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未来を見てるんだよ

 お城の謁見の間は、いまだにベビー用品バザールと化していた。


「異界の姫様、他に入り用なものはありますか?」


「スリングとか、授乳用ケープが欲しいですね」


 獣性が強い子は授乳しないらしいが、末っ子は普通に生まれるみたいだから欲しい。抱っこも長時間は疲れるからスリングも欲しい。

 これは売れると商人たちもこぞってメモを取る。


「それから、机の角とかにつけるクッションとか、戸を開かなくするやつ」


 雪斗は何をするかわからない。人型になれるから、イタズラするに違いない。


「戸は魔力認証にするか?」


「いや、子供が開けられなきゃいいんですけど。もっとこんな感じで…」


 私が簡単なストッパーの絵を描く。それを見る商人たちの目が怖い。落ち着いてください。


「なんの騒ぎだ?」


 お義兄様とお義姉様もきた。ベビーグッズを見るお義姉様は悲しげだった。


「おねちゃ、かなち?うき、よちよちすゆよ」


 雪斗がお義姉様のそばに行って撫でようとした。


「かわいい……」


「くぅん?」


「かっ…かわいい…獣人の子って、こんなにかわいいんですの!?」


「きゅふふ…わん!」


 雪斗を抱っこして頬擦りするお義姉様。雪斗も楽しそう。どっちも可愛いなぁ。

 獣人=ムキムキという図式がほぼ成立しているらしく、獣人の子がこんなに可愛らしいとは思わなかったそうな。つまり、雪斗なら獣人のイメージアップができるかもしれない。


「こにちゃ~」


 雪斗がお義姉様のお腹に話しかけている。あれ?もしかして??


「雪斗」


「わん!」


「お義姉様…えっと、あのお姉ちゃんのお腹に赤ちゃんがいるのかな?」


「いゆ」


「ほ、本当に?私のお腹に……赤ちゃん?」


「いゆよ~。あちょぶ、やくちょく!」


「遊ぶ約束したの?」


「あい!」


「楽しみだね~」


「あい!」


 雪斗の尻尾がパタパタ揺れる。お義姉様は泣き出してしまった。


「やったな!」


「殿下…」


「これで第二妃は不要だ!セッカ姫、本当に礼を言うぞ!」


「あはは、どういたしまして~。こればかりは神様からの贈り物ですから、私がしたのは些細な事です。おめでとうございます、お義兄様、お義姉様」


 ところで、お義姉様を高い高いして抱っこしてぐるぐる回すのをやめてあげてくれないか…この行為は血なの??んなわけないか。


「あの…本当に、ありがとう」


 いつの間にかお義姉様はお義兄様から解放されて、私の手を取っていた。

 相手の手を額にあてる行為は、最上級の感謝を示す。


「いや、だから私は…」


「私、本当は諦めていましたの」


「え?」


「でも、貴女は…セッカ姫は元側妃様の呪いがわかる前に言ってくれたわ。『貴女は何も悪くない。子供は神様からの贈り物だからちょっと遅れているだけ』って言ってくれたわ。私、実家の母にもそんなこと…言われなかった。誰も…誰も言ってくれなかったの…殿下でさえ…だからずっと、私は……」


「お義姉様……おめでとうございます。もう大丈夫です。私、言ったでしょ?ちょっと遅れていただけです」


「ありがとう…ありがとう……本当だったわ。辛かったの…出来損ないだって、子を産めない女に価値がないって言われて…」


 辛かったのだろう。そしてそこを抉ったのは元側妃(ババア)に違いない。

 ずっとずっと辛かったのだろう。お義姉様の背中を優しく撫でた。

 私の言葉は少しでも彼女の重荷を軽くできたのだろうか。そうなら、いいと思う。


「きゅーん…」


 私にすがりついて泣きじゃくるお義姉様。雪斗もモフモフ子犬姿で涙をペロペロして慰めている。


「すまなかった、チェルシー」


 お義兄様が真っ青だよ。泣きそうだよ。


「お前の辛さをわかってやれなくて…すまなかった……」


「で、殿下は悪くないのです。私が…」

「私からしたら、どっちも悪くないです」


 いいシーンだけど、これだけは言わせていただきたい。


「別に、子ができなくたって悪くないのです。お義姉様ではなく、お義兄様にも問題があるかもしれません。子ができないからと女性を責めるのは間違いです。お義姉様はお義兄様の政務もこなす才女です。素晴らしい女性です。子供ができないなら、最悪養子縁組したらいいですよ。そしたら王家は存続しますし問題なしです。そのぐらいの考えでよいのでは?」


 ケビンもカイン君もいるし、問題なしだよ。


「「……………」」


 二人は抱き合ったままキョトンとしていた。多分私の発言はこの世界から見たら常識はずれなんだろうね。


「それに、女神もそれを望んでいます。女性の真の自由ってそういうことなんです、きっと」


 人間として、男女の差がなく対等であること。私の世界でも難しいことを、女神は願っている。


「ミスティア、お願い」


 そっとお義姉様のお腹に触れた。ねえ、ミスティア。私を見ているのでしょう?


「この子が元気に産まれてくるよう、女神の加護を」


『オッケー!』


 軽い!女神様、ノリが軽いよ!もっとこう…女神らしくというか、気品とか欲しい!でもありがとう!

 私が触れるとお義姉様のお腹が光った。シャイニングぽんぽんリターンズ。なんとシュールなのか。


「きっと、元気な子が産まれてきます。うちの子達と仲良くしてね」


 そして、私は商人さん達を見てにんまり笑った。


「この事は、他言無用で。ただし…そうですね…私が女神の呪いを解く方法を知っていることは話してもいいです」


 商人達が驚いた様子だ。つかみはオッケー。噂を広めてもらおうじゃないか。ババアをやっつけた、その後の仕事に必要な布石になるだろう。


「雪花、君は何を見ている?」


「明るい未来を。私達の子供が幸せに生きていける道を作りたい」


 手伝ってくれるよね?言葉にはしなかったが、きっと彼には伝わった。


「俺の道は、どこまでも雪花と共に。雪花が願うなら、俺も願おう」


「わん!わんわん!」


 自分も、と雪斗が駆け回る。うちの家族は最高だね!


「方針が決まったんで、買い物済ませちゃおっか」


 その後お義姉様も一緒に、楽しくお買い物をした。雪斗はお義父様が遊んでくれたのでじっくり選べたよ。

 お腹の子供達が産まれるの、楽しみだねって笑いあった。

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