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驚いたんだよ

 ケビンにオススメ料理を食べさせたり挨拶をしたりしていたら、見覚えがあるお兄さん…いやお姉さん??のカマータさんが急接近してきた。今日はややお洒落さん…なんか関西のおばちゃんを彷彿とするヒョウ柄ですね。すげー強そう。


「んもぉぉお!!姫様ったらい・け・ず、なんだからぁん!!」


 ドレスアップしてますます性別不明になったカマータさんが、ブリブリクネクネしながらプリプリしている。


「えっと…いけず、ですか?」


 とりあえずカマータさんに意地悪(いけず)だと言われる理由が思いつかないので、本人に聞いてみた。


「そうよ!んもう、え・ほ・ん!!アタシに言ってくれたらすぐに劇にしたのにぃぃぃ!!大ヒット間違いなしなのにぃぃ!!」


「あ~、なるほど」


 考えなかったわけではないのだが、私の要望と微妙に合致しなかったからやらなかったのだ。


「カマータさんへの意地悪ではないですよ。ただ、劇は贅沢ですよね?」


「………そうね」


「絵本は富裕層向け、紙芝居は貧困層向けなんですよ」


 それだけでカマータさんには充分意味が通じたようだ。納得してくれた。


「なるほど~。ウチは庶民向けだけど、流石に貧困層は劇なんか見に来れないものねぇ」


「色々考えた結果ではあります。話を劇にするのはかまいませんよ。カマータさんなら私が何をしたいか理解してるでしょう?」


「…そうね。赤への忌避と獣人への忌避をなくしたい。今は赤にしぼってる…違うかしら?」


 疑問形だが、カマータさんは確信しているようだった。自信ありげにニヤリと笑う。


「正解です。そこだけ理解してくれれば、話をいじってもかまいませんよ」


 カマータさんからいくつか質問をされ、素直に答える。しばらくして、カマータさんがケビンの手にある危険物に気がついた。気がついてしまった。


「…その本は?」


「ああ、これは…」


 私がなんでもないと否定しようとするより早くカマータさんが動いた。


「ちょっと見せていただけるかしら」


「あっ」


 止める間もなくケビンからラトビアちゃんの本を受け取り黙々と読むカマータさん。

 そして、静かに本を閉じた。



「ファンタスティック!!サイッコーじゃねえか!!」





 大変だ。カマータさんがオネエキャラを放棄した。そして涙を流しながら叫んでいた。


「やっべぇぇ!これやっべぇぇ!!これも姫様が!?すげ!やっべぇぇ!!」


 ついでに言語機能も弱体化したっぽい。必死で首を横に振る。この本を書いたのは、私ではありません。そんなナルシストじゃないから!


「お目が高いですね。その本は、異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会改め、異界の姫様と騎士団長の愛をサポートする会・女性部部長のラトビア嬢が執筆したものです」


「ひゃ!?」

「きゃあ!?」


 ケビン以外が驚いた。ケビンは気がついてたみたい。そして、悲鳴でカマータさんに女子力が完敗している私。悔しくなんかないんだから!いや、そこはどうでもいいや!

 それより何より、マーロさんはいつから背後にいたの!??


「ラトビア嬢は無事紙とペンを得て部屋を借り執筆を開始しました。ですから私は邪魔にならないように戻ってきたのです。ちょうどそちらの方が『ちょっと見せていただけるかしら』と言った辺りから居ましたよ」


「そっか……ではなく!人の思考を読まないでください!!」


「はっはっは、流石に読めませんよ。予測しただけです。さて、先程の本についてですが、あれは我ら『異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会改め、異界の姫様と騎士団長の愛をサポートする会』の愛読書…いえむしろ聖書(バイブル)と言っていいでしょう。その本を舞台化すると言うのならば、異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会改め、異界の姫様と騎士団長の愛をサポートする会・会長であるこの私が全力でサポートいたしましょう!ラトビア嬢へのアポイントもお任せください!」

「まあ!ありがたいわ!是非お願いします!!」


 止める間もなくカマータさんはマーロさんにお願いした。あの恥ずかしい話が舞台化!?止めようとしたら、マーロさんがニッコリ微笑んだ。


「姫様、目的に多少の犠牲は付き物ですよ。赤への忌避と獣人差別…どちらも緩和できる作品となるでしょう」


「ぐぬぬ…」


「芝居は中流から貴族層に人気だから、かなり幅広く見てもらえると思うわよん」


 カマータさんがウインクした。今、私の中で目的と恥ずかしさとがせめぎあっている。


「心配しなくても大丈夫!素敵な舞台にしてみせるわ!やっぱり姫様のお話は最高だわぁ…本当にいいお嫁さん…物語から抜け出してきたかのようだわぁぁん!はぁん、萌える…萌えるわぁぁぁ!!」


 人を二次元から出てきた萌えキャラみたいに言わないでいただきたい。やっぱりラトビアちゃんの書いたものを演劇にするのはやめてもらおうと思った。思ったんだよ。


「そうだろう!雪花は奇跡のような素晴らしい妻なのだ!!雪花の素晴らしさを知ってもらうこともできるだろう!俺も微力ながら助力しよう!!」


 でもさぁ、ケビンが乗ってしまったのだよ。しかも、協力するとか言っちゃったのだよ。キラキラと瞳を輝かせ、尻尾をちぎれんばかりに振っているんだよ。

 あの話…ケビンはほぼ等身大なんだけど、私がやったら美化されている。私がラトビアちゃんを助けた事があるせいなのだろうか。お姉さん、そんな善人じゃないからね?お姉さんはいつかラトビアちゃんがよからぬ輩に騙されないか不安です。

 やや思考が脱線しつつも葛藤する私の耳元に、マーロさんが囁いた。


「…これで姫様が反対したら、ケビン殿はとてつもなく悲しむでしょうね…」


「ふぬあ!??」


 瞬時に浮かぶ、悲しげなケビン。耳も尻尾もへたって、涙目。悲しげな表情で『雪花が嫌なら仕方ないな…』と諦める姿。


 私には…私にはできない!可愛い(ケビン)を悲しませることはできない!!


「どうした?雪花」


 楽しげに尻尾を振りながら結局可愛い可愛いケビンが喜ぶなら………と許してしまう私がいるのだった。




 余談だが、無事ラトビアちゃんと契約したカマータさん。ラトビアちゃんはあまり自分の執筆活動を知られたくないらしく、カマータさんと専属契約にしたそうだ。それを聞いてホッとしたのだが…私は間違っていた。


 カマータさんの舞台でしか観られないとなり、舞台は大盛況。おまけに…異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会改め、異界の姫様と騎士団長の愛をサポートする会の初期メンバーは貴族が多い。最近ではスイーツに釣られた貴族女性も入会しているそうだ。


 結果、大口のスポンサーがつき…この国で知らぬ者は居ないレベルの大人気な演目となってしまった。


 何故私とケビンの話がこんなにも大ヒットしてしまうのか……この世界は色々とおかしい。すごくおかしい。

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