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 潜望鏡を戻して三上は振り返り、口を開いた。

「ナデシコ島に着いた。この先、十キロの沖合にガッツ島がある」

 三上の口調は、いよいよ作戦が本格的に近づいたためか、きびきびとした軍人口調になっていた。

 釜飯屋は頷いた。

「まずナデシコ島の女オタクを救助しよう。ガッツ島はその後だ」

 釜飯屋の提案を聞いて、檸檬、蜜柑の新山姉妹は憤然として進み出た。

「〝お兄様〟を助け出すのが先じゃないの?」

 釜飯屋は「ちっちっちっ!」と指を左右に振って、窘めるように話し掛けた。

「救出するのが、明日辺君だけでは、他のオタクが可哀そうじゃないか。それにナデシコ島に囚われている女のオタクは、五十人もいない。彼女たちを救い出しても、まだ余裕はあるよ」

 姉妹は不承不承、引き下がった。

 釜飯屋は愛用の杖を握り、朱美に尋ねた。

「ところで上陸したとして、その後どうやって戦うんだね? 武器は持ってこなかったし、あったとしても彼女たち、使いこなせないだろう」

 朱美はその質問を待っていた、と言わんばかりにニンマリと笑みを浮かべた。くるっと全員に向き直り、宣言した。

「みんな! オイラが渡したスーツを身に着けるんだ!」

 美登里、アイリス、檸檬、蜜柑、桃華の五人は「えーっ!」と不満そうな声を上げた。

 アイリスが、一歩前へ出て、一同を代表して不満を表明した。

「あれを着るって、どういうことや? あんな恥ずかしいスーツ、よう着られへんわ!」

 桃華も同意した。手には朱美が手渡したスーツをぶら下げている。

 このスーツは、朱美が一人一人に直接手渡したものだった。

「そうよ。だいたい、サイズが合っていないじゃないの! あたしなんか、三号くらい大きいわ!」

 朱美はぱん、ぱん、ぱん! と大きく、ゆっくり両手を打ち鳴らしながら叫んだ。

「サイズの違いは、服の方で勝手に修正されるから大丈夫だ! このスーツは、オイラが設計した戦闘服で、お前らの力を何倍にも強めてくれる。おまけに少々の衝撃も吸収するから、怪我もしないしな!」

 疑いの目で朱美に従い、各々着替えに向かう五人に、朱美はもう一度声を掛けた。

「いいか! 下着はつけるんじゃないぞ! いったん裸になって、直接スーツを身に着けるんだ。下着なんかの余計なものがあると、もしもの時、酷い怪我をする」

 五人は潜水艦の士官室に入って、スーツを着替え始めた。朱美の指示に従い、全裸になってスーツを身に着ける。スーツは上下が繋がったライダースーツのようなもので、身に着けた瞬間、ピシッと小さな音と共に、肌に密着して各々の体格に合ったサイズになった。

 着終わった美登里は、頷いて呟いた。

「確かにサイズはぴったりだわ……でも、ぴったりすぎるかも」

 美登里は自分の身体を見下ろし、肩をすくめた。この五人の中で、もっとも胸が目立つ美登里ゆえの感想かもしれない。

 他の四人は羨まし気な、あるいは圧倒されたような視線で、美登里の身体を眺めた。

 五人のスーツは、各々色が違っていた。

 美登里はグリーン、檸檬、蜜柑は黄色、オレンジ、アイリスは薄紫、桃華はもちろん、ピンクだった。

 美登里を先頭に、再び朱美と釜飯屋のところに戻ると、船長の三上と乗組員はそわそわと落ち着きを無くした。三上と乗組員たちは、美登里のスタイルに視線をやろうとして、慌てて明後日の方向を向いた。

 五人を認め、朱美はさらに指示をした。

「よし! それじゃ胸についているバッジに手を触れてみろ。それが戦闘服の起動スイッチになっている」

 朱美の言葉に従い、全員胸についているスイッチに触れると、スーツが劇的に変化した。

 袖が伸び、両手を包んで手袋になった。足先も、スーツの布地が伸びてブーツの形になった。

 首元の布地は伸びて、顔を覆ってマスクの形になった。目の位置に新たなゴーグルが出現し、全員の顔は判らなくなる。

 朱美は満足そうに呟いた。

「素顔をさらすのは危険だからな。そのマスクは銃弾でも跳ね返す」

 三上は潜望鏡を覗き、一同に説明した。

「上は夜になっているぞ。暗くて大丈夫か?」

 朱美は笑いながら首を振った。

「ゴーグルは赤外線から、紫外線まで見えるし、暗闇でも平気な暗視カメラにもなっている。さらに調整すれば、望遠から、顕微鏡にもなる。どんな場面でも視界を確保できる。夜だろうと昼だろうと、視界に不自由はない!」

 朱美の説明に、アイリスは文句をつけた。

「あんたはどうなんや? あんただけ、真兼高校の制服のまんまやないか!」

 朱美はアイリスに笑いかけた。

「オイラが普通の制服を身に着けていると思うのか?」

 朱美が胸の真兼高校校章に手を触れると、あっという間に朱美の姿は戦闘服となった。同時に服地の色味が変化し、全身が真っ赤に染まった。朱美の戦闘色だ!

 朱美は襟が伸びて、マスクの形になった頭部の耳元に手をやった。

「戦闘中の会話は、無線でやり取りできるから、コミュニケーションについては心配するな。いいか、この戦闘服を身に着けている限り、お前らは無敵だからな!」

 真っ赤に変化した朱美の戦闘服をしげしげと見ながら、アイリスは一人頷いて呟いた。

「朱美はん、あんた本当は戦隊オタクやってん?」

 アイリスの言葉に、即座に朱美は突っかかった。

「オイラを馬鹿にするのか?」

 アイリスは他の〝妹〟を振り返り、同意を求めた。

「だって全員が色違いで、あんたが真っ赤な制服やなんて……なあ?」

 暫く、気まずい沈黙が流れた。

 釜飯屋は、沈黙を切り裂くように杖を突きあげ、叫んだ。

「よし! 救出作戦その1、実行だ!」

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