そんな常識知らないよ
紙芝居もスタートした。紙芝居を読む吟遊詩人は正式に冒険者ギルドに依頼を出して私が面接し、選定。
吟遊詩人だけでなく、商業以外の依頼は冒険者ギルドなんだそうだ。この世界のハ□ーワークみたいなもんなのだろう。
もちろん凶悪な魔物の討伐依頼なんかもあるのだが、この辺りは騎士団が定期的に狩っているので初心者向けなんだと聞いた。かわりに生計をたてるためのおつかいとかバイト的な依頼が多い。
面接中、妙な違和感に気がついた私。しかし3人目の吟遊詩人さんは普通だった。気のせい?と首をかしげていたら相手が話しかけてきた。
「あ~、すいません。失礼を承知で聞いていいっすか?」
吟遊詩人さんは名前をライト=グリーンリバーさんと言った。某声優さんを彷彿とさせるだけあって、超美声だった。しかし見た目はワイルドイケメン。こっちで一般受けはしないだろうが、私的にはイケメンだ。
「はい、どうぞ」
「異界の姫様は旦那を愛してて、他はいらないんスよね?」
「はい」
素直に頷いた。ライトさんは頭をガリガリ掻いてから、衝撃的な発言をした。
「なら、募集要項書き直した方がいいっす。大半があんたの愛人志願者ですよ」
「は、はああああああ!??」
「あ~、やっぱわかってなかったか……」
「ぐひゅひゅ……」
そして部屋の隅で痙攣するカダルさんに苦情を申し立てた。
「カダルさん、知ってましたね!?吐け!どういうことか、吐けええええ!!」
ライトさんは暴れる私にドン引きしていた。
カダルさんによると、吟遊詩人は大きく二つに別れる。一つは冒険者との兼業をする者。冒険者がメインでたまに酒場等で歌う場合も含まれる。もう一つは、吟遊詩人という名の男娼。名目は歌を聴くためと招き、実際は期間限定の愛人となるらしい。
それを知らないで募集をかけた結果、後者が殺到したらしい。カダルさんに『依頼を出しますけど、本当にいいんですか』と聞かれた。募集要項を読むとどちらの募集か判別できないから聞いたらしい。ちなみにわざとその辺りを教えなかったようだ。カダルさんよ!だから知ってたなら先に言えってば!!
※ちなみにケビンはある意味純粋培養だから知りませんでした。
私の荒ぶる気持ちが落ち着いてから再度お話ししたところ、ライトさんは快諾。紙芝居の読み手を引き受けてくれた。そして、愛人志願者はお引き取りいただいた。
その後ライトさんの紙芝居を試しに我が子達と私が聞いたのだが…
「すごいイケボ……」
「いけぼ?」
すばらしき美声!流石はグリーンリバーライトさん!!しかも、演技も完璧!!正式に契約して業務内容を説明したのだが……
「ベッコウアメはやめたほうがいい。どうしてもセットにしたいなら、金を取らねーとダメだ」
彼は私の意図をちゃんと把握しようとこちらの話をよく聞いてから自分の意見を話してくれた。声以外もイケメンだった。
「ベッコウアメはうまい。だからそっちのインパクトがありすぎる。赤への忌避感を無くしたいなら、おまけも赤いものにすべきだ。カミシバイだけで充分に面白いし、客はかなり来る。保証するよ。この話は面白いし、カミシバイは目新しい」
そうか、人を呼べばいいってわけじゃない。
ライトさんと話し合い、おまけはイチゴみたいに赤い果物の果汁で色と香りをつけたアメにした。100個に1個の確率で包装紙に当たりマークがあり、それを引いた子には赤い石飾りのついたペーパーナイフかペンダントをプレゼント。そんなに価値のあるものではない。500円ぐらいの品だが、子供達はきっと喜ぶだろう。
アメは一人一個まで。価格は小銅貨1枚(大体50円ぐらい)にして、貧乏な人でも買える価格設定にした。ちなみに甘味は高価なので、普通のアメは10倍ぐらいする。
他二人の吟遊詩人さんはケビンがいる場で面接した。愛人はいらないと明記したにもかかわらず愛人志願者が紛れていたからだ。ケビンの判別がかなり的確で、私は楽だった。
他二人もちゃんと真面目に仕事をしてくれそうな人達を雇えてホッとした。
「ケビンのおかげで助かったよ。ありがとう」
ケビンが愛人志願者を一喝して追い払ってくれたおかげで、予定より早く終了した。しかし、ケビンは浮かない顔をしている。
「どうしたの?」
「その……雪花は本当に俺だけでいいのか?今日来た者の中には見目がよい者が多かった。嫉妬にかられて追い返したが…」
「ケビン、ワンモア」
「アオン?わんもあ??」
おや、通じなかったようだ。なので言い直した。
「もーいっかい。アンコール」
「……?ええと…雪花は本当に俺だけでいいのか?今日来た者の中には見目がよい者が多かった。嫉妬にかられて追い返したが…」
「…本当は私を独り占めしたい?」
「………そうだな。本当なら夫になれただけでもあり得ないほどの幸せなのに…俺は強欲になってしまったらしい。雪花…君を独り占めしたいと望んでしまっている」
そっとすがりつくように抱きつくケビン。とりあえず、そのモフい尻尾をニギニギしてやった。
「ケビン?私、昼も夜もケビンだけでお腹一杯なの。ケビン、特に夜が激しいから…他の人なんて考えられないぐらい満足してる」
「!???アアアアアアオン!?」
動揺しすぎではないだろうか。真っ赤になっているケビン、可愛い。
「私、毎晩ケビンに気持ちよくされて…気持ちよすぎて気絶しちゃうぐらいなのにこれ以上なんて……壊れちゃうわ」
「あババババ!??な、せ!?」
上目づかいであざとくケビンに媚びてみせた。逃がさないよう尻尾を確保するのも忘れない。
「ケビン、二人だけじゃ物足りないの?もっと激しいのがした「違う!そういう意味じゃない!!」
ですよね、知ってた。むしろしたいと言われたら断固拒否して今夜はお仕置プレイだったよ。
「ケビン、私は他の人に触られるとか気持ち悪い。ケビンだけがいいから、ずっと強欲でいて。むしろ絶対誰かに譲ろうなんて考えず、私のためにも未来永劫独り占めするつもりでいて」
「…………わかった。その、雪花。俺はずっと君を…独り占めする」
いつも他人に譲ってばかりだったケビンの変化が、とても嬉しかった。