○○しちゃったよ
馬車を破壊したのは、とても醜い生き物だった。黒い虫。そう、アレ。巨大なる夜の帝王にクリソツなアレ。
「きゃあああああああああ!??」
巨大な虫だってだけでも無理なのに、巨大なゴのつく女子に超絶不人気を誇る虫が現れたらどうするか。答えは全力で叫ぶである。
「セツ姉!?」
パニックをおこした私に驚くシロウ君。とりあえず手当たり次第抱きしめた。
「みぎゃあああああ!!いっやああああああああ!!」
「せちゅねーね、よちよち」
「こあくないよ~、チョラたちがまもってあげるにょ~」
「…………(よしよし)」
「……………(なでなで)」
ちみっこにより多少持ち直したが………無理!触れない!色々無………ん??
夜の帝王にクリソツなアレには顔があった。人間の女の顔…というか、アレって……
「ばばあああああああ!!?」
側妃の顔が夜の帝王にクリソツなアレについている。え!?何!??人間やめちゃったの!??
「姫!?」
つうか、死者が化けてでるってこういうこと!?物理的すぎるでしょ!!
え!?恨んで死ぬと化け物になっちゃうわけ!??
「姫!姫!?」
「馬鹿!死ぬ気か!?」
黒虫ばばあに必死で話しかける元近衛騎士。黒虫ばばあは虫だけに無視して、私達に…いや、私に襲いかかってきた。アラームがけたたましく鳴り響く。うるさいな!逃げられるならとっくに逃げてるわ!
「ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!」
「きゃあああああああああ!」
結界に何度も攻撃してくる黒虫ばばあ。気持ち悪い!
「セツ姉、俺達が戦う。このままじゃやられる」
「ダメ!!」
この子達を守ると決めた。このペンダントの魔力がつきても、なんとかしてみせる!!
そして、私の腹がギンギラギンにシャイニングした。
え?
そして、光が塊になり、黒い子狼があらわれた。
「わん!」
狼っていうか、子犬。
「……………え?」
『産まれた!!』
皆嬉しそうに子犬…子狼を撫でる。ウマレタ…馬レター………うまれた……産まれた!??
「ええええええええ!!??」
破水は!?陣痛は!?つうか、走り回ってるよ!??え!?マジで!?出産のやり方すら違うの異世界!??
「制御が甘くなってるわよ、ママ」
銀髪ケモ耳美少女??が浮いている。まま。ママ!?
「おかーさぁぁぁん!?」
「驚きすぎよ、ママ。ワタシは理屈屋。あの子は頑張り屋。最後の一人はのんびり屋ね」
「わん!わんわん!」
「頑張り屋、そうよ!ソイツの弱点は光!手伝うわ!!」
いつの間にか結界をすり抜けた黒い子狼は金色に輝いて黒虫ばばあに攻撃する。
「わん!」
黒い子狼…頑張り屋の声に、光輝く木々が呼応して黒虫ばばあを縛りつけた。しかし、木々から光が失われ、黒虫ばばあはすぐ逃げた。距離をとって頑張り屋を襲おうとする。
「チビ……雪斗、避けて!!」
とっさに考えていた子供の名前を呼んだ。一瞬だけ雪斗はこっちを見てふにゃっと笑う。
「わん!!わんわん!!」
雪斗の姿がさらに輝き、再び輝く木々が黒虫ばばあを縛りつけた。今度は動けないらしい。めっちゃ暴れてる。キモい。
「とりあえず、一安心かしら。流石はママね。ママがユキトに名前をくれたから、力が増したようだわ。頑張り屋…じゃなかった、ユキト!吠えて!!」
「アオーン!アオオーン!!」
まるで遠くまで響かせようとする声。
「遠吠え……そうか!アオーン!アオオーン!!」
「にゃふ!チョラもすゆの!にゃお~ん!」
「にゃお~ん!」
「ヒヒーン!」
「ホー!!ホー!!」
あまり吠えない種族らしきルル君だけ私に抱っこされてます。遠吠え………
ペンダントがチカチカしていた。呼んでいる。
「ケビィィン!助けてぇぇ!!」
「ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイィィィ!!」
黒虫ばばあが雪斗の拘束から逃れた瞬間、銀色が黒虫ばばあを撥ね飛ばした。
「ようやく来たわね。ママ、ワタシはもう眠るわ。ワタシの名前と、また会えるのを楽しみにしているから…またね」
銀色のケモ耳美少女…理屈屋の彼女は消えた。いや、お腹に戻ったらしい。
異世界、不思議すぎる。
「雪花!雪花、無事か!?」
「無事だよ!この黒虫、側妃のなれの果てみたい!どーにかできない?」
「……生け捕り…か?やってみよう」
ケビンは子狼に気がついた。
「くぅん。わん!」
「ああ、お前が呼んでくれ………雪花」
「はい」
「もしや、この赤子は……」
「私たちの息子です。ごめん、名前つけちゃった。雪斗です」
「ユキト…いや、雪斗か」
「わん!」
ちなみに、ケビンは雪斗に目をやりながら黒虫ばばあをぶん殴って吹き飛ばしてます。
雪斗は嬉しそうに尻尾をパタパタしています。
アラーム?マイダーリンが来たら鳴り止んだよ。
うちのマイダーリン強すぎる。気が抜けて結界も解除しちゃったし、周囲をみる余裕も出てきた。
オッサン達は逃げずに元近衛騎士が黒虫ばばあに走り出さないよう見張り、黒虫ばばあを警戒している。
子供達は私の護衛なんだろう。私の側で黒虫ばばあを警戒している。
ケビンは雪斗を頭に乗っけて黒虫ばばあを何度も殴り飛ばしている。試しに脚をもいだが…人間の手が生えてきたよ!息子の手前悲鳴こそあげなかったけど、尻尾がぶわってなってたからキモかったのだろう。
心を落ち着けて『理屈屋』に話しかけてみた。賢い彼女は腹に戻っただけで寝てはいないだろう。
『なぁに、ママ』
問いかけに、すぐ返事が来た。
『あの黒虫って、負の感情の結晶みたいなもの?』
『うん。だから光魔法に弱いよ。あと、まだ死んでない。仮死状態。放置すれば死ぬ。そうしたら、もっと厄介になる』
とてつもなく嫌な予感がした。
『ちなみに、どうなるの?』
『歩くだけで呪いを撒き散らして、森を…田畑を枯らす迷惑な生き物になるわ。もっとでっかく、強くなる。光の精霊を呼び出そうにも、今は夜だから難しいわ。昼ならそこらじゅうにいるけど、この時間じゃ寝てるのよ』
これは早急にどげんかせんといかん。ない頭を働かせて、必死に考えた。そして出した答えを読み取った理屈屋が笑った。
『ぶふっ…ママってすごい。面白いわ!そう…ヨソウガイって、こういうことなのね!』
『できる、かな?』
『できるわ。ママが望むなら』
理屈屋の娘に背中を押してもらい、私は叫んだ。
「ピエトロくぅぅん!!雷、連打ぁぁぁ!!」
「任せて!」
ピエトロ君の雷で黒虫ばばあの足は全部焦げた。そして、狙い通り眩しくてスゴい音だった。私は、大きく息を吸いこみ叫んだ。
「光の精霊さぁぁぁん!!この黒虫ばばあを浄化してくれたら、異世界スイーツ食べ放題にしてあげるぅぅぅ!!」
視界がまっしろになりました。
「マジで!?」
「たべたい!」
「プクプクとピエトロがじまんしてた!」
「光いがいの精霊はだめ?」
「浄化なら水もとくいだよ!」
「手伝ったらおかし!?」
「お菓子食べ放題はボクのものだあああああああ!!」
あっという間に黒虫ばばあは全裸のただのばばあになった。首に斬りつけた痕があり、血が流れていたので塞いでやった。完全に治してやる義理はない。
しかし、予想外に精霊さんが釣れてしまった……とりあえず、作りためておいたお菓子を全て放出した。
マサムネさん、ごめん。今夜は私と筋肉痛になってください。
「団長!」
「ヒメサマ!!」
騎士達が到着した。昼間のように輝く周囲。
息子にメロメロで役に立たなそうなケビン。
腹ペコなので精霊さん達とお菓子を食べてる子供達。
捕縛されてる元近衛騎士と明らかなゴロツキ達。
「姫様、説明していただけますよね?」
「喜んで!!」
長い夜は、まだまだ終わってくれないらしい。
100話でまさかの出産しちゃいました。詳しくは次回ですね。