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 ジャミングが続いているので、スーツの無線は使えない。全員、無言のまま収容所と、突撃隊員の宿舎へ近づいていく。

 朱美の視界に、釜飯屋の後ろ姿があった。釜飯屋の速足は、まるで急いでいるようには見えず、近所の老人のゆったりとした散歩を見ているようだが、恐ろしく早い。気が付くと、朱美は釜飯屋に大きく差を広げられていた。朱美は焦りを憶えた。

「筋力増加モード!」

 朱美は叫んで、校章に手を触れた。

 途端に朱美の速度が倍加した。

 とーん、と朱美は地を蹴り、ぐっと身を沈め全身の力を足先に込めた。

 砲弾のように、朱美の身体は前方に投げ出され、地面すれすれを飛ぶように走った。

 これが朱美が身に着ける、真兼高校女子制服の、戦闘服モードの秘密だった。一つ一つがミクロサイズの、極微装置{マイクロ・マシーン}が人工知能により、あらゆる状況で朱美を無敵の戦闘機械に変身させる機能を発揮するのである。

 筋力は最大百倍に増加し、その時の朱美は、最新鋭の一〇{ヒトマル}式戦車と、一対一で対等の戦いを行えるほど強化される。

 他の〝妹〟に支給したスーツにも、筋力増加モードはあるが、朱美の戦闘服ほどの増幅能力はない。もっとも朱美と同じほど筋力増強を許したら、慣れていないためまともに動くことは不可能になるに違いないが。

 朱美の目の前で釜飯屋は宿舎のドアを開き、中へと踊り込んだ。朱美は釜飯屋の後に続き、内部に踏み込んだ。背後で他の〝妹〟たちが、囚人たちの建物に飛び込む気配を感じた。

 先に内部に入り込んだ釜飯屋が、壁のスイッチを手探りして入れた。

 宿舎の照明のスイッチが入り、朱美のスーツは光を感知して赤外線モードからゴーグルを通常の視覚に戻した。

「あんたら、誰!」

 鋭い誰何の声がして、突撃隊の制服を身に着けた女が立ち塞がった。がっしりとした肩幅のある、重量級の体格をしていた。手には凶悪な光沢を放つスタン・ガンを握っている。

「失礼するよ、通信室はどこかな?」

 釜飯屋の言葉に、女はちらっと視線を動かした。

「ああ、こっちだな」

 釜飯屋は大股で歩き出し、女の視線の先に移動した。

「そこを動くな!」

 女は咆哮し、手にしたスタン・ガンを釜飯屋に突き出した。

 釜飯屋は背後を振り返らず、片手に握った杖を真後ろに突き入れた。杖の先端が女のスタン・ガンを振り払った。鋭い音がして、スタン・ガンは床に転がった。

 女は唸り声を上げ、釜飯屋に襲いかかった。

 釜飯屋の肩に女の手が触れるか、触れないかという一瞬、釜飯屋は鋭く身をひねり、杖を揮って女の足を払った。

 ずっでんどう! と女は釜飯屋の杖ですっ転んだ。

 騒ぎにドアが次々と開き、突撃隊の制服を身に着けた女たちが飛び出して来た。

「あいつらを捕まえて!」

 女の叫び声に、新たな敵は一斉に釜飯屋に飛び掛かった。無数の女突撃隊に圧し掛かられ、釜飯屋の姿が隠れた。

 朱美はそれには構わず、遮二無二最初の女突撃隊員が視線を送った部屋に暴れ込んだ。

 鍵が掛かっていたが、朱美が拳を突き入れると、呆気なく弾け飛ぶように外れた。

 入ると通信設備があって、その前に二人の通信係が装置を操作していた。通信室には時計があった。朱美はちらっと、時刻を確認した。アヴァロンがジャミングを掛けるのは、あと数分で終わる。

 通信係の隊員は、必死に本土とガッツ島に連絡を入れようとしていた。しかしジャミングのせいで、応答はなかった。

 のしのしと足音を立て、朱美が内部に踏み込むと、一人の隊員が立ち上がり、腰の警棒を抜き放って殴りかかってきた。

 隊員の警棒は、真正面から朱美の額にぶち当たった。隊員の振り下ろした勢いは強く、通常だったら朱美の頭蓋骨は、あっさり粉砕されているだろう。しかし朱美の顔を覆っているマスクは警棒を受け止め、なんらの衝撃を伝えなかった。逆に振りかぶった隊員の腕が痺れてしまったようで、襲いかかった隊員の顔に驚愕の表情が浮かんだ。

 朱美は唸り声を上げ、無造作に隊員の腕を振り払った。ただそれだけで、隊員は吹っ飛び、壁に激突して床に伸びてしまった。立ち上がれないので、失神したのかもしれない。

 通信装置に向き合っているもう一人の隊員が、近づく朱美に恐怖の表情を浮かべた。

 朱美は戦闘服の外部スピーカーのスイッチを入れ、怒鳴った。

「殺されたくなかったら、そこをどけ!」

 朱美の大声に、隊員は飛び上がった。

 もともと朱美は大声で、それがスピーカーにより拡大されたのだ。信じられないほどの大声だったろう。

 朱美は通信装置に向かうと、べりべりと大げさな音を立て、コンソールの外板を剥がし始めた。外板を剥がすと、通信機のユニットが剥き出しになる。朱美は腕を内部に突っ込むと、滅茶苦茶に破壊した。

 あっという間に、通信機は原形をとどめないほど破壊された。これでは送信は不可能だ。

 満足して朱美は出入り口に向き直った。

 部屋の片隅に、通信係の女隊員が震えながら蹲{うずくま}っている。女隊員からはまるで戦意を感じず、朱美は無視して廊下に出た。

「ほいっ! ほいっ!」

 釜飯屋の陽気な掛け声が響き、かんかんと乾いた棒の音がした。数人の女隊員を相手に、釜飯屋が杖を揮って戦いを繰り広げている。

 女隊員たちの武器は警棒で、拳銃などは使用していない。それも当たり前で、ナデシコ島では、拳銃を使うような機会はあり得なかった。もし島で反乱を制圧するような事態になっても、警棒やスタン・ガンがあれば、充分事足りた。

 釜飯屋は長い杖を縦横無尽に振って、複数の相手をしていた。

 朱美は釜飯屋に声を掛けた。

「手伝おうか?」

 釜飯屋は笑いながら答えた。

「大丈夫、大丈夫! もうちょっとで片付く」

 その言葉が終わるか、終わらないかで釜飯屋は身を低くすると、手にした杖をぶるんっ! と、横に薙ぎ払った。

「わあっ!」

「きゃあっ!」

 女隊員は悲鳴を上げ、一斉に足を絡まれすっ転んだ。どて! どて! と重々しい音を立て、全員床の上に倒れ込んだ。倒れた時にどこか釜飯屋によって打ち据えられたのか、全員腰や、背中を押さえて呻いていた。

 釜飯屋は立ち上がり、何事もなかったかのように朱美に声を掛けた。

「それじゃ、収容所の方を見てみようか」

 朱美は素直に頷いた。

 釜飯屋の戦闘力に、内心舌を巻いていた。

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