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王様達に会ったよ

 お城でのとある一室で、私は全力の抵抗を見せていた。


「絶対やだ!!」


 女性が希少な世界だから侍女なんていないのはわかるが、見知らぬ男に脱がされ着せられるなんて絶対にいやだ!!


「姫様は本気で嫌がっておられるし、もうこのままで化粧だけにしたらどうだ?」


 さっきのがらが悪いイケメンはすでにいなくなり、代わりに来た人が良さそうなお兄さんはちょっと考えて、とんでもない提案をぶちかました。


「では、団長殿でしたら姫様も嫌がらないのでは?」


「あ、アオーン!?ななななななな!?アオーン!??」


 おっさんがパニックを起こしている。自分より慌てている人間がいると、落ち着くもんである。


「それなら、まあ……」


「姫様ぁぁぁ!?」


「下着は自分でやります。つけ方を教えてください。ドレスは後ろの紐以外は私がやります」


「なるほど」


 お兄さんは下着について説明し、ドレスも真ん中をあけた状態で置いてくれた。これなら腕を通してしまえば着られる。


「おっさん、できたよ」


 下着はさほど難しくなく、私の世界とほぼ同じだった。


「ははははははははい……」



 おっさん、めっちゃ手が震えているが大丈夫だろうか。しかし案外すぐ紐を結んでくれた。


「姫様」


「なに?」


「髪を結ってもいいだろうか」


「え?」


 できるの??いや、多分おっさんはできなきゃ言わない気がする。


「その、妻の髪を結うのに憧れがあって結婚すらできそうもない売れ残りが何を夢見てんだって話なんだが「いいよ」


 ネガティブ禁止!別に構わないので了承した。


「そうだよな、無理……ん?」


「だからいいよって」


「あ、ありがとう!」


「ぐはっ!」


 おっさんから無邪気な笑顔いただきました!尻尾もブンブン振っている。むしろしてもらうのは私なんだけどね??




 おっさんはスゴかった。プロ並みに手際よく結ってしまった。ヤバい。鏡の私の髪型可愛い。


「おや、仕事を取られてしまいましたか。しかし、見事ですねぇ」


 お兄さんは化粧品を並べながら苦笑した。


「どうせなら化粧もします?」


「いいのか?」


「姫様も団長殿でしたら大人しくしてくださるみたいですし、かまいませんよ」


 そこは否定しない。私は素直に頷いた。




「おっさんスゴい。もはや改造レベルだ、これ」


 平凡顔を美しくみせるメイクテク…私が習いたいレベルである。


「いや、姫様の元がいいからだ」


「いえいえ、団長殿の腕もなかなかですよ」


 お兄さんはニコニコしながら化粧品を片付けていた。お兄さん、誰かに似ている…誰だっけなぁ…





 ドレスアップした私は、おっさんに運ばれていた。ハイヒールが固かったので、足が痛かったのだ。治りかけとはいえ、傷がある足にハイヒールは辛い。目ざとく顔をしかめた私に気がついたおっさんに抱っこされているわけである。




 ゲームなんかでありがちな謁見の間っぽいとこに通された。

 すぐに王様とお妃様かな?という二人と、お妃様の後ろに美中年がたくさん……あれ全部お妃様の旦那??すげーな。つうか、ドレスにジャラジャラゴテゴテ宝石がついて派手だなぁ。


「お前!何故ここにいるの!醜いけだものめ!さっさと出ていきなさい!」


「………申し訳ございません……」


 おっさんは傷ついた表情で私を下ろして出ていこうとした。


「お待ちください!団長様は負傷した私を気遣って運んでくださったのです!そのようにおっしゃるなんて………」




 涙は女の武器である。多用はよくないが、ここぞというときに使うと非常に効果がある。


「姫様…申し訳ございません。醜い私が目障りとおおせならば袋でもかぶります。姫様は魔物に襲われたこともあり、怯えているのです。せめて、お側に控えることをお許しください」



 ごめんよ、おっさん。でもおっさんがいないと不安なんだよ。キュッとおっさんの服を握ったら、耳が狼耳に変わり、尻尾がパタパタしていた。和むわ~。


「その見苦しい耳と尻尾をどうにかしなさい!!」


「キャイン!?」


 多分お妃様に叱られたおっさんは、すぐ耳と尻尾が元に戻った。くそう、派手なお妃様め!


「団長様…」


「姫様…大丈夫です、いつものことですから」


 いつものことだとしたら、余計に許せないんですが?ギュッとおっさんの服を握ったら、優しく撫でてくれた。ケモ耳がないと普通にイケメンだから心臓に悪い。



「さて、異界の姫様。我らの召喚に応じてくれて感謝する」


「…応じてません」


「……は?」


「私はいきなり夜の森にいました。貴殿方の召喚のせいだというなら、貴殿方は誘拐犯ということになります」


「…確かに」


「こらこら、納得するでない」


 納得するおっさんに、つっこむ王様。なんか仲よさげ?


「姫様、この中から気に入った男を選んで伴侶としてもらえぬだろうか」


 王様が手をあげると、ぞろぞろとイケメンが現れた。あまり好みじゃないし、なんか目線がこう…値踏みするような輩もいてしばきたい。


「お断りします」



「「……………………」」



 私と王様はお互い探るように見つめあい、微笑んだ。お互い、目が笑ってない。


「…その代わり、できる範囲でならば望みを聞こう。伴侶は姫様の後ろ楯となる」


「誘拐したあげく、知らない男と結婚しろとか最低ですね。断ったら適当な望みなら叶えてやるから言うこと聞けですか。おまけに私の安全は伴侶候補に丸投げですか?」


 私はイライラとしていた。この場でおっさんだけが私の怒りを理解していた。


「………陛下、姫様は望んで来たわけではなく、帰ることを望んでいます。姫様はこの世界を望んではいません。伴侶候補を決めても無意味です」


「おだまりなさい!!黙って聞いていれば小娘の分際で偉そうに!!おまけに下賎なけだものの分際で陛下に話しかけるんじゃない!!」


 派手なオバハン妃はわめきちらした。


「申し訳「汚らわしい!その赤い瞳も気持ち悪い!!汚れた野蛮なけだものがこの城にいるだけでも気持ち悪いのに、話しかけないで!吐き気がするわ!!」


 おっさんは謝罪すらさせてもらえずひたすらに耐えていた。私のせいだ。私のせいでおっさんが責められている。おっさんはなんにも悪くないのに。

 おっさんは悲しげに瞳を伏せて、ただ僅かに震えながら耐えていた。どこか瞳は虚ろで本当に『いつのもこと』なんだなって思った。いつもこんな風に耐えてたの?獣人であることや瞳の色なんて、自分ではどうしようもないのに。


「…おっさんの赤い瞳は綺麗だよ」


「姫様…」


「オバサンの目が曇ってるから綺麗に見えないんだよ!」


「ちょっ!?姫様!?」


「狼のお耳と尻尾も素敵だよ。ふかふかでいつまでも触りたくなるよ。おっさんの素敵なもふ心地を知らないなんて、人生の損失だよ!」


「ひ、姫様!?もふ心地??」


「おっさんは野蛮なんかじゃないよ、優しいんだよ。おっさんが国を守らなきゃオバサンは死んでるのに、恩知らずなオバハンのヒステリーなんか聞くことないよ!あんな心無い言葉に傷つかなくていいよ!短い間しか一緒に居なかった私ですら、おっさんの良いところをたっくさん知ってるんだから!」


「姫様…………」


 すがるような抱擁だった。おっさんはかすかに震えていた。私はおっさんを抱き返した。


「わ、わたくしはこの国の王妃よ!?近衛兵!この無礼な小娘を捕らえなさい!!」



「黙れや、くそばばあ!!」





 雷が(物理的に)落ちた。





 私ではない。精神的に雷は落としたが、物理的に落としたりはできません。


「ちょっとぉ、うちの姫様を捕まえろとか聞こえたんだけど?バカなの?死ぬの?」


 すらりとした美しい生き物。鹿に似ているが違う。これは…麒麟?しかもこの声って………


「ピエトロ君?」


「あったり~。姫様、おっ待たせ!あのくそばばあは僕が血祭りにあげるから、安心してね」


「ストップ!スプラッタストップ!!」


 まさかのブラッディフェスティバル開催宣言に、慌てて止める私。まったく安心できないよ!


「大丈夫!見た目エグくないように一瞬で焼き尽くすよ!」


「火力は心配してないから!!殺すのはやりすぎだから!!」


 ピエトロ君は雷を扱うようなので、火力は問題ないがそこはどうでもいい。


「そもそもさ?姫様は引く手あまたなんだよ。他の国だって良いわけ。姫様が望むなら、地の果てまで逃げてもいい」


「…そう…」


 でも私が行きたいのは…


「すまなかった!」


「陛下!?」


「我が国に滞在してください!」


 国王が頭まで下げた。土下座である。


「お前も頭を下げて頼みなさい!」


「ぐっ……」


 ははははは、オバハン謝罪する気ないな。別にいらないけど。


「私への謝罪は要りません。謝罪ならば団長様にしてください。王妃様が謝罪するならば、しばらくはこの国に滞在いたします」


 国王が目線でオバハンに促した。唇を噛みきり、血を流しながらもオバハンは謝罪した。


「…申し訳、ございませんでした」


「いえ…」


 おっさんはおどおどしている。オバハン怖いよね。後でよしよししてあげよう。


「陛下、滞在するにあたり、知識が欲しいです。公正な立場で私に接することができる教師をつけてください。特に魔法と政治、一般常識やマナーについて教えられる人物がいいです」


「よかろう。宝石やドレスなどはいらぬのか?」


「必要最低限以外は不要です。興味がありません」


「無欲だな…あいわかった。手配しよう」



 こうして、私はお城に滞在することになったのでした。


 追伸・謁見の間から出たら、癒しがほしくておっさんをよしよししました。おっさんは真っ赤になって逃げました。次は動けない状態で撫でてやろうと思います。

 ちょっと補足。別に異界の姫様は召喚した国に居なきゃならないわけではないので、気に入らなくて出ていくこともある。異界の姫様の娘も女を産む可能性が高く、出ていかれるのはすごく困る。


 おまけに召喚は神様が国単位で順番に10年ごとにやっているから、次回るのは大体160年後。

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