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幸せの二重奏なんだよ

 ケビン視点になります。

 昨夜…いや、今朝か。無理をさせたのだろう。雪花は俺の膝で眠ってしまった。俺の妻、可愛すぎる。穏やかに眠る妻を座ったままの姿勢では辛かろうと、執務室に併設された仮眠室のベッドに横たえようとした。


 しかし!


「んん…やぁ…けびん……けびん……」


 悲しげに表情を曇らせて俺を求める妻に心臓を撃ち抜かれ…俺は妻をベッドに寝かせることができなかった。

 きっと魔力不足だからもあるだろう。片手に妻を抱いたまま、魔力を操作して雪花に送る。雪花は幸せそうな表情で眠っていた。


「まったく…身重の妻が可愛いからとベッドに寝かせないなど…」


「い、いや…魔力不足だからもあるのだ!仕方ないだろう!」


「魔力不足?あんなに魔力過多だったひ…奥方様がですか?」


 そういえば、妙だな。雪花の魔力を探ると、腹の子が急激に魔力を吸っている事がわかった。


「これは…」


 今すぐ病院に連れていくべきか?俺の迷いに、幼い声が答えた。


『まま~、だいじょうぶ~。りくつや~、はやくうまれる~。だから~、まりょく~、たくさんつかうの~』


「そう、なのか?」


『そう~。あと~、すこし~』


 声ははっきりと答えた。しかし、なんというか…やたらのんびりした話し方だな。理屈屋…確か昨日姿を見せた俺の娘か?雪花が話していた気がする。


「団長?」


 気遣わしげなイシュトの声に目を開いた。


「腹の子が早く産まれようとしているから、魔力を今まで以上に必要としている。そして、それはもうすぐ完了するそうだ」


「なんと!次は女児でしたね!しかし、何故わかったのですか?」


「…腹の子が答えた。早く産まれようとしていない方だろうな」


 最愛の妻の腹にいる我が子達。なかなか個性的なようだ。会えるのを楽しみにしているよ。腹の子が笑った気がした。


「なら、問題はありませんね。愛しの奥方様との時間が確保できるように、チャッチャと働いてください」


「ああ」


 仕事が片づいていないと、雪花を思う存分愛でられない。真面目に仕事をこなし、ほぼ片づいたところでサズドマが戻ってきた。


「ゲホッ…はぁ…ぐふっ……」


 執務室に入ると倒れるサズドマ。汗だくだな。


「サズドマ!?」


「くぅん?」


 シャザルと雪斗が心配そうにサズドマを見ているが、魔力から察するに…ただの疲労だな。


「だんちょ…アンタのむすこ…体力おかしっしょ…ゲホッ…」


「くぅん?」


 どうやら、雪斗より先にサズドマの体力が尽きたらしい。


「わん!」


「…え?」


 サズドマが白色に輝き、普通に起き上がった。逆に雪斗は眠たいらしく、雪花の膝に乗って丸くなった。


「…サズドマを回復してやったら眠たくなったのだろう」


 雪斗は雪花の膝ですぴーとかぷしゅーとか寝息をたてている。


「「か、可愛い…」」


 イシュトとガウディは本当に雪斗が好きだな…


 それにしても今、俺は人生最高の幸せを手にしている。いや…この腕に幸せの塊を抱いている。


 腕の中で健やかな寝息をたてる最愛の妻と、可愛らしい産まれたばかりの息子。最愛の妻の膝で息子が眠り、妻を膝に乗せている俺。幸せすぎて、今すぐ死ぬんじゃないだろうか。


 思えば、幼少期…母は忙しく、周りからは蔑まれ…母が死んでからは命を狙われ…学園では筋肉・獣人・紅い瞳の三重苦で嫌われ疎まれ……ろくな目にあっていない。

 いや、しかし仲間や友人には恵まれたじゃないか!


 だが、こんな心安らかになる幸せは、今までなかった。そっと妻と息子を撫でたら、どちらも幸せそうにふにゃりと笑った。






「我が人生に1片の悔いな…もがっ」

「ユキト様が起きちゃったらどうするんですか」

「そうですよ!団長は毎日可愛い寝顔を見れるかもしれませんけど、俺らは今を逃したらそうそう見れないのに!」


 幸せのあまり叫ぼうとしたら、ガウディとイシュトから口を塞がれた。イシュトはともかくガウディは結構うるさ…ガウディがイシュトにやかましいとしばかれたな。しかし、息苦しい。


「副団長サマ、団長死にそーだぜぇ?」


「「あ」」


 ようやく二人の拘束から解放され、息を整えていたら…何やら騒がしい声がしてきた。


「わはははははは!孫はここかああああああ!!」


「「やかましい!!」」


 イシュトとガウディがダブルアックスボンバーをくり出した。


「ふはははは!やるな!しかし、私にはその程度の攻撃当たらぬわああああ!!」


「いくら王妃様といえど、ユキト様の眠りを妨げるのは許しません!」

「ああ!可愛いユキト様が起きちまうだろうが!」


 おいこら。俺の(せっか)はいいのか?というか、そんな理由で王妃を攻撃すんな。雪斗はその程度では起きん。


「…んん…うるさい…」


 しかし、雪花は起きる。


「…確かにうるさいが、まだ寝てていいぞ」


「ん…ちゅ~」

「アオン!?雪花、寝ぼけているな!?ここではまずい!ここは家じゃないんだ!」


 寝ぼけて口づけをしようとする雪花。慌てて回避するが不満そうだ。いや、ここ自宅じゃないからな!?家ならそりゃ…いつも嬉しくて……


「ここは家じゃな…「んん~」


 つい、ほぼ習慣となっている朝の口づけを思い出して油断してしまったのか、雪花から口づけされた。しかも、家仕様の濃厚なヤツだ。


「んんんん!?」


 慌てて雪花を仮眠室に隔離した。


「ここここら!だだだだダメだろう!」


 動揺しすぎてどもる俺に、雪花がにやりと笑った。ヤバい。これはダメなヤツだ。


「よいではないか、よいではないか~」


 よくはない!ここは…ああでも、雪花が可愛い…いや、いかん!ここではダメだ!


「アオン!?んん…んんんんん~!!」






 流されて、イロイロされてしまった。





「ふぁ…なんかスッキリ。ごめんね、ケビン」


「く…くぅん……」


 ようやくちゃんと目覚めた雪花はケロッとしているが、こんな…俺は悶えた。


「…若いな」

「きゃー、フケツゥ(棒読み)」

「……………(目をそらす)」


 そして、獣人(今いるのは母とサズドマとガウディ)にはナニをしたのか匂いで筒抜けである。


「アオオオオオン!!」


 羞恥のあまり、俺が窓を突き破って逃げたのは仕方ないだろう……多分。

 雪花に出会ってから、感情がコントロールしにくくなった。彼女の存在は、それだけ俺の心を激しく揺さぶる…ということなんだろう。


 まあ、あれだ。妻が可愛すぎて幸せな俺は、今日もひたすら走っている。

 どうでもいい補足。


 騎士団内でケビンが走り回る日は雪花の出勤日だと思われている。もはや、日常風景になっているらしい。

 そして、大体間違ってない。

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