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収容所に近づくと、わあわあという歓声が聞こえて来た。
美登里を先頭に、五人の〝妹〟がドアを次々と破って、中にいた女たちを引っ張り出していた。ドアには鍵がなく、出入りも基本的に自由だ。中にいるのは、外に出ても何もなく、脱出の手段もないので仕方なく中に閉じこもっているだけだった。
美登里たちは大声で、女たちに叫んでいた。
「こんなところに、いつでもいたいの? 今ならあたしたちが、東京に戻してあげるわ!」
外に引き出された女オタクたちは、疑いの表情で美登里たちを眺めていた。
一人がずい! と一歩前へ進み出て、美登里のグリーンのスーツをじろじろと眺めながら口を開いた。
「あんたら戦隊もののオタクじゃないの? そんなの、信用できないわ」
言われてみればその通りで、朱美が〝妹〟たちに配った戦闘スーツのデザインは、戦隊ヒーローそのものだった。
背後から足音が聞こえ、朱美は振り返った。
釜飯屋が女隊員たちを縛り上げ、縄で括って引き連れてきたところだった。
「こいつら、どうする?」
縛られて黙り込んでいる女隊員を目にして、囚人たちの間に驚きの声が上がった。
「本当に、突撃隊をやっつけたのね。信じられない……」
朱美は割り込んだ。
「さらに言うと、ここの通信設備はオイラが完璧に壊しておいた。だから突撃隊の本部では、ここで何が起きているのか知らないし、今のうちなら本土へ帰れる。選択の機会は今しかないぞ。さあ、どうする?」
女オタクたちは額を寄せ、相談しあった。やがて結論が出たのか、朱美たちに向き直り頷いた。
「あんたらが本当にあたしたちを本土に戻してくれるというなら、お願いします」
女たちの口調は、丁重なものになっていた。
朱美は満足して、歩き出した。
「よし、オイラについて来い! 脱出のため、船が待っている!」
釜飯屋は伸びやかな口調で、朱美に質問した。
「おいおい、この突撃隊の女たち、どうするんだよ?」
「放っておけばいい。いずれこの島にも補給のための船が来る。それまでは何も出来やしないさ!」
朱美の言葉に、女突撃隊員はむっつりと黙り込んでいるだけだった。朱美の言葉が、真実をついていたからだった。
女オタクたちは、周囲を〝妹〟たちに守られ、桟橋に向かった。スーツを着ている〝妹〟たちは、ゴーグルの赤外線視覚のせいで暗闇でも視界は守られているが、女オタクたちはそうはいかず、一歩一歩が手探り同然だった。
それでも着実に桟橋に近づき、朱美たちは全員を何度かに分けてボートに乗せ、百メートルほど冲に停泊している潜水艦、アヴァロンに連れて行った。
船内に案内された女オタクたちは、広々とした内部に感嘆の声を上げた。
「これからどうするの?」
一人が朱美に尋ねた。
いつの間にか、朱美は彼女たちからリーダーと目されていた。当然のごとく、朱美もそれを受け止めた。
「まずガッツ島に向かい、そこに囚われている囚人たちを解放する。ガッツ島の囚人たちを収容しても、このアヴァロンには十分、スペースがあるから、それから東京を目指す」
女オタクの一人が、疑いを口調に滲ませ、呟いた。
「東京に戻っても、元の生活に戻れるかどうか、判らない……」
朱美は嘲りの声を上げた。
「元の生活ってどういう生活だ? 一日、趣味のBLとか、ショタとか、二次元キャラを恋人にする生活なのか?」
朱美の言葉に、女オタクたちは反発の表情になった。
「そんな酷いこと言わないでよ! それじゃ、あなたたち、どうすべきだと思うのよ?」
反論に、朱美はグッと詰まってしまった。ついつい成り行きで、このオタク救出作戦に加わってしまったが、その後のことはまるで念頭になかったからだ。
「世の中を変えるのです……」
静かな声が、響き渡った。
ハッとなってそちらを見ると、亜麻色の髪の毛を複雑な形に編み上げた、一人の美少女が立っていた。
朱美はニンマリと笑って、声を掛けた。
「いよう! これは佐々木藍里ちゃんじゃないか? いつ御出ましになるかと思ってたぜ」
藍里はすらりとした肢体を長い脚で運び、朱美の目の前に立った。朱美はぐっと身を反らし、藍里を見上げた。
「世の中を変える、と言っていたようだが、もっとオイラにも判りやすく説明してくれないか?」
藍里は頷いた。
その後に発した藍里の言葉に、朱美は仰天していた。
「決まっています。革命です!」
「革命だって?」
「そうです」
藍里は頷き、言葉を続けた。
「朝比奈政権を倒すのです」




