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 運営委員会の部屋は、円形をしていた。建物の最上部にある、ドームが委員会の部屋として使用されている。委員会とはいえ、堅苦しい雰囲気はなく、てんでばらばらの位置に、委員会の面々が、思い思いの方向を向いて椅子に腰かけていた。

 委員会の面々の姿は、宇宙人、ロボット、魔法使い、ホビット、オークなどまちまちだった。参加してくるプレイヤーは「蒸汽帝国」以外の仮想現実ゲームからログオンしているので、姿かたちも統一感は一切なかった。

 三人が入室すると、ロボットの姿をしたプレイヤーが立ち上がり、片手を挙げて挨拶をしてきた。

「やあやあ、あんたが萩野谷さんだね。あんたの呼び掛けで、大急ぎでこのゲームに接続したが、思ったより大規模なゲームで感動したよ」

 ロボットの声は、少し金属質な響きを帯びていた。顔にはギクシャクと動く眉毛と、パクパク上下する顎があり、ユーモラスな表情を作っていた。ロボットが口を動かすと、ほんの少し、半秒ほど遅れて、言葉が発せられた。

 察するに、ロボットを演じているプレイヤーは日本人ではなく、同時翻訳アプリを利用している外国人だろう。同時翻訳と言っても、翻訳処理には僅かでも時間がかかるので、実際の音声に変換されると、遅れて聞こえてくるのだ。

 すらりとした女エルフの姿をしたプレイヤーが、口調に疑いの響きをにじませ、口を挟んできた。こちらは音声の遅れはなく、日本人のプレイヤーらしかった。

「オタク連合軍を組織するって話だけど、詳しくは何をするつもりなの? まさか突撃隊に敵対するんじゃないでしょうね」

 萩野谷は、女エルフの追及に言い淀んだ。すかさず牧野がずいっと前へ出て、口を開いた。

「それが何が悪いのよ? 今のままじゃ、あたしたちオタクはどうにもならないわ。規制はどんどん厳しくなるだけじゃない。あたしたちが立ち上がらないと」

 ドワーフの姿をしたプレイヤーが、うっそりとした口調で呟いた。ドワーフの隣には、エルフの姿の幼い少女が側で腕を絡めている。エルフ少女の頭上には〝N〟マークが輝いていて、ドワーフ・プレイヤーのパートナー・キャラクターらしい。

「そんなこと言ったって、俺たちツッパリにカツアゲされたら、どうしようもないしな。現実世界で、オタクはツッパリ相手に喧嘩なんか、絶対に出来やしない……」

 呟いたドワーフは、パートナーのエルフ少女をちらっと見て、言葉を続けた。

「しかし仮想現実ゲームでも、近頃悪い噂が聞こえてくるしな。本当かどうか知らないが、突撃隊はゲームのキャラクターも規制するって話がある」

 ドワーフの言葉に、一同は粛然とした。

 委員たちは一様に、美少女のパートナー・キャラクターを連れている。もし本当に規制が実現されたら、幼い外見のパートナー・キャラは禁止されるかもしれない。今パートナーとなっている美少女キャラも、政府により削除される恐れがあった。

 すると宇宙人の格好をしたプレイヤーが、野放図な声を上げた。

「なあに、いよいよとなったら、サーバーを日本以外に移せばいいんだ。いくら政府だって、海外のサーバーまで規制は無理だろう?」

 最初に声を上げたロボットのプレイヤーが、ゆっくりと首を左右に振って反論した。

「そりゃ楽天的すぎる。サーバーを海外に移したって、データを外から削除するのは可能だからな。禁じられている美少女キャラでログオンしているプレイヤーだっているし……」

「〝なりすましロリ〟の話はやめようや」

 どこからか声が上がった。

 本当は中年男性なのに、ゲームの中では美少女キャラを演じるのを〝なりすましロリ〟と呼ぶ。その声に、委員たちの間に気まずい空気が流れた。明らかに美少女キャラのプレイヤー同士、ちらちらとお互いを盗み見している。

「噂と言えば……」

 萩野谷は空気を変えようと、別の話題を上げた。

「新しい仮想現実装置の話、誰か知っていないか?」

 良太は「待ってました」とばかりに、身を乗り出して口を開いた。

「知ってますよ! 何でも新しい装置は、今まで不可能だった、五感全部を再現できるって話ですよ」

 牧野は疑いの視線で良太を見た。

「五感全部って、どういうこと?」

 良太は滑らかな口調で、よどみなく答えた。

「今、僕らが利用している仮想現実は、視覚と聴覚だけじゃないですか。新しい仮想現実装置は、触覚、味覚、嗅覚も感じられるって話です。つまり、触れて、味わえて、匂いも感じるような装置らしいです」

 ドワーフのプレイヤーが、喜色を浮かべて夢見るような目つきになった。

「もしそれが本当なら、俺は一番で手に入れたいなあ……。今まで仮想現実で、歯がゆい思いをしたことがさんざん、あるからな」

 美少女のパートナーを連れているプレイヤーは、熱っぽい目つきで、NPCを見詰めた。それぞれ己のケシカラン妄想に入っているのか、目つきは虚ろになっている。

 仮想現実では、物に触れることは出来ない。手を伸ばせば仮想現実の物体を動かすことは出来るが、それはゲームの方で物理演算をしているだけで、手触りは一切感じないからだ。もし五感総てを再現できれば、パートナーの美少女キャラの手触りを感じ取ることが可能だし、さらに妄想を膨らませれば、ここに記すことは出来ないあれやこれやが……。

 いかん!

 つい筆が滑りそうになった。

 萩野谷は後悔した。

 新しい仮想現実装置の話題なんか、振るんじゃなかった……。

「おほん!」と一つ咳払いして、萩野谷は一同の注意を惹いた。満足して本日、話したかった肝心の話題を口にした。

「実はガッツ島で新しい動きがあった」

 萩野谷の「ガッツ島」という言葉に、全員注目した。

「ガッツ島と、ナデシコ島に収容されているオタクたち、俺の知り合いに救い出されて今、都内に向かっている」

 萩野谷の爆弾発言に、委員会の全員が騒然となった。

「何だって!」

「そりゃ、本当か?」

「救い出されたって、誰がそんなこと?」

 口々に萩野谷に向かって質問を投げ掛けた。萩野谷は「まあまあ、落ち着いて話を聞いてくれ!」と両手を上げて、一同を押さえた。

「要するに、百五十人のオタクたちが、こっちに向かっているんだ。彼ら、彼女らの保護をしなければならない。そのことを、この委員会で相談したかったんだ。どうだ? みんなで守ってやれないか?」

 萩野谷は声を張り上げ、全員を見守った。委員会のメンバーはお互い顔を見合わせ、誰が口火を切るか牽制しあっていた。全員の様子を見て、牧野は苛々と地団太を踏んだ。

「みんな、仲間じゃなかったの? オタクはオタク同士、助け合うのが当たり前じゃないの。もし見捨てるなら、それはツッパリ、ヤンキーと同じよ!」

 牧野の「ツッパリ、ヤンキーと同じ」という演説に、その場の委員会全員、愕然となった。

 ドワーフプレイヤーが顔を上げ、呟いた。

「そうだ、我々はツッパリ、ヤンキーと違う。奴らは仲間を見捨てるが、俺たちはオタクを見捨てない!」

 萩野谷はほっと安堵の息をついた。

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