旦那様と強化版ヘルマータなんだよ
ケビン視点になります
雪花に醜い嫉妬を見透かされたのが恥ずかしくて逃げ出したが、ちょっと冷静になってきた。
「ローゼンシア嬢、私と少しお話をしていただけませんか?」
「だ~か~ら~、私はこちらのスノウ様とお茶をすると申しておりますの!貴方とお茶すると、愛し合っただのなんだの話を捏造するからいやですわ!」
「……リンド公爵子息、ローゼンシア様は本気で!心の底から!嫌がっておいでです!どうか諦めてください」
「ふふふ、何を言うんだいスノウ君!ローゼンシア嬢は恥ずかしがっているだけだよ!」
ダメだな、これは。
ヘルマータが言う通り、以前のヘルマータと同じで話がまるで通じない。ポジティブを通り過ぎている。
「………何か、問題がありましたか?」
「まあ!騎士団長様!!」
声をかけると、ローゼンシア嬢は嬉しそうにこちらへ来た。正直女性に顔をしかめられることはあっても、こんなに笑顔で来られたことはないので驚く。
「ケビン様!」
スノウもホッとした様子だが、やけに疲れてもいるようだ。
「ごきげんよう、騎士団長殿。特に問題はございません。可憐な薔薇が照れてしまっているだけです」
にこやかに答えるヘルマータの兄。それに
「聞いてくださいませ!こちらの方がお誘いをお断りしているのにしつこいのです!」
「ふむ……」
さて、どうやって説得したものか。ヘルマータの兄であるタッカート=リンド公爵子息に目をやる。
俺をじっと見つめる相手はやはりヘルマータに似ていた。つい頭を撫でてしまう。
「は!?」
「え!?」
「あ」
さすがに相手も驚いたようなので謝罪した。
「いや、すまない。貴殿が弟君に似ていたもので…つい」
「……弟からもうかがっております。自分はあんなにも騎士団長殿に無礼を働いたのに、とてもよくしていただいていると。男の中の男とは、貴殿のような人物を指すのだと、我が事のように語るのです」
「……そうか。ならば、その期待に恥じぬようにせねばなりますまい」
お互い穏やかに語りつつ、さりげなくスノウに合図する。
『逃げろ』
ヘルマータと違い、社交性もあるから彼が口にしたならば真実味が増す。ヘルマータには周囲も呆れていたが、彼は社会的信用もある。
「貴殿は何故ローゼンシア嬢を好ましいと?」
「それはですね!ローゼンシア嬢は華やかな美貌をしているではありませんか!私の美貌にひけをとらぬ美しさの人間はそうはいません!彼女は我が伴侶となるために産まれてきたのです!これは運命でしょう!!」
興奮して頬を染めるリンド公爵子息に、微塵も共感できなかった。見た目しか見ていない。それではローゼンシア嬢も嫌がるだろう。
「彼女の内面は?何を好む?何をしたら喜ぶ?失礼だが、貴殿は本当にローゼンシア嬢を愛しているのか?」
「!?当然です!いきなりなんてことを言い出すのですか!無礼ではありませんか!!」
しまった、言い方を間違えたか。謝罪しようとしたら、見慣れた背中が前に出た。
「いい加減にしてください、兄上!!目をそらして、自分を誤魔化しても仕方ないですよ!兄上は…兄上だって、本当は解っているのでしょう!?兄上はローゼンシア嬢に、明らかに避けられています!!」
「ぐはっ!」
「しかも、迷惑だと苦情が来ています!!」
「ぐふっ!!」
「目をそらしても仕方がないでしょう!!兄上は…兄上は、ローゼンシア嬢に、毛虫よりも嫌われております!!!」
「ぐっ…ぐ…………ぐほおおおおおおおおおおお!!!」
ヘルマータによる連続攻撃で、リンド公爵子息は胸をかきむしりながら撃沈した。ヘルマータよりも周囲を見る能力があったぶん、意外にきちんと状況を把握していたらしい。
「兄上……私達が愛せる女性は確かに希少です…ですが、独りよがりでは駄目なのです。私は…ようやく目が覚めました。兄上、兄上は私より優秀です。ローゼンシア嬢を愛しているなら引くべきです」
「ヘルマータ…まさか問題児のお前に諭される日が来るとはな」
苦笑するリンド公爵子息。確かに、ヘルマータは成長した。雪花と関わり、キチンと他人の話が聞けるようになった。
「兄上………呑みましょう」
「うん?」
呑む??
「失恋は呑んで癒すらしいです!今日は呑みましょう!!」
「そうなのか?」
ヘルマータに微妙な知識を吹き込んだのは誰だ!?いや、間違いでもないが……と悩んでいるうちに、リンド兄弟は行ってしまった。
翌日、ヘルマータが二日酔いでフラフラしていたのは仕方ないと思う。