計画準備中なんだよ
私が今回やるのは『赤い瞳への偏見をなくしちゃえ』計画!国としても高魔力保持者を確保できていいことなんじゃないかな!一応国のツートップであるお義父様とお義兄様に話を通しました。
「エホンとカミシバイ?」
「はい」
こちらの世界で本は高価なモノなので、学術書や歴史書など後世に遺すためのモノがほとんど。娯楽本もあるにはあるが、一部の貴族しか持っていない。
そんなわけで、紙芝居どころか絵本も存在しない。
私は一から説明しなければいけなくて苦労したが、どちらも面白そうだと笑って絵本ができたら買うから声をかけてほしいと言われた。まいどあり~。
さて、今度は絵本作成にあたり商人さんを呼び出した。
数人と話したが、本を扱っていても作成に携わったことがない商人さんがほとんどでベビー用品を注文して商談を終了した。
ようやく本の作成も取り扱っていて、手広くやっている商人さんを見つけたので、商談を持ちかけた。美形ではないけど穏やかで誠実そうな、男性。名前はショーンさんだ。
「実は、新しい事業をしようと思いますの」
「どんなお話でしょうか」
私がやりたいのは二つ。一つは絵本の作成。これはとりあえず三種類を予定している。
男の子用はケビンの実話を元にした赤い瞳の少年の成り上がりストーリー。さらにそれに赤い石付きの剣モチーフペンダントをつける。
女の子用は雪那をモデルにしたお話。元側妃をやっつけるために奮闘する雪那の話を予定している。同じく赤い石付きの花モチーフペンダントをつける。
最後は大人向きのお話。騎士が愛する人と結婚を約束して戦争に行くが、彼は死亡してしまう。だが最後の力をふりしぼり、白い薔薇を手に取り恋人に渡してほしいと願う。
友人は約束通り恋人に薔薇を渡す。その薔薇はいつしか赤く染まっていた。薔薇を受け取り涙を流す恋人の前に、一瞬だけ笑顔の騎士が…というありがち悲恋系ラブロマンス。赤い石付きの薔薇モチーフペンダントまたはカフスボタン付き。
赤い石には私が毒無効・簡易結界・魔力貯蔵の魔法を付与。しかも魔力貯蔵は魔力が低い場合他者の魔力でも発動可能。
「魔具だけでも確実に売れますね。これは売れますな!喜んでお手伝いいたしましょう!」
すでに魔具はドワーフの店主さんに発注済み。快諾してくれたよ。
「それはわかっていますが、あくまでも絵本とセットの限定販売です」
私の意図を察したらしいショーンさんは頷いた。
うーん、話が早い。この人を選んだのは正解だったかも。
「かしこまりました。すぐに絵師を手配いたします。本の加工については姫様のイメージに合うようにいたしましょう」
紙芝居については、紙芝居本体ができしだい儲け度外視で吟遊詩人を雇ってお願いすることになった。お話は絵本と同じ。ケビンか雪那がモデルの2種を予定している。
見てくれた人にはべっこう飴をプレゼントする予定。
赤い瞳と赤色のイメージアップ大作戦ですよ!うまくいくといいな!
「は、はじめまして…リジィと申します」
紹介された絵師さんは、気弱そうなリスの獣人さんだった。
概要を説明して、試しにいくつか描いてもらう。私は絵があまり得意ではないのだが、流石はプロ。とても可愛らしく仕上げてくれた。
子供向け絵本と紙芝居はコミカルなディフォルメされたもの、大人向けは美麗なマンガ風。どれもイメージにぴったりだ。
「すごい!可愛い!リジィさん、是非お願いします!!」
「あ、えと…お願いします。その、頑張ります。あ、あの…姫様は…何故そんなに…」
「この絵本が作りたいのか?」
「は、はい…」
彼の疑問はもっともだ。ぶっちゃけ私には関係ない。
「だって、腹立つから」
「は?」
「腹が立つから。私のケビンと雪那、スノウ…大事な人たちが悪く言われるの、腹が立つんですよ!目が赤いぐらいなんだっつーの!いちいち一人ずつ潰すのが面倒だから、意識改革してやろうと思いました。幼少時から仕込むのが一番だと考えた結果です」
「…………な、なるほど」
リジィさんはしばらく考えてから、覚悟を決めたように私に話しかけた。
「あ、あの…僕の弟も、赤い瞳…でした。それだけで…あの子は生きられなかった。ずっとずっと、モヤモヤしてたんです。あの子は…あんなにいい子だったのにって。グズな僕にも優しかったのにって!この仕事、全力でやらせていただきます!」
オドオドした様子が嘘みたいに、リジィさんはハッキリと宣言してとてもいい仕事をしてくれた。文章は私が考え、どこを見せ場にするかなど綿密に話し合い、いいものができた。
装丁も貴族向けなのでとても立派だ。絵本だけでも売れるかも…と思うほどに素敵な出来だった。
後に、ショーンさんが彼を選んだ理由を教えてくれた。
「あれの弟が赤い瞳だったのは有名な話でね。売れないのに赤がモチーフの絵をよく描いていたんです。本人は無意識だったようですが、弟を助けたかったのでしょうね。姫様は間違いなく気に入ると思いましたよ」
さすが商人さん…人と品物、両方を見る目があるなぁと感心してしまった。
さて、品物が良くても売れなきゃ意味がない。ならばどうするか。
宣伝するしかないよね!
私の切り札も使った。そう、異世界スイーツ!絵本の初回限定版を購入した方に限定特典として、秘密のお茶会にご招待!お茶会はバイキング形式を予定。
初回限定版は装丁が特別仕様なんで、それがチケットがわりになっている。一冊につきお一人様限定にした。初回は100冊にしたよ。男の子用と女の子用が35ずつ。大人用が30冊です。
限定の特別装丁はそれだけでステータスだし、自慢になるはず!今や私のお茶会も大人気だしね!
お茶会にせっせと参加して宣伝し、秘密のお茶会限定メニューも御披露目すると話しておいた。
ついにあれを作れちゃったのだよ。スイーツ、たくさん作っちゃうぞ~。うふふ~。
え?結果?完売したよ。
予約で完売してしまったよ。貴族の皆さん、異世界スイーツが好きすぎた。魔具はいらなかったかもしんないよ…。
いや、魔具がまためっちゃいい出来なんだよ!私も買いたいぐらい!
こちらも初回のみ装飾の模様が違うのだ。初回限定版の話をしたら、店主さんがちょちょいのちょいで素敵に加工追加してくれちゃった。お礼に試作したチョコケーキをあげたらむさぼり食ってました。
「姫様…!初回限定版が手に入りませんでしたわ…!!」
「秘密のお茶会…限定メニュー!」
「姫様!倍額…いえ五倍お支払いいたしますわ!どうしても欲しいのです!」
「わたくしも!」
「わたくしも!」
「わたくしも!」
入手できなかったお嬢様達に号泣されてしまい、第二弾を企画すると約束させられてしまった。まだ発売もしてないのに…と地味に白目をむく私だった。