決別するんだよ
夢から覚め、枕元に書類とカメラとデジカメみたいな魔具と説明書が置かれていた。
「おはよう、ケビン」
「おはよう、雪花。これは?」
書類は異世界チート?のおかげで私は読めるがケビンには読めないらしい。
「夢の中で、友達から貰ったの」
「???」
ケビンはキョトンとしている。まさか夢でミスティアが亀甲縛りにされたりしているなど、当事者以外は想像もしないだろう。世の中には知らない方がいいことが絶対ある。
「わん!」
雪斗も異世界のおもちゃに大興奮してベビーベッドで転げ回っている。今はやたらのびる謎のもにもにを伸ばしまくっている。
「ケビン、準備が整いました。これが最後の戦いになります」
「ああ」
ケビンはただ頷いた。そして、私に優しく笑った。
私の準備はオッケーなので、お城で作戦会議となった。
「エグいな。しかし、そのぐらいはしたい。むしろもっと非道な扱いをしたいぐらいだ」
「エグいね。でも、正直嫌いじゃないな!君とは気が合いそうだよ!」
「お義父様の方がえっっぐいこと考えてる気がします。お義兄様ほどお腹は黒くないつもりです」
「雪花の腹は白くてすべす「「そういう意味じゃないから」」
首をかしげるケビンは癒し系だ。しかし、そこは言わなくてもいいのだ。
「ケビン、私のお腹がぽよぽよしているとかはケビンだけが知っていればよいことです。二人だけの秘密なのです」
「ぽよぽよはしていないぞ。とても手触りがよくて綺麗「そこ、いちゃつくのはお家に帰ってからにしなさい」
「すすす、すいません兄上!雪花が可愛くて綺麗だからつい…!」
「…まぁ、いいけどね」
アワアワするケビンにすっかり毒気を抜かれた様子のお義兄様。ケビンは癒し系だから仕方ない。
私はずっと俯いているカイン君に話しかけた。
「カイン君は本当に荷担するの?後悔しない?」
「…荷担しない方が後悔すると思う。本当に、兄様と姫様…いや、義姉様には感謝しかない。俺自身の過去と決別するためにも、荷担させてほしい」
カイン君の瞳に迷いはない。彼は進むために決断したのだ。役者は揃った。
呼び出された元側妃は、憎しみをこめた瞳で私をにらみつけた。
以前と違い痩せ細っていて、肌もボロボロ。垢だらけで髪は油でギトギト。服も汗染みなんかで汚れている。元はドレスだったのだろうか…埃にまみれ、哀れな姿だった。
逆に男達は大人しいもので、ただ俯いている。
彼らが暴れたりしないように警備を念のため増員していたけど、これならいらなかったかも。
「さて、呼び出された理由はわかっておるな?」
この場には上位貴族が勢揃いしている。お義父様の言葉に、ビクリと全員が肩を震わせた。お義父様の隣にはケイ様。彼女は素の方が元側妃をえぐるので、シナリオなしにしている。
「大丈夫か?ずいぶん汚れているな」
さっそくナチュラルに元側妃をえぐっている。ケイ様がドレスアップしていて、自分が汚いのも元側妃のプライドを傷つけているだろう。
「うるさい!お前のような下賤な獣ふぜいに…!」
「無礼である。今のお前は側妃どころか貴族ですらない。平民以下の罪人だ。我が最愛の妻に非礼を詫びよ」
「ぐうっ……わ、私は……私は冤罪です!なんの罪も犯しておりませんわ!」
「仮にそうだったとしても、今のお前は平民以下の罪人だ。立場をわきまえ、我が最愛の妻に非礼を詫びよ。散々お前が他者に発してきた言葉ではないか」
お義父様は元側妃に微笑みかけた。しかしその瞳は憎しみに満ちてギラギラしていた。
「…私は…」
「三度は言わぬ。言わぬなら…その指一本を切り落とすか」
ヤバい!お義父様の目がマジだ!!ノースプラッタ!どどどどうしよう!?
「………………もうしわけ………ございませんでした………」
元側妃は唇を噛みしめて切れたのか、唇から血をたらしながら謝罪した。流石に指を失いたくはなかったらしい。だが、その身体は屈辱で震えていた。
「で、オバサンはなんにも悪いことしてないんだっけ?じゃあ、証人を呼ぼうか」
私が手を叩くと、ずらっと人が並んだ。次々に、元側妃の悪行をあげていく。ささやかなものから、暗殺計画まで。
「嘘よ!でっちあげよ!」
「いえ、事実です。よく貴女は知っているはずだ」
静かに告げた声に、元側妃は怒り狂った。
「お前まで母を貶めようというのですか!?この、裏切り者!!」
怒り狂う元側妃に対して、カイン君は冷静だった。
「裏切るもなにも、俺は最初からあんたの味方じゃない。都合がいい道具扱いしといて、今さら母親ヅラすんなよ。俺が証言するのは偽証罪。俺が国王陛下の子供だと偽っていた」
「私は王族の血を引く子だとしか言ってないわ!」
そこは多分、本人も気をつけていた部分なのだろう。
「だが、相手の誤解を否定せずに利用した。俺ですら、昔は父親を間違えていたぐらいだ。あんただけが悪いわけではないだろう。俺は…あんたに愛されたかった。だが、ようやく諦めることができたよ。もうあんたの愛は求めない。兄様みたいに、自分で愛する女を探すさ」
「私を見捨てるつもり?私はお前の母なのよ!?」
信じられない、と言いたげだ。カイン君は頷いた。
「見捨てるもなにも、あんたはすでに絶縁状にサインしている。あんたが俺を捨てたんだ。戸籍上、あんたと俺はすでに他人だ。だが、不本意だが…あんたが母なのは事実だ。俺は罪人の子として生きねばならない」
「…カイン君は悪くないのに?」
「そういうものだ。そもそも、あいつのせいで知らない人間に絡まれる事が山ほどあった。以前と大して変わらないさ。職場が変わったし、過保護なご主人様達のおかげで激減したけどな。義姉様…我が主様には感謝しかないよ」
おや、根回しがバレていたらしい。カダルさんやメル君もノリノリで手伝ってくれてたけどね。
「私は君の義姉なんだから、義弟を守るのは当たり前でしょう?ケビンの大事な『弟』なんだから。夫の大事なものを守るのも、妻の務めだよ」
彼らは正確には血の繋がった兄弟じゃない。だけど、互いが大事な兄弟だと思っている。ケビンにとって理由があっての事とはいえ疎遠だった義父・義兄と違い、カイン君は近しい家族だった。ならば私が彼を守るのは当然だ。
「…カイン。血が繋がっていなくとも、俺達は兄弟だ」
「そうだね。お前は私達の可愛い弟だよ」
「……にいさま……」
兄弟の仲にほっこりしたが、本題はそこじゃない。
「元側妃様の処遇について、提案があります」
決着をつけようじゃないか。これで、終わりにする。




