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 次の日、僕が連れられた部屋はいつもの小部屋ではなく、様々な計器が並べられた医療関係のような研究室だった。あらゆるところに、無数の機械が立ち並んだ光景に、僕は朱美の研究室を思い浮かべていた。

 免外礼博士はいつになく上機嫌で、せかせかと室内を歩き回り、並んでいる計測機器をチェックしたり、腕時計を覗きこんだりしていた。

 僕は相変わらず拘束椅子に縛り付けられ、手足はガッチリと拘禁具に把握されていた。

「今回はいつもと違うぞ! いよいよ、わたしの理論が確かめられる重要な日だ!」

 僕が気になっているのは、この部屋に設えられているもう一つの拘束椅子だった。

 同じ椅子が、僕の真向かいにあり、そちらには誰も座っていない。今まで博士の研究でこの椅子に縛り付けられていたのは、僕一人だけだったので、今日はどうするのか、少しばかり怯えを感じていた。

 博士はインタホンを使って、話し掛けた。

「連れて来てくれ!」

 博士の言葉が終わると、ドアが開いて突撃隊員がもう一人の被験者を連れて来た。

 僕はその新しい被験者を見て、息を呑んだ。

 女だった!

 このガッツ島に収容されて、初めて見る女性だった。しかも若い。もしかすると、僕と同じくらいの年齢か、あるいは年下かもしれない。

 体格はやや小太りで、むっちりとした体つきだった。顔は丸顔だが、美人かどうかは判らなかった。なぜなら彼女の顔には目隠しがされていて、鼻から上の表情は全然、拝めなかったからだ。

 連行して来た突撃隊員が、彼女を荒々しく拘束椅子に座らせ、手早く手足の拘禁具を締めて、僕と同じく身動きの自由を奪った。拘束作業を終えると、隊員はキビキビと博士に向かって敬礼をして、部屋を出ていった。

 博士は説明を始めた。

「この女性は、ガッツ島と同じく、異常嗜好を矯正する目的で設立されたナデシコ島から連れて来られた。言うまでもなく、彼女は現実の男性より、二次元のキャラクターに恋愛感情を持つという、極めて異常な嗜好を持っている。このような嗜好を持つ女性が増加すれば、日本の将来の出生率に悪い影響を与えるから、ナデシコ島では現実の男性に恋愛感情を持つよう、指導している」

 博士は言葉を切り、皮肉な微笑を浮かべ何度も首を振った。

「しかしながら、この黒木来夢……来る夢と書いて〝らいむ〟と読ませるのだが……まあ、十数年前流行った〝キラキラネーム〟だね。来夢君は、我々の教育指導に関わらず、一切現実の男性に恋愛感情を持とうとしない。そこでわたしにお鉢が回ってきたのだ。この頑固なオタ女に、正常な恋愛感情を抱かせるようにしてくれ、とね」

 それまで一言も喋らなかった黒木来夢という女の子が、初めて口を開き叫んだ。

「そんなの、あたしの勝手じゃないの。誰を好きになろうと、それがアニメやゲームのキャラクターだろうと、なぜそれが悪いことなの?」

 思ったより彼女の声は細く、高く、可愛く、言うならばアニメ声だった。

 それも当然、彼女はアニメ声優だからだ。

 どうやら博士は知らないらしいが、僕は知っていた。黒木来夢はいろんなアニメで活躍する声優で、今どきの声優では珍しく「顔出し」というのはほとんどしなかった。最近演じている、ガンガガンのキャラクターの一人、リームの役は評判が良かったが、それじゃ今は別の声優に代わったのか?

 博士は指を細かく振り「ちっちっちっちっ……」と舌を鳴らした。

「まあそんなことを言っていられるのも、今のうちだ」

 言うなり博士は、素早く来夢の目隠しを剥ぎ取った。

 目隠しを取られた黒木来夢の顔は、どこにでもいる普通の女の子といったものだった。表情には怯えが見え、その分、幼く見えた。

 もっとも僕も同じように怯えているから、他人のことを言えた義理ではないが。

 博士は来夢に向かって、大仰な身振りを交え演説を開始した。

「さて、ここにいる明日辺流可男君。彼もまた、頑固なロリコンだ。自宅の端末にどっさりと、美少女や幼女が登場するアニメ、ゲーム、マンガの同人誌、フィギアのデータを隠し持っていて、その異常な嗜好を矯正すべくこのガッツ島に送り込まれた。が、その脳波は通常のロリコンとはかけ離れているので、わたしの興味を惹くことになる。さて、彼もまた、来夢君と同じく性格矯正が難しい異常嗜好者だろうか?」

 僕は博士の言葉を、一切耳にしていなかった。ただ目の前の、黒木来夢という少女(多分、僕と同じか年下。来夢は年齢を公表していなかった)の目を見詰めているだけだった。

 来夢もまた、僕の目を熱っぽく見詰め、ふっくらとした頬は真っ赤に染まっていた。

 僕らの態度に、博士は戸惑いを見せ、太い眉がぐいっと跳ね上がった。

「どうしたのかね? わたしの理解では、君らは今日が初対面のはずだが」

 真向かいに座る来夢は、大きく息を吸い込み、僕に向かって話し掛けた。

「あなた〝お兄様〟なのね?」

 僕は驚嘆を隠せなかった。

 なんと、この黒木来夢という女の子は、僕の〝妹〟なのだ!

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