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キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~  作者: 万卜人
十二章 バック・トゥ・ザ・オタク
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 集談館の正面入り口には、突撃隊の隊員が二人立哨していて、美登里はちょっと立ち止まった。

 集談館ビルの前には「銀河番長ガンガガン」の番長ロボが、身長20メートルという威容を誇っている。ロボの足元には、わざわざこのために上京してきた地方のツッパリたちが、お互い端末のカメラ機能を使って、自分の姿を記念に写し合っていた。

 ビルの壁面や、ロボの足元にはツッパリたちのために、落書きがいたるところ、書かれていた。

 それらの落書きを目にし、美登里は気分が悪くなった。どういうわけか、ツッパリはまっさらな壁面を見ると本能的に落書きをしたくなるらしい。野良犬が縄張りを主張するため、電柱に小便を掛けるのと同じような習性なのではないかと、美登里は思っていた。

 集談館の社員たちは落書きを目につくたびに消していたが、消しても消しても新たな落書きが付け加えられ追いつかない。

 本当は自家用車で来たかったのだが、アシスタントの一人がどうしても車を貸して欲しいと頼み込んできたので、しかたなく公共交通機関と歩きで集談館にやって来たのだ。

 集談館のエントランスへ向かおうとする美登里に、たむろしていたツッパリたちが独特の「よたり歩き」で近寄ってきた。

 全員ツッパリらしく、頭髪はリーゼント、身に着けている服はジャラジャラと銀製品のアクセサリーが音を立てている。なぜかツッパリたちは、銀製品のアクセサリーがお気に入りだった。

 無視して通り過ぎようとすると、ツッパリたちはさっと横並びになって美登里の行く手を塞いだ。美登里はカッとなったが、声は平静を保って話し掛けた。

「あの……、そこをどいてくれないかしら。集談館に用があるんです」

 ツッパリたちはヘラヘラ笑いながら、お互いの顔を意味ありげに見合った。その中でリーダー格らしき男が、美登里に話し掛けた。

「用があるのはオラたちのほうだっぺ。姉ちゃん、オラたちとちょっくら、付き合ってくれねえけ?」

 男は美登里の見たところ、年齢三十代後半、肥満していてリーゼントの頭髪も薄くなりかかっている。

 最近、ツッパリたちの平均年齢が上がってきている。それまでツッパリの風俗に関心がなかった世代が、急速にツッパリ、ヤンキーの服装に着替え、頭髪もリーゼントにするようになっていた。

「そうだよ、姉ちゃん。あんた凄え、色っぺえだなあ!」

 男たちは田舎くさい方言を使っているが、おそらく全員、東京生まれの東京育ちに違いなかった。

 ツッパリは「だっぺ」言葉を使う、という固定概念に支配され、今まで一度も使ったことのない方言を、あやしげな発音で口にしていた。そうでなくてはツッパリと他人に認められないので、必死になって「だっぺ」言葉を練習しているらしい。

 そのため公共放送の教育番組では、正しい「だっぺ」言葉の講習が放送されていた。美登里を取り囲んでいるツッパリは、そんな俄かツッパリだった。

 彼らの視線は、美登里の胸に集中していた。最初は美登里は、自分の巨大な胸に関心があるのかと思ったが──いや、それも大いにあるだろうが──実際は美登里の胸に着けている「ヲ」バッジにあるのだ。

 ツッパリがオタクの女子に乱暴をしても罪に問われない。

 事実、集談館ビル前に立哨している突撃隊員は、眼前の光景に無視を決め込んでいた。

「ヲ」バッジはオタクと認定されると、着用を義務付けられる。職務質問などで着用していないことが明らかになると、極めて重い罰則を科せられるからオタクたちは嫌々身に着けていた。

 ツッパリたちは「ヲ」バッジを身に着けていた美登里を、格好の獲物と見ているのだ。

 じりじりと美登里は後退した。

 美登里は必死に助けを求め、周囲を見回した。だが通行人はことごとく眼前の光景を無視し、歩き去った。当然だが、警察に連絡する通行人は誰一人存在しない。

「なあ、姉ちゃん、ちょっくらオラたちとお茶すっぺえよ」

 小柄なツッパリが腕を伸ばし、美登里の裾をぐいっと掴んだ。美登里は小さく悲鳴を上げ、男の腕を振り払った。小柄な男の顔に、凶悪そうな怒りが顕わになった。

「何すんだっぺよ! 大人しく、オラたちの言うこと聞くべえよ!」

 そのツッパリは小柄で、美登里の肩ほども背丈はなかった。美登里は身長百七十五センチ、背が高くひどく目立つ美人だった。男はさらに美登里の腕を掴んだ。

 美登里の全身に、男に対するおぞましさが電流のように走った。

「やめてーっ!」

 この時、美登里は自分が何をしたのか憶えていない。

 気が付くと、男は地べたに腹ばいになり、獣のような唸り声を上げていた。

「やったな!」

 ツッパリたちが全員、身構えた。

 美登里の胸に、ツッパリたちに対する敵対心と嫌悪感が燃え上がった。拳を握り締め、美登里の全身に戦闘意欲が漲った。

 その時、哀れっぽい叫び声が聞こえてきた。

「やめて……、やめて下さいーっ!」

 ばたばたと足音が近づき、編集部員の神山が大慌てで近づいてきた。神山は美登里とツッパリの間に割り込み、叫んだ。

「皆さん、お平らに、お平らに!」

「何でえ、お前は?」

 ツッパリたちの怒りの声に、神山はペコペコと何度も頭を下げた。

「あっ、わたくし、少年マックスの編集部員の神山と申します。ここにいらっしゃる崎本美登里先生と打ち合わせのため、待っていたんですが……」

 邪魔されたツッパリたちが、声を荒げた。

「だからなんだ? この女〝ヲ〟バッジを着けているんだろ。だからロリコンマンガを描いているに違いない」

 怒りに、ツッパリたちの「だっぺ」言葉が消えていた。やはり根っからの田舎出身ではなく、東京生まれなんだと美登里は思った。

 神山は大きく顔を左右に振り、ツッパリたちの追及を否定した。

「違います! この崎山先生は、銀河番長ガンガガンの新作マンガをお描きになるお方なんですよ」

 ツッパリたちは一斉に「えっ」と声を上げ、身を引いた。ツッパリたちの反応に力を得て、神山はさらに言葉を重ねた。

「そうなんです。ガンガガンに登場する、リームというキャラクターをご存知でしょう? あのリームを主人公にしたマンガを、崎本先生に描いていただくことに、なっているんです。その崎本先生に対し、あなたたちは何をしようとしているんですか?」

 ツッパリたちは「えへへへへ……」と弱々しく笑いを浮かべ、落ち着きなくお互いの顔を見合わせた。

「そ、そうか……俺たち、知らなかったんだ。それを早くいってくれれば……」

 頭を掻き、愛想笑いを浮かべ、ツッパリたちはヘラヘラ笑いながら後じさった。

「銀河番長ガンガガン」はツッパリたちには圧倒的人気を誇る、国民的マンガだ。その作者に暴力をふるうことは、自分たちの立場を悪くすると、素早く計算を働かせたのだろう。

 ツッパリたちにとって、無謀な冒険は自分たちに得でないとやらない。無謀に見える行為は大得意だが、本当の無謀な行動はまずやらないのがツッパリだ。

「ふーっ!」と大きくため息をつき、神山は腕で額の汗を拭った。

「先生……」

 呼びかけられ、美登里は「はっ」と全身の緊張を解いた。

「先生、大丈夫ですか?」

 美登里は神山に向かって微笑すると、軽く頷いた。

「ええ、有難う。危なかったわ。神山さんが来なかったらどうなっていたか」

「そうですか」

 答える神山だったが、その顔には疑いの色が浮かんでいた。

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