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キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~  作者: 万卜人
第十五章 リターン・オブ・ザ・オタク
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 収容所に近づくと、オタクたちが全員外に出て、グリーン、イエロー、オレンジ、ピンク、ヘリオトロープの戦隊ヒーローっぽいスーツを身に着けた〝妹〟たちの演説に、熱心に聞き入っているところだった。

「ありゃ、何だい?」

 思わず尋ねると、朱美は勿体ぶった態度で答え始めた。

 しまった!

 うっかり朱美に自分の発明品を自慢させる、という有り得ない機会を与えてしまった。

 朱美は滔々と喋り始めた。

「あれはオイラの戦闘服だ。美登里、アイリス、檸檬、蜜柑、桃華たちのために用意したんだ。基本的には、オイラの戦闘服と同じ極微装置{ナノ・マシーン}で出来ているが、初めて身に着ける者でも、簡単に使えるよう改良を加えている。まず……」

「ストップ!」

 僕は手を挙げ、朱美の口を押えた。

「そうじゃなくて、彼女たちが何をオタクたちに訴えているか、ってことを聞いてるんだ」

 僕の質問には、釜飯屋が答えた。

「ガッツ島から逃げることを提案しているんだよ。俺たちは逃走のために、船を用意したんだが、どうもオタクたちは、この島から逃げることにそう熱心じゃないようだな」

 それまでハンドルを握っていた来夢が、口を差し挟んできた。

「あたしは逃げたいよ! こんな島にいつまでもいても、どうなるってもんじゃないしね」

 僕は首を傾げた。

 来夢の意見は完全に理解できる。

 しかしオタクたちが、なぜ逃走を拒否しているのは、さっぱり判らない。

 4WD車は収容所前に停車した。

 ドアを開け、朱美が外に飛び出ると、ピンク色のスーツを着た──多分桃華だ──が駆け寄ってきた。

「ねえ、どうしよう。オタクたち、本土に帰ることが出来るってのに、何だか嫌がっているんだよ」

 朱美は思い切り不機嫌な表情になった。

「勝手にすればいいだろう! 嫌だってことを、オイラたちが強制するのは筋違いだ。残りたい奴は、残ればいいんだ!」

 僕が車外に踏み出すと〝妹〟たちの間に、微妙な変化が生じた。それまで落ち着かない様子だったのが、一瞬で安堵感が広がり、自身が漲った。

 ピンクのスーツのマスク部分が引っ込み、桃華の素顔が現れた。

「お帰りなさい、〝お兄様〟」

 桃華は〝妹〟の中で最も小柄で、童顔なので、小学生か、中学生にしか見えない。しかし本当は二十歳の成人で、僕より年上だ。本来なら僕の方が「お姉さん」と呼ぶべきだ。

 他のスーツも次々とマスクが引っ込み、素顔が晒された。〝妹〟たちは小走りに近寄って、口々に「お兄様」と呼びかけてくる。

 うーん、これは〝萌える〟状況だぞ。

 すると朱美が近づき、僕の脇腹を指先で思い切り強く突っついた。

「何、ニヤケていやがる!」

 脇腹を突かれ、僕は息が詰まった。朱美は軽く突いたつもりだろうが、こっちとしては激痛が走って気が遠くなる。

 何とか激痛を堪え、僕は〝妹〟を従え、オタクたちの方へ歩いていった。

 収容所の前に勢ぞろいしたオタクたちは、僕の背後の崎本美登里のスーツ姿を見て、顔を真っ赤に染めた。

 朱美が配ったスーツは、全身に密着するようになっている。美登里のナイスボディのラインが露出しているので、見ているだけでこっちが照れてしまう。

 僕は彼女たちを代表する形となって、前に一歩進み出ると、以前仲間だったオタクたちに話し掛けた。

「どうして本土に戻りたくないんだ? これはチャンスだぞ」

 オタクたちは、お互いの顔を盗み見て、落ち着かない様子を見せた。

「だってなあ……」

 ようやく一人が、おずおずと言葉を押し出した。最初の一人の口火を受ける形となって、もう一人が喋り出した。

「俺たちは囚人だぞ。ここで大人しく刑期を務めあげれば、本土に戻れる。下手に動いて刑期が長くなったら、どうなるんだ? 罪が重くなるだけじゃないか」

 美登里はその意見に怒りを爆発させた。

「罪ですって! 何言っているの? アニメや、ゲームを楽しむのが犯罪だなんて、どう考えてもおかしいじゃない!」

 背後で来夢が嘆息したように呟いた。

「まったく、男ってのはウジウジしてんだからねえ……」

 するとオタクたちの間に驚きの声が上がった。

「黒木来夢だ! どうしてここにいるんだ?」

 ああ、そうだ。うっかりしていたが、黒木来夢は僕らアニメオタクたちにとって、かなり有名な声優なんだ。

 オタクたちはどどーっ、と僕らが引くほどの勢いで近寄ると、来夢の周りに詰めかけた。

「来夢さん! 僕、ファンです!」

「僕も、僕もファンです!」

 我先に自分がファンだとアピールしてくる。来夢は明らかに戸惑っているようだ。

「えっ、どうしてあたしだと判ったの? 顔写真とか、公開していないのに……」

 するとオタクたちは満面の笑みを浮かべ、話し掛けた。

「なーに、言ってんすかあ。来夢さんの声は、誰だって判りますよお!」

「そうだよ、リームの声は来夢さんで決まりだよなあ!」

「来夢さん、リームの声優やらないんですか?」

 来夢の顔つきが次第に和んできた。それまで、眉がせまり、周囲を警戒していた表情が消え去り、明らかに機嫌を直している。

 僕は声を張り上げた。

「お前ら! 来夢はこれから東京へ戻るんだぞ! それでもガッツ島に残るのか?」

 僕の言葉に、オタクたちに動揺が走った。

「どうする?」

「どうするよ?」

 お互い「どうする?」と言い合い、態度を決めかねていた。

 その時、アイリスが叫んだ。

「大変……突撃隊員が……!」

 全員、振り向いた。

 管理本部の方向から、赤田を先頭に突撃隊員が血相を変えて駆けて来るところだった。赤田は怒り心頭に達し、物凄い形相で走って来る。

「貴様らーっ!」

「うわ!」

 オタクたちに恐怖の感情が走った。

 僕は叫んだ。

「逃げろーっ!」

 僕の言葉が切っ掛けとなり、それまで躊躇っていたオタクたちは一斉に走り出した。

「みんな、こっちやで! 船が待ってる」

 レミングの群れのように、盲滅法に走り出すオタクたちを、アイリスが先頭になって桟橋へ誘導した。

 ふらふらと頼りなく歩く人影に、そちらを注目すると、それまで車の後部座席で気絶(どっちかというと爆睡)していた阿久津が茫然と周囲を眺めている。

 僕は阿久津に駆け寄り、襟首を掴んだ。

「逃げるんだ!」

「ふあ?」

 阿久津は両目を擦り、まるっきり何が起きているのか理解できないようだ。僕は思い切って、阿久津の背中を蹴り上げた。

「走れ! みんなと一緒に逃げろっ!」

「わ、判った……!」

 阿久津はとっとっとっと、と泳ぐような足取りで桟橋に向かった。僕は朱美に振り向いた。

 朱美は戦闘服モードになると、残りの〝妹〟たちを振り向いて叫んだ。

「全員、戦闘服モードになるんだ! オタクたちを逃がすまで、オイラたちが迎え撃つ!」

 朱美の命令に〝妹〟たちは一斉にスーツの戦闘服モードを起動した。瞬時にマスクが〝妹〟たちの顔を隠し、殺到する隊員たちに向かい合った。

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