まず、身辺整理すべきだよ…整理しすぎた気もするよ
ぼんやりペンダントを眺めていたら、杖で小突かれた。私にそんなことをするのは賢者のじいちゃんぐらいである。小柄で可愛らしいじいちゃんだが、中身は可愛いくないじじいである。正直歯に衣着せないもの言いが気に入っているのも事実だけど、本当に口が悪い。
「こりゃ、まったくこのワシが直々に指導してやっているというのに茶菓子も用意せんとはどういう弟子じゃ、まったく!」
私は慣れた手つきでお茶と茶菓子を用意した。
「じい……賢者様のためにご用意いたしました。どうぞお召し上がりください」
この世界で甘味は超高級品。じじいはこの甘味目当てで私に魔法を教えている。
「ふむ、今日はケーキか。悪くない」
ケーキと言っても甘いパンみたいなやつで、私はあまり好まない。甘さも控えめでもっとふっくらした奴が食べたい。今度自分で作ろう。
「さて、今日は…」
「あ、賢者様!魔法具貰ったんですが、これってどうやって使うんですか?」
「魔力をこめれば…んん?こりゃまっさらな状態じゃのう。自分で術を入れるんじゃ」
じじいは口が悪いが教え方は上手い。まっさらな魔法具の場合はあらかじめ何の魔法を入れるか優先度順に箇条書きにするとよいそうな。
「なるほど」
・所有者登録
・自分の意思以外で着脱不可
・魔法具自体の強度強化
・魔法が封じられた場合特定ワードまたは特定の動き(十字に石に触れる)で魔法封じ解除
・魔力吸引・貯蔵(ただし所有者の魔力が半分以下になれば供給に転化)
・外傷治癒(重症時には生命維持を優先、主要臓器を優先しての治癒)
・全状態異常無効化
・悪意ある魔法・物理攻撃をはじく自動結界
・悪意がなくとも危険な場合自動で結界発動
・一定距離を離れると自動で持ち主のもとに戻る
・持ち主の意識がない場合は指定人物の元に強制転移(ただし睡眠時は転移しない)
「こんなとこかな?」
「発想が面白いのう…流石は異界の娘」
そして優先度を決めて魔法を入れていったのだが……
全部入った。
「賢者様!優先度を決めた意味がないじゃないですか!!」
「普通はこんなに入らんわ!むうう…ああ!?この意匠は……」
「?」
「あのへそ曲がり…魔宝石の天才職人による作品じゃ。よほど気に入られたのか…石も最高品質じゃな。まあ、かなりの品じゃ、大事にせぇよ」
「…はい」
おっさんからの…好きな人からのプレゼントですからね。ガラクタだったとしても大事にしますよ。
さて恋心を自覚したからには、やらねばなりませんね。
「申し訳ありません。もうお受け取りすることはできません」
私は面会に来た貴族の男性一人一人に丁寧に説明した。何度も、何度も。
「好きな方がいるのです。その方に不実なことをしたくありません」
中には贈り物が気に入らないのかと見当違いな事を言う人もいた。しかし、私はきちんと一人一人に説明を繰り返した。
「お気持ちは嬉しいのですが、私はもう好きな方以外からは受け取りません。貴重なお時間を無駄にさせてしまい、申し訳ございません」
あくまでも丁寧に。相手はわざわざ予約してまで来ているのだから、キチンとした対応を心がけた。
結果、大半が私の話をちゃんと聞いてくれた。貴族の男性客は来ている……が、話をちゃんと聞いてくれた大半はもう私を口説くことはない。ない、の…だが…………
「姫様、騎士団長の幼少期の絵姿ですよ!苦労しましたよ~」
「姫様、この間騎士の予算横領しようとした馬鹿を告発しておきましたからね!最近はちゃんと予算が出ているはずですよ」
「姫様、今度騎士団長が合同演習出るみたいですよ!いい席おさえておきました!」
「姫様!騎士団長さんの次のお休みは3日後だそうですよ!」
「姫様!姫様絡みで騎士団長さんに嫌がらせしてた馬鹿は2度とする気が起きないようにシメておきましたからね!」
彼らは何をどうとち狂ったのか『異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会』なるものを設立し、私の恋をサポートしている。そして、困ったことにその仕事がまた完璧なのである。
「あ、ありがとう…」
解散を命じたいところだが、彼らのおかげでおっさんへの風当たりがゆるくなった…どころか彼らは率先しておっさんの風避けになってくれているらしい。おっさんのためになることをやめろとは言いたくない。
どうしたらいいのかと考えたが、せいぜい彼らに礼を言って茶菓子を提供するぐらいしかできない。
「すいません、私…せいぜいお菓子を作るぐらいしか…」
「いやいや、姫様しか作れませんから!」
「十分な報酬ですよ!」
皆さん、優しいので私のクッキーごときで報酬は満足しているらしい。お菓子の研究をすべきだろうかと私は真剣に考えている。
「いや、姫様は本当にいいですねぇ。基本この国の女性はしてもらって当然、贈り物も当然なのに謙虚でお礼をしなければと悩んでらっしゃる」
まさかのワールドギャップでしたか。そうか、彼らにしてみたら、損得抜きで女性には尽くすべきと思ってるんだね。
「で、でも『友人』なら対等であるべきです」
『友人』
貴族の青年…少年もいるが…達はキョトンとした。え?変なこと言った??
「わ、私的にはこうやって仲良くお茶をしてる貴殿方は友人と思ってますが…」
まさかの一方通行か!?
「み、皆さんに感謝してますし…仲良しなんだと思っていたのですが…違いますか?」
『違いません!我々は友人です!!』
私は彼らの変なスイッチを押したらしい。彼らはいい笑顔で帰っていった。なんだかいつもよりヤル気満々だった。やり過ぎないか不安である。
「流石は姫様!人たらしぃ☆」
見た目は可愛いが中身は毒舌腹黒なメル君からウインクいただきました。
「たらしてない!人聞きが悪いよ!」
「え~?見事な手腕だよ?みぃんな超ヤル気になってたよぉ??ま、おかげで騎士団長さんの味方も激増だしぃ、いいんじゃな~い?」
「うう………」
異世界で身辺整理をしたら、頼もしすぎる友人がたっくさんできました。い…いいのかなぁ??
とりあえず、メル君には癒されないのでおっさんに会いたいです。ギブミー癒し!!
その頃のおっさんとオレンジ頭の会話。
「…なんか最近、姫様との仲を応援されるんだが…俺はそんなにわかりやすいか?」
「はい(断言)」
「「…………………」」
「そんなにか?」
「はい。まぁ、本当に応援されてるみたいだし、嫌がらせも激減してるしいいじゃないっすか」
「ぐぬうぅ(悶え)…しかし恥ずかしいのだが……」
「耐えろ。予算また削減されたらキツいでしょ」
「…………………そうだな」