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キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~  作者: 万卜人
十二章 バック・トゥ・ザ・オタク
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 尾行されている……。

 松野桃華は全身に緊張を感じ、素知らぬ顔を保ったまま、歩調を変えずに歩き続けた。

 南新宿、甲州街道沿いの歩道を桃華は歩いていた。

 尾行者は桃華の視界に入ってこなかったが、体中の毛穴という毛穴、皮膚感覚で感じ取っていた。姿が見えないといって、絶対に気のせいではなかった。

 真兼モールでの一件以来、桃華の背後には必ず監視の目があった。監視を続ける相手の姿を確認できることもあったが、出来なくとも、桃華は確実に監視者の存在を悟っていた。

 確認できるとき、相手は突撃隊員の姿を取っていた。桃華はそれは、わざと自分の姿を見せびらかし、実は別動隊がこっそり尾行しているのだろうと推理していた。突撃隊の姿が見えなくなっても、確実に自分を監視している目を感じ取っていたからだった。

 これでは喫茶店「アカシア」へ足を向けるわけにはいかない。うっかり尾行者を引き連れて行けば、萩野谷や、良太、腐女子の牧野を巻き込む結果になる。

 それに「オタク祭り」の計画を潰すことになるかも。

 伝説のオタク、釜飯屋と桃華は連絡を取り合い、仮想現実ゲーム「蒸汽帝国」でのSFコンベンション開催を計画している。

 そのため新宿から中央戦で中野に降り、アカシアで落ち合って萩野谷の軽ワンボックスに拾ってもらい、釜飯屋の自宅へ向かう予定だった。

 したがって予定は変えなくてはならない。

 歩きながら桃華は携帯端末を通話モードにした。呼び出し音が短く鳴って、萩野谷の能天気な声が聞こえた。

「やあモモちゃん。みんな集まってるよ」

「御免、行けなくなった。そっちも解散しなさい」

 萩野谷が息を呑む気配があった。それでも萩野谷は一瞬で状況を理解し、平静を取り戻したようだった。

「判った。君も気をつけてな……」

 端末を仕舞った桃華は、素早く考えを巡らせた。

 前方に二人、後方に二人。しかしこれだけではないはず。おそらく、さらに前方に監視者が幾つかのチームを組み、待ち構えていると考えられる。

 真兼町で明日辺流可男という〝お兄様〟の存在を知った後、桃華の感覚は鋭さを増したようだ。格闘の技術も格段に向上し、今では釜飯屋ですら、桃華には適わない。

 桃華は自分にはある使命が与えられていることを、全身で悟っていた。

 ツッパリに対する異常な敵愾心、不正に対する猛然とした正義感。力でもって弱者を押さえつける者に対する怒り。それは以前にもあったが、今ほど強烈に感じたことはなかった。

 弱者を虐げる者。

 それは突撃隊、という形を取って、桃華の眼前に立ちはだかっていた。

 いずれ自分は、突撃隊と全面的に戦うことになる、と桃華は予見していた。

 ちらっと、桃華は周囲の建物を観察した。

 新宿などの繁華街では、建物のあちらこちら、歩道、照明などに監視カメラが設置されている。

 本来は犯罪予防のために設置されたはずだが、今では青少年健全育成突撃隊本部に直結し、最新の画像が随時解析されている。顔認証システムが人間の顔を常に補足し、指名手配のオタクの存在を報告する。

 多分、桃華の顔データも、認証システムに組み込まれているはずだ。桃華は政府による公認オタクではないが、ツッパリ、ヤンキーに対する暴力行為により、監視対象となっているからだ。

 ツッパリ、ヤンキーがオタクをカツアゲしても罪に問われないが、逆は許されない。何しろ政府によってオタクと公認された場合、公民権の停止に始まる様々な人権の制約を受けるからだ。

 一つ、オタクには選挙権がない。投票の権利、候補者になる権利も停止されている。

 一つ、オタクと一般人の結婚は禁止されている。もし一般人との間に子供が生まれたら、その子供は自動的にオタクと認定される。

 一つ、オタクは一般人の利用する、各種の施設への立ち入りが禁止されている。トイレや、映画館、レストラン、デパートなどには「オタクとペットの入店禁止」の貼り紙が表示されている。ゆえに、オタクは買い物はすべてコンビニで済ませる。もっとも、以前からオタクの買い物はコンビニ中心だったので、このことに関する不満は目立たなかった。

 反対に、政府に公認された「根性と気合いの入った」ツッパリ、ヤンキーには様々な特典が提供された。

 例えば税金の一部は「気合い控除」「根性控除」などの名目で免除された。さらに衆人環視のもとでのタイマン勝負を実施すると、地方自治体より表彰され、補助金が交付される。

 進学でも優遇される。

 ツッパリ、ヤンキーと認められれば、進学の際優先的に扱われ、さらに就職にも有利なので、すべての親は子供を男ならツッパリ、女の子ならスケバンに育てるため、必死になっていた。

 こんな世の中、いつまでも続くわけないと桃華は確信していたが、だがどうやって今の体制を倒すのか、五里霧中だった。

 今の体制を倒す?

 桃華は不意に浮かんできた考えに茫然となった。

 もしかしたら、自分の使命は、この世の中を変えることにあるのではないか?

 桃華は足を速め、新宿駅へ向かった。

 こうなったら、直接、釜飯屋のところへ向かおうと思った。追っ手は気にならないと言えば嘘になるが、今のところは自分と釜飯屋の二人だけに注意を集めておけば、他の仲間の活動に目を向けさせないでいられるだろう。

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