おっさんから贈り物をもらったよ
カダルさんが弟達を追いかけていったのをいいことに、私はおっさんのお膝でおっさんを愛でていた。おっさんに狼顔になってもらい、スリスリもふもふするのである。
「もふもふ…前よりふかふかだけど、ブラシをかけたの?」
おっさん、サラサラふかふかになっていて撫で心地が以前よりもいい。
「その、姫様に会えるからと……み、身だしなみとして念入りに……櫛でとかした。姫様は俺をもふもふ?したいらしいし………」
「めっちゃ櫛ですいてたよー。いや、団長マジで姫様に会えるってなったらソワッソワしててさ、俺に頭下げてまで付き添い頼むぐら…いたたたた!?」
「ライティス…黙れ」
おっさん…なんて可愛いんだおっさん!でも照れ隠しにオレンジ頭にハンドクローはやめてあげて!なんかミシミシいってるよ!?
「おっさんも私に会いたかったんだ?嬉しいなぁ」
「ぬあ!?は………う…………はい…」
おっさんはオレンジ頭の頭を離すと顔を隠した。照れてるらしく、狼の耳が赤い。
「姫様、姫様」
「ん?」
「団長さぁ、姫様のことずっと気にしてて仕事も手につかなかったんだわ。だから、仕事できる人素敵とか言っといて」
オレンジ頭はきっとこれを言うためについてきたに違いない。オーケー任されたよ!
「仕事ができる人って、カッコいいよね」
「そ…そうですか!?」
「うん。デスクワークをそつなくこなせる人って素敵だと思う」
「…………が、頑張ります!」
これでいいの?とオレンジ頭を見たら、グッと親指を立ててました。よかったらしい。
「ひ、姫様に贈り物があるんです」
おっさんが綺麗な長方形の箱を渡してきた。おっさん、汗だくだよ。緊張しすぎて箱がややひしゃげたよ?
「ああ!?」
ひしゃげたのに気がついたらしく、おっさんが泣きそうになってしまった。
「…ちょうだい」
「へ?」
「おっさんからのプレゼントなら欲しい。箱が潰れててもいい。欲しい。だからちょうだい」
「………は、はい」
震える手が渡したひしゃげた箱。
「開けていい?」
「!?は、ははははい」
貰った贈り物をその場で開けるのは『貴方と私も仲良くしたい』という意思表示なんだよね。
「わあ…」
可愛いネックレスだった。光の加減で赤になったり青になったり……繊細な蔦模様の飾りも可愛い。今の私より大人の…本来の私を想定したものだろう。やや大人びたデザインで、私好みだった。
「ひ、姫様は…俺の瞳を綺麗だって言ってくれたから…あ、あの!魔法具にもなるんだ!赤色にもなるから多少他より安かったが、かなりいい宝石で、可愛らしいし姫様にきっと似合うと……思って…………」
真っ赤になりながら必死に説明するおっさんに微笑んだ。いや、可愛いなぁ。しかも、ここに来てたくさん贈り物を貰ったけど『女性が喜ぶもの』ばかりだった。でもおっさんの贈り物は『私を想って選んだもの』だ。本当に嬉しい。
「つけて」
「はい?」
「これ、つけて。気に入ったからつけたいの」
おっさんの膝に横抱き状態で座っていたが、おっさんに背中を向けた。おっさんは手が震えているらしく、ネックレスがやたらカチャカチャいっていた。
「ありがとう!大事にするね!」
久しぶりに心から笑ったなぁというぐらい、私は浮かれていた。だから、うっかりおっさんの膝から降りてネックレスを見せてしまった。
「フオオオオーン!!アオアオアオオオーンン!!」
おっさんは泣きながら走り去った。
「おっさあああああん!?」
「俺、団長追っかけるわ!テンション上げすぎだよ、姫様!!」
「正直すまんかった!おっさんをお願いね!」
一人になって、おっさんからのプレゼントを眺める。魔法具なのは解ったが使い方も教えてほしかったよ、おっさん。
「ふぅ………」
『ごめんね、姫様』
油断していたら、ピエトロ君の話を思い出してしまった。
『姫様はもう、神様でも帰してあげられないって…』
悪いのはミスティアって女神だし、ピエトロ君は謝らなくていいよ。そんな泣きそうな表情しなくていい。
そんな気はしていたから。私は多分…死んだことにでもなっているのだろう。身寄りがない…あの世界と縁が薄い人間だったから。
手の内にあるおっさんの目の色をした宝石のおかげか、おっさんに癒されたおかげか、今はそこまで悲愴感がない。
ぶっちゃけ、プロポーズまでしたくせに会いに来なかったおっさんに拗ねていた。
でも、会ってみて…おっさんは綺麗な人に囲まれた私が、自分に見向きもしないんじゃないかなって思って会えなかったのかもと思う。おっさんのネガティブさを考えると、多分正解だろうな。
そのことに、私も安堵した。
心が軽くなったのは…
このペンダントが特別に思えるのは……
ヤバいよね。現時点で元居た世界より、おっさんを選んでしまっている。
名前も何も知らないのに、私は異世界で恋をしてしまったようだ。