信用してるけどまた別問題なんだよ
カオスな状況を眺めつつぼんやりしていたら、マーロさんとメル君がやってきた。
「あれあれ?姫様、女の子は~?」
キョロキョロするメル君は今日もあざと可愛い。この子、どこまで計算なんだろうなぁ。私にはわりと素と思われる毒舌をかますが、可愛いでしょアピールは忘れない。
「雪那なら、シロウ君とお散歩に行ったよ」
「ええ!?意外に手が早い!」
「………いや、まだ赤子…」
間違いなくシロウ君にそういった感情はないだろう。むしろ雪那が怪しい。
「いやいや、まっさらなうちに言質取っとかないと!姫様の娘なんて、超優良物件じゃん!」
「赤子に言質って……」
ケビンに目でどゆこと?と問う。ケビンは苦笑しながら教えてくれた。
「幼いうちに好意を刷り込んでおけば、いずれ娘から求婚されるだろう」
「納得はした。雪那なら注意しとけばそういう失言はないでしょ。メル君、忠告ありがとう」
「なんのことかなぁ?」
多分、心配だからとまわりくどく教えてくれたのだろう。なんのことと言いつつ素直に撫でられているのがその証拠。
「おやおや、メルはリタイヤですか?」
「違うよ。姫様の義息子の座は魅力的だけど、言質を取るとか姑息な手段を使う気がないだけ。僕は自分の魅力で勝負する予定だからね」
ウインクするメル君は今日もあざと可愛い。ごちそうさまです。
「なるほど。姫様、ご息女と結婚したいのですが」
「「は?」」
マーロさんの発言に、私とケビンがハモった。いやいや、まだ赤子だから!精神的に大人びてるけど赤子だから!!
「ぷふっ…失礼。この国では乳飲み子の頃から婚約するのも珍しくありません。しかも、姫様の子。これからそれはもう大量の面会申請と見合いの釣書が届くと思いますよ」
「うああ…」
頭を抱えてしまう。来た頃の面会ラッシュみたいなやつ??
「そっちは想定内だから問題ないよ。カダルがすでに対処してるし、産まれる前からも来てたからね」
「え?私それ聞いてない」
メル君は少し大人びた様子で微笑んだ。
「聞くまでもないでしょう。いちいち主の確認とらなきゃ働けない無能は姫様の侍従にはいないよ。主の心労を軽減するのも僕らの仕事。全てお断りしてあるよ」
「メル君有能!最高!超可愛い!そしてイケメン!!」
「うふふ、最後のはよくわかんなかったけど誉め言葉だよね?もっと誉めて」
ふにゃふにゃと笑うと年齢相応になる。この際だから言っちゃうか。
「嫌なことでも自分が悪者になってまで伝えてくれるの、感謝してる」
「ん?」
「いつも屋敷に綺麗なお花を飾ってくれてありがとう」
「んん?」
「カトラリー磨きはメル君が一番丁寧だってじいとカダルさんが誉めてた。それから、疲れた時は甘いものをつけてくれたり疲れに効く紅茶にしてくれたり、いつもありがとう。それから「ストップ!!」
「…まだまだあるよ?」
むしろ、日頃からお世話になっているからネタは尽きない。
「そうだな。メルは口こそ悪いがよく働くとじいからも聞いている。俺からも礼を言おう。君のおかげで雪花が不自由なく暮らせている。いつもありがとう」
「うあああああ、予想外に把握されてる!べ、別に旦那様にお礼言われるまでもなく、仕事ですから!あああもう!僕、行くからね!!」
照れるメル君は、珍しい。可愛いな。ケビンは何か悪かったのかと首をかしげている。
「ぐふっ…あのひねくれっ子があんな……イイモノを見せていただきました。さて、本題ですが本当に私を娘さんの婚約者にするつもりはありませんか?」
「今のとこないです」
「私を婚約者にしておけば、他家への牽制にもなりますし無理強いしたりしませんよ?」
「その辺は信用してるけど、娘の意思確認しないで勝手なことをしたくない」
それは私の意思であり、ケビンにも確認してある。娘達の相手は娘達に選ばせるつもりだ。
「なるほど。では娘さんが是と言えば許可すると?」
「よほど問題がある相手じゃない限りは反対しない。そもそもそんな相手を選ばないようにちゃんと教育するつもり」
「騎士団長殿の意見も同じですか?」
「………………ああ」
「え、ええと…すいません」
思わずマーロさんが謝罪してしまうぐらいにションボリするケビン。耳も尻尾もしんなりして、心なしか巨体も小さく見える。
※気のせい。
なんと不憫可愛いんだろうか!きゅ~んとかくーんとか悲しげに鳴きそう!
「ケビン!」
「アオン!?」
ケビンに勢いよく抱きつく。驚くものの、すぐ抱きあげてくれる辺りが流石だね!かなり勢いつけてたのに、まったくよろめかなかったよ。
「雪那がお嫁に行っても、可愛い嫁が死ぬまで一緒ですからね!それに、その頃には孫もいますよ。幸せだね」
「!!そうだな…それはとても幸せなことだ。雪花は幸せの天才だな。俺も見習わなければなるまい」
耳がぴーんで尻尾がパタパタ。ケビン復活だね。
「別にいいよ。ケビンが落ち込んだら、私がいつでも慰めて幸せにしてあげる」
「嫁が…嫁が尊い!!」
「なにそれ」
そしてマーロさんは何がツボッたのか痙攣しとるし。なんか変なこと言ったっけ?
「いやもう本当に…私は貴方達が大好きです。甘酸っぱいというか…たまに自分の汚さを痛感しますけどね」
彼の脳内で何があったか知らんが、いきなりマーロさんのテンションが急下降した。
「私だって今回やらかしてますし、頼りにしてますよ。友人殿」
「…ええ」
ふわりとマーロさんが微笑んだ。
「なにせ私は異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会改め、異界の姫様と騎士団長の愛をサポートする会・会長ですからね!」
「その会、解散する予定は…」
「今のところありませんね。それに、今解散するのは得策ではないですよ?今回の話も正しく伝達しておきますし、馬鹿はちゃんとシメますから」
「…今後とも、よろしくお願いします。困ってたら助けるから、言ってね?」
「ふふっ。本当に姫様は変わってますよねぇ。そうですね、困ってたら助けていただきます」
「…その、俺も貴殿に感謝している。何かあれば力になろう」
マーロさんはケビンの発言に一瞬キョトンとして、いつもと違う砕けた笑顔になった。
「ふはっ、貴方達は本当に似たもの夫婦ですね。ありがとうございます。こんなひねくれ者なのに、私は友人に恵まれたようです」
「ゆうじん?………マーロ殿は俺の友人なのか!?」
「……はい?」
ポカンとするマーロさん。激レアだね。そのまま固まってるとか初めて見た。
「そ、そうか!人間の友人はイシュト以外では二人目だ!よろしくな!」
「…………ヨロシクオネガイシマス。姫様、なんだか浄化された気がします」
「………私も」
ケビン最強説が浮上した瞬間でした。いや、物理では間違いなく最強だけどね!