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司令塔が海上に浮かび上がり、甲板の一部が海の上に浮かぶと、ハッチが開いて釜飯屋を先頭に六人の〝妹〟たちが次々と現れた。
朱美は頭上を振り仰いだ。
時刻は真夜中で、月はなく、満天の星空だった。灯りと言えば、潜水艦内部の非常灯の明かりが、開け放たれたハッチから頼りなく周囲を照らしているだけだった。
最後に、船長の三上がハッチから首を突き出し、心配そうに声を掛けた。
「本当に、我々が手伝わなくていいのか?」
朱美は言下に断った。
「心配するな。オイラたちだけで充分、実行できる。それにこれは、オイラたちの戦いなんだ! 三上さん、あんたにはオイラがやってくれと頼んだこと、確実に実行して貰いたい」
朱美の言葉に、三上は強く頷いて答えた。
「判った、打ち合わせ通りってことで、後は任せろ!」
三上が引っ込み、ハッチが閉められると、朱美は〝妹〟たちに命令した。
「みんな、ゴーグルを赤外線モードにしろ」
朱美の命令で、スーツを身に着けた〝妹〟たちは、一斉に、ゴーグルの調整をすませた。新たな視界に、全員驚きの喘ぎを上げた。
「ほんまや! 真っ暗けのはずやのに、ちゃーんと見えとるで!」
美登里は不満の声を上げた。
「でも色はついていないのね。全部、モノクロにしか見えない」
朱美は渋々説明を始めた。本来、朱美は自分の発明品を、事細かく説明する習慣は持っていない。
「赤外線モードにしているからな。暗視モードにすると、星空が眩しすぎるからかえって見づらくなる」
その中で、釜飯屋だけは通常の態度を崩さなかった。なぜなら釜飯屋にとって、暗闇だろうが、真昼だろうが変わりないからだ。
ボートが用意され、全員乗り込むと、朱美が舵を取った。
低出力でエンジンが動き出し、ボートはゆっくりとナデシコ島へ動き出した。
ナデシコ島が近づくと、朱美はエンジンをストップさせた。ここからは全員でオールをこぐ。島にいよいよ接近するとオールの動きが停まり、惰性でボートはナデシコ島の桟橋に近づき、停まった。手早く朱美はロープを桟橋に引っ掛け、係留すると真っ先に上陸した。
朱美は無線を使って、〝妹〟たちに話し掛けた。
「ナデシコ島の地理は、あらかじめデータで用意してある。これだ!」
朱美が言い終えると、全員の視界に3Dデータとしてナデシコ島の全景が出現した。
「オイラたちのいる桟橋はここ」
朱美が喋りながら指を突き出すと、その場所に光の点滅が現れた。
アイリスは喜びの声を上げた。
「わあ! ゲームみたいや!」
朱美は即座に噛みついた。
「こいつはゲームなんかじゃ、ねえ! オイラの説明をよく聞いているんだ! いいか、ここから数百メートル先に、女オタクたちが囚われている収容所の建物がある」
朱美が画面を操作すると、ナデシコ島を現す3D映像がぐるりと回転し、建物の形を表示した。建物は二つあり、一つは小さく表示されていた。
「こっちの小さいほうは、管理部門だ。女オタクたちを監視するための、突撃隊員が常駐している。こちらの島に収容されている囚人たちは五十名たらず。だから常駐している職員も、十名はいねえ。オイラたちで、簡単にかたづけられる」
美登里が感心したような声を上げた。
「それにしても、よくこんなデータを手に入れられたわねえ!」
朱美は得意そうに、鼻のあたりを擦った。が、擦った後で、マスクを被っていることに気づき、憮然とした声を上げた。
「島のデータは国土地理院のメイン・システムをハッキングして手に入れた。後は突撃隊のシステムからも、データを手に入れた。よし、全員出発だ!」
朱美が先頭になって、移動を始めた。
釜飯屋はそっと朱美に話し掛けた。
「ちょっと足音が大きすぎる。これじゃ、パレードの楽隊みたいだ」
マスクを被っているので、朱美の言葉はくぐもって聞こえた。
「それは言いっこなしだ! オイラたちはグリーンベレーじゃないからな」
全員は雑木林の中を突き進んだ。
ナデシコ島はガッツ島と違い、サンゴ礁が隆起した島だ。島が形成されて数万年が経過しているため、深い森が形作られていた。朱美のデータが無かったら、とっくに道に迷っていたところだった。
森が途切れ、目の前に建物が見えてきた。
「あれが収容所? あまり刑務所っぽく見えないわね」
美登里が身体を低くし、ゴーグルを操作しながら呟いた。美登里に倣って、アイリス、新山姉妹、桃華もゴーグルを望遠にして建物の形を眺めた。
美登里の感想通り、建物は囚人を収容しているような造りではなかった。窓には鉄格子は嵌まっていないし、特に厳重に管理されているようには見えない。刑務所につきものの、監視塔のような建物もない。それに周囲を取り囲む、塀やフェンスの類もなかった。
朱美が冷静な口調で、説明した。
「脱走しても、どこへ行くあてもないからな。島を取り囲む海が、塀替わりになる。それより、あっちの小さな建物を見ろ!」
朱美が指さし、全員一斉にそちらに視線を向けた。
大きな収容者のための建物に隣接して、もう一つの建物があった。建物の屋根には大きなパラボラ・アンテナがあり、いくつものアンテナが突き出していた。
「あれが突撃隊員の宿舎だ。オイラの調べによると、中には七、八人くらいしか常駐していなくて、全員女だ。あと十分くらいで〝アヴァロン〟に頼んだことが始まる」
全員の視界に、時計の時刻が表示された。
じっと待っていると、のろのろと時間が経過し、ようやく朱美の待ち望んだ時刻に達した。
その瞬間、潜水艦アヴァロンの操舵室では、ひとつのスイッチが押された。
電波を遮蔽する、アヴァロンのジャミングだった。本土と連絡させないため、時刻を決めてジャミングを始めたのだった。
もっともあまり長く電波障害が続くと怪しまれるので、即座に動いて通信室を占拠する必要がある。
朱美が立ち上がろうとした寸前、釜飯屋が杖を手に、無造作に立ち上がった。口の中では、ぶつぶつと何事か呟いている。
「〝萌え〟は我と共にあり……我は〝萌え〟と共にあり……」
ひょい、ひょいと釜飯屋は大股で歩いていく。まるで体重が存在しないかのような速足で、まったく足音を立てない。
慌てて朱美は立ち上がり、全員に指示した。
「よし、進め!」
〝妹〟による襲撃が始まった。




