、ついかまえてしまう。あまりいい経験がないから仕方ないだろう。
「お願いがありますの。お姉様との運命の出会いから結婚・出産に至るまでのお話を聞かせてくださいませ!」
「…雪花の話を?」
「はい!」
女性達は期待に満ちた瞳で皆頷いた。誰かに話した事はあまりなかった。騎士団の連中は知っているし…話したのはカマータ氏に話したぐらいか。
「…わかった」
出会いは衝撃的なものだった。流石に全裸で謝罪は土下座に修正して話す。雪花は俺のどこが気に入ったのだろうか。最初から好意的で優しかった。
出会った頃は幼い姿だったので、庇護対象だった。その時点でも、俺に優しい雪花に好意があった。完全に恋に落ちたのは、彼女の真の姿を見た時だ。
『きゃああああああああああああああああああああああああ!!』
女性達が悶え、悲鳴をあげる。まだ本当にさわりの部分なのだが。
「くっ…まさか、こんなドラマティックな恋だったなんて…」
何故かうちひしがれるラトビア嬢。ドラマティック…だろうか。要は一目惚れだ。自分ではよくわからん。
「ああ…これまでの話をすべて書き直してしまいたい!」
「…ラトビア嬢」
頭をかきむしるラトビア嬢の手を取った。
「貴女の文章はとても素晴らしかった。雪花からの目線でほぼ書かれていたな。俺からの目線だと、同じ出来事でも感じ方が違うこともあるだろう」
「…騎士団長様…そうですわね。続きを話していただけませんこと?」
彼女への贈り物、それを大切に身につけてくれていた嬉しさ。婚約を賭けたヘルマータとの決闘…
「はああああ…お姉様ったら恥ずかしがって話してくださらないのよね…あああん!こんなに身近で心ときめく素敵な恋物語があったなんて!!」
「ですわねぇ…しかも、一途な愛!」
『……………素敵』
女性達は皆うっとりしていた。そのテンションについていけないが、雪花が誉められているのは嬉しい。
「さあさあさあ!その後どうなりましたの!?」
興奮した女性達に驚きながらも続きを話す。
「そうだな…」
やはり衝撃的な初でーと…お試しの話は欠かせないだろう。こちらではありえない、女性からの贈り物。雪花はわざわざ自力で稼いだ金で買ってくれた。今でも大切にしている。
不備と予想外だらけの波乱万丈な初でーとで、ラトビア嬢と初めて会ったのだな。
「まあ!私ったらそんな一大イベントに!?いい…いいですわ!お姉様の偉大さと優しさを伝えるために、私は愚かな道化となりましょう!!」
「…待ってくれ」
ラトビア嬢達は盛り上がっているが、それではダメだ。
「雪花が悲しむ。最初の出会いは確かにいいものではなかった。だが君は今、雪花のかけがえのない大切な友人なのだ。自分を貶めるような事はしないでくれ」
「う…………」
ラトビア嬢がうつむいた。意見すべきではないのかもしれないが、雪花が大切にしている友人なのだ。見過ごすわけにはいかない。
「騎士団長様、醜いけだものだなんて言って、本当に本当にごめんなさぁぁい!!」
「!?」
ラトビア嬢はなんと号泣しながら謝罪してきた。
「こんな、優しくて誠実な人に…ごめんなさい、本当に私、見る目がありませんでしたわ!!ああああ、今すぐお姉様にも謝りたいぃぃ!!」
ラトビア嬢が叫びだした。まさか、こんなに素直な少女だとは思わなかったな。雪花がもたらしてくれた、たくさんの変化と幸せを思い微笑んだ。
「雪花は君の謝罪を受け入れただろう?もう気にしなくていい。君が悩み悲しむ事を、雪花も俺も望まない。罪滅ぼしをしたいなら…そうだな。雪花を遊びに誘ってくれないか?きっと、喜ぶ」
最近は仕事に家事に育児に副業までやりだして完全にオーバーワークだから、子供の世話を忘れて友人とお茶をさせてやりたいのだ。そう説明したら、何故か女性達が俺を拝んでいた。
「流石はお姉様……」
「こんな気遣いされてみたい…」
「懐が深いのよ…」
「うちの夫なんて最近は…」
「私の婚約者も最近は…」
後半は愚痴になっている気がしたが、皆雪花を誘うことには快諾してくれたのでよしとしよう。
雪花の話はまた後日となった。一気に聞くのはもったいないらしい。よくわからなかったが、別に異論はないので承諾した。
そして我が妻の元に戻ろうとしたら、雪花のサインを求める長蛇の列に遭遇。涙目の雪花を救出しつつ、人気者も大変なのだなぁと思った。
来るのが遅いと拗ねる雪花も可愛かった。待っていてくれたのだと、どうしようもなくときめいた。
俺は今日も、幸せだ。