馬鹿ばっかなんだよ
巨大な狼になったケイ様と追いかけっこして遊ぶ着ぐるみ服姿雪斗。モフモフ同士の素敵な戯れにうっとりしてしまう私。
そして、それを羨む騎士団のツートップ。
「せ、雪花」
「え?あ、はい」
いかんいかん。仕事中だった。いかにあのコンビがモフかぁぁんわゆぅぅいからといって仕事を疎かにしてはいけない。
仕事に集中できていなかったのをケビンに謝罪しようとしたら、先にケビンが口を開いた。
「…その…雪花は獣姿が好きなのか?」
「え?はい。可愛いですから。世界一可愛くて常に愛でていたいのはケビンですけど」
「アオン!?」
「……今夜は閨でたっぷり尻尾を触らせてくださいね?いや、むしろ全身の毛を触りたいかな…いいでしょ?」
「ぜ、ぜんしん………」
「うん。ぜ・ん・ぶ。楽しみだなぁ」
「あ、アオオオ…ん?」
ふっふっふ。そう何度も逃亡させないんだから!素早くケビンの膝に座り、首にスリスリしてやった。
「だから、お仕事なんてさっさと片づけて…今日はお家でたっぷり…私を楽しませてね?」
「ぬあああああああ!!わわわわわかった!!イシュト、今ある仕事を一気に片付けるぞ!!」
「はっ!姫様、見事な操縦です」
「それほどでも…私もノルマを片づけまーす」
ババアのせいで仕事は山ほどあるからね。私も書類整理に集中するのでした。
帰ったらケビンを全身トリートメントして、乾かして、全身ブラッシングしよう!雪斗にもブラッシングしてあげよう!ふふふ、楽しみ!
「あああああ、王妃様!こんなところにいらしたのですか!?」
どうやらケイ様は仕事をサボって来ていたらしい。
「いいじゃないか。息抜きだ」
堂々と言い切ったケイ様。明らかに侍従らしき男性がイラっとしていた。必死に表情に出さないようにしているが、この反応からして恐らくケイ様はしょっちゅう逃亡しているのだろう。
「ケイ様、お願いがあります」
「なんだ?」
「陛下に雪斗を紹介したいのです。それから、きちんとお仕事をしなくてはダメですよ。ちゃんとお仕事をしない人とは、雪斗と遊ばせられません」
「!??わわわわわかった!やる!ちゃんとやるぞ!」
「くぅん?」
よくわからなくて首をかしげる雪斗。
「雪斗~。ばぁばにお仕事しなきゃめって言って」
「あい!おちごとない、め!」
仕事がないみたいになってるけど、可愛いからよし!
「わ、わかった!ばぁばはちゃんと仕事をするから、遊ぼうな!」
「あい!」
「あ、ありがとうございます。王妃様はそれはもう毎日毎日毎日まいっっにち逃亡しておりまして……」
侍従さんが泣いた。じと~っとケイ様を見たら、慌てて次からちゃんとやる!と言った。今からやりなさい。
「本当にありがとうございました。お礼にもなりませんが、陛下に謁見申請をしておきますね」
「お願いします」
おお、気が利くね。流石は侍従さん。
すぐに謁見許可がおりた。仕事も一段落ついてるし、積もる話もあるだろうからと副団長様がケビンも一緒に謁見に行ってくださいと言ってくれた。
そして、到着した謁見の間は大変なことになっていた。
ところ狭しと並ぶ、玩具に服。お店ができそうなレベルだ。
「まぁま、あしょぶ?」
雪斗が遊んでいいの?と目を輝かせる。たくさんの新しい玩具に興味津々だ。
「おお、その子がユキトか?ユキト、おじいちゃんだぞ!なんでも好きなものを買ってやろうな!」
「きゅうん?」
雪斗を抱っこする超デッッレデレなお義父様。
「はああ、ケイティに似て可愛いなぁぁ……」
「雪斗、じぃじはパパのパパなんだよ。雪斗の家族だよ」
雪斗が戸惑っていたので説明したら、家族=遊んでくれると判断したらしく尻尾をパタパタさせた。
「じぃじ、あしょぶ?」
「ああ!じぃじとたくさん遊ぼうな!セッカ姫!なんでも好きなものを買うがよいぞ!ユキトもどのおもちゃで遊びたいかな~?」
「あえ!」
雪斗はびっくり箱が気に入ったらしく、玩具が飛び出すたびにあきゃきゃと笑っている。
「姫様、こちらの商品はいかがでしょうか!」
「姫様、こちらは最高級の…」
商人達に囲まれて戸惑っていたら、ケビンが私を抱き上げてくれた。ケビンの目力にビビる商人さん達。しかし、ケビンに敵意はない。私が困っていたから助けただけらしい。
「すごいな。雪花、これは最高級の赤子用肌着だ。蒸れず、サラサラとした肌触り。縫い方もデリケートな赤子の皮膚を傷つけぬよう外側に縫い目をつけている」
「へー」
「…いくつか買おうと思うのだが」
「いいんじゃない?」
「よし。10着ほど届けてくれ。今の雪斗のサイズと、それより小さめも頼む…いや、すべて伸縮魔法付与してくれ。肌着そのかわり15着頼む」
「かしこまりました!」
商人さんはサラサラと書類を作る。汗をかくし、家にあるけど肌着は多目にあったほうがいいだろう。私も特に異論はない。
「お子には女児もいらっしゃるとうかがいました。ベビードレスはいかがでしょうか?」
「か…可愛い!!」
赤ちゃん用のフリフリドレス!ケビンも作ってくれていたけど、ものすごく凝っている!花のレースに、ベルベットのような手触りのもの…
あ、男の子用の礼服もある!これは着せねば!
「雪斗~」
「あい!」
お義父様の腕から抜け出し、私にハイハイで駆け寄る…いや這い寄る雪斗。
「これ!これ着てみて!」
「う?」
「これは…なんと可愛らしい!売れる…これは売れますぞ!姫様、この服はどちらの工房から買われたのですか!?」
買ってないよ。旦那さんの手作りだよ。強いて言うなら、メイドインケビンだよ。
「…買ったのではなく、旦那様の手作りです。デザインは私がいたしました。異界ではこんなデザインもありまして…」
「おお…是非このデザインを買い取らせてはいただけませんか!?」
着ぐるみ服や天使の羽つき、ロンパースタイプにパッチン止めのボタン…商人さんは私の意見を書き留め、試作品を持ってきてくれることに。ケビンの裁縫がプロレベルとはいえ、仕事もある。欲しかった品を大量ゲットできそうで、私はほっくほく!
「まぁま、にゃう~?」
「可愛い!!似合う!似合うよ、雪斗!!」
礼服を着てきた雪斗、可愛い!!七五三みたい!あ、流石は高級品。尻尾も出せるし伸縮魔法でぴったり。リボンタイにシンプルなブラウス、ダークグレーのズボンに短めジャケット。
「じぃじ、いっちょ」
確かにお義父様とお揃いっぽい。お義父様はタイをリボン結びにしてないけど、たまたま同色の服でした。いや、商人さんまさか、狙った!?だとしたら流石だね!
「ぐうぅ……孫とは…孫とはこんなにも可愛いものなのか!!」
お義父様は悶えた。その気持ち、よくわかるよ。
「「いえ、うちの子は世界一可愛いです」」
ここには親馬鹿と爺馬鹿と商人さんしかいない。ツッコミ不在のまま、馬鹿のテンションはガンガン上がるのだった。