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キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~  作者: 万卜人
十二章 バック・トゥ・ザ・オタク
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「いるいる、突撃隊の連中が正面入り口で見張っている」

 釜飯屋は上機嫌な声を上げ、くつくつと口の中で笑った。顔には仮想現実に接続するためのHMDを被って、表情は口許しか見えないが、面白がっているのは歴然としていた。

 釜飯屋のお気に入りの場所、サンダーバード秘密基地を模した、応接間である。訪問した桃華を、釜飯屋はすぐにこの応接間に通した。

「どうやって見えているの。あんた……」

 目が見えないのに、という言葉を、桃華はあやうく呑み込んだ。

「見えている、というより感じているんだな」

 釜飯屋はHDMを外した。額には平たい冷えピタのようなフィルム状のものがひっついていて、そのフィルムから数本のコードがHDMに繋がっていた。

「このフィルムの内側には、小さな突起が埋め込まれている。カメラで撮影された映像は、即座にドットに変換され、俺の額に小さな刺激として伝わる。解像度は荒いが、慣れれば目が見えていた頃と同じように物の形とか、動きが判るようになる」

 説明しながら、釜飯屋はベリッとフィルムを剥がした。剥がした額には、細かな点の跡が無数についていた。

 釜飯屋の言葉通り、家の内外に設置された防犯カメラの映像が、いくつかの小さなモニターに映し出されていた。モニターには、突撃隊員が執念深そうな視線で、釜飯屋の家を監視している様子が表示されていた。

 釜飯屋の家は、突撃隊の監視対象になっているが、いまだ強制捜査は行われいない。

 なぜなら釜飯屋の趣味は、SF作品に対してであり、美少女やロリータ物は守備範囲ではなかったからだ。しかし桃華や、萩野谷などの中野ブロードウェイ組がしばしば訪れるようになって、突撃隊が常時、監視するようになっている。

「やれやれ、君らが俺の家に遊びに来るようになって、毎日奴らが日参するよ」

 桃華は俯き、小声で答えた。

「御免なさい。迷惑をかけて」

 よせやい! とばかりに、釜飯屋は手を振った。指先を伸ばして、モニターのスイッチを切ると真面目な表情になった。

「ところで君の〝お兄様〟について、詳しく話してくれないか。確か、明日辺流可男とかいう名前だったな」

 流可男の名前が出て、桃華は自分の頬が火照るのを感じた。他人から流可男の名前が発音されるだけでも、桃華は平静でいられなくなる自分を感じていた。

「やはりガッツ島へ送られたようです」

「ガッツ島か……」

 釜飯屋は小さく呟くと、椅子の背に体を預けた。

「不思議だね。モモちゃんと、その高校生はたった一度、顔を合わせただけなんだろう。それなのに、君はその男子高校生に運命的なものを感じている。モモちゃんは流可男君より年上にかかわらず、彼のことを〝お兄様〟と呼んでいる」

 桃華は軽く唇を噛んで、釜飯屋の言葉に同意した。

「あたしも奇妙だとは思っています。でも、心の底から流可男さんはあたしの〝お兄様〟だって……。流可男さんの命令なら、あたしたちは」

「待った!」

 釜飯屋は手を挙げ、桃華を制した。

「あたしたち、と言ったな。他に同じように感じているのは誰だっけ?」

「マンガ家の崎本美登里、美登里さんのマンガを翻訳しているアイリス加藤というアメリカ人の女の子。それに流可男さんの通っている高校の一年生で、双子の新山檸檬、蜜柑という姉妹。あと、ほかに……」

 そこまで名前を挙げて、桃華は首を傾げた。たしかあの場面で、真兼朱美という美少女がいたはず。なんでも流可男の同級生で、幼馴染だと新山姉妹からは説明されたが、彼女の態度は、自分と同じように、流可男に運命的な繋がりを感じているとは思えなかった。

 むしろ朱美が流可男を尻に敷いているように見えて、流可男もその関係に何の疑問も感じていないように思えた。

 一瞬躊躇って、桃華は続けた。

「それに佐々木藍里という女の人」

 ぐいっ、と釜飯屋の眉が吊り上がった。

「その女、君の話を聞いている限り、正体不明だな。本当にゲームから現実世界に転生したというなら、我々の科学知識では補足できない存在だ。一言で説明するなら〝神〟か」

「あたし、これからどうしたら……」

 桃華の呟きに、釜飯屋はなぜか、悪魔的な笑みを浮かべた。

「どうだい、思い切って〝お兄様〟を救い出しちゃ?」

「えっ?」

 驚きに桃華はピクンと顎が上がり、まじまじと釜飯屋を見詰めた。

「俺の勘だがね、明日辺流可男という男子高校生、ただの高校生じゃなさそうだ。突撃隊の隊長の赤田斗紀雄が直々に出張ってきたってことも妙だし、高校生の少年をいきなりガッツ島送りにするなんてことも、前例がない話だ。すべてが明日辺流可男という少年を焦点にして動いているように思える。だから流可男君を助け出せば、何かが変わる。俺はそう思っている」

 猛然と桃華の心に熱い炎が燃え上がった。

 そうだ!

 なぜ、そのことを自分は考えなかったのだろう?

 が、すぐに常識が桃華の炎を消してしまった。

「どうやって? ガッツ島は東京から一千キロも離れた孤島にあるんですよ」

 釜飯屋は冷たく答えた。

「さあね。方法までは俺は知らん。ガッツ島へ行くまで、何を利用すればよいか……。船か? 船は駄目だな。俺は船を動かせないし、船を持っている知り合いもいない。飛行機……、ガッツ島には空港もない……」

 ガックリと肩を落とした桃華に、釜飯屋はいかにもたった今、思いついた、といった調子で話し掛けた。

「まあ、でも、何か手はあるはずだ。あんたら流可男の妹同士で、相談しちゃどうだ」

 桃華の脳裏に、不意に崎本美登里の顔が浮かんだ。相談相手として、美登里は最適な気がした。マンガ家として生活している美登里なら、何か良いアイディアがあるんじゃないかと思ったからだ。

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